Aoshima Side
「大事件ですね」
どこかウキウキしてるような声に、運転席の夏美ちゃんを横目で見る。
運転したいと言うから夏美ちゃんに任せてるけど、彼女の運転も中々荒い。
天井を手で押さえて身体を支えてないと、頭をぶつけそうだ。
現場に着く前に事故にでも遭ったら堪らない。
人の事は全く言えないけど、一応釘を刺す。
「安全運転でね、夏美ちゃん」
「人質はどこかの国の要人なんですよね」
夏美ちゃんの頭の中は事件でいっぱいみたいだ。
「…みたいね」
「なんでそんな偉い人が人質に?警備だってついてたでしょうに」
「さあ?ショッピング中だったって話だけどね…」
羽田空港で人質たてこもり事件。
本店からの要請があって応援に向かうところだった。
そういえば、室井さんの担当は警備局だ。
もしかして今回の事件に関係してるんじゃないのか?
そう思うと、途端に心配になる。
今の室井さんは政治をする立場にいた。
要人になにかあれば、外交問題にもなるだろう。
大変な目に遭ってないといいけど…。
気まずく電話を切ったけど、どうしたって室井さんのことは気になった。
「…さん、青島さんってば」
ふと気付くと、夏美ちゃんが呼んでいた。
「あ、はいはい」
「どうしたんですか?ぼうっとして」
不思議そうな夏美ちゃんに曖昧な笑みを返して、「なんでもない」と誤魔化した。
仕事中だ、目の前の事件に集中しろ。
そう自分に言い聞かせた。
事件の現場である、羽田空港国際線のターミナルに向かった。
あちこちに警察官の姿が目立ち混雑もしているようだけど、エントランスには普通に入れた。
物々しい厳戒態勢を想像していただけに、拍子抜けだ。
「なんか、様子おかしいですね」
「だね…」
夏美ちゃんと首を傾げていると、携帯が鳴った。
署からの電話だった。
「青島です」
『あ、青島君?すみれ』
「お疲れ様、どうしたの?」
『署に戻って来いって、課長が』
「はあ?」
思わず気の抜けた声が出たけど、仕方ないよね。
空港へ向かえと指示されてから、一時間くらいしか経っていない。
本庁の都合で振り回されることは良くあることで、慣れてるけどさ。
着いたばかりで引き返せと言われると、さすがに文句も言いたくなる。
「なにそれ、こっちは今着いたばっかりなんだよ?」
『事件解決』
「え?」
『要人は無事解放、被疑者確保されたってさ』
「あ……そうなの」
本当に気が抜けた。
人質が無事に解放されて、犯人も逮捕された。
これ以上ないくらい朗報だったけど、なんだか物凄く疲れた気がする。
それが声に出てたのか、すみれさんが苦笑する声がした。
『お疲れ様ね』
「全くだよ…まあ、いいんだけどさ。随分、早期解決だったね」
『そうね。こっちにも詳しい情報は下りてきてないんだけど、人質を救い出したのは外務省の人みたいよ』
「外務省?へえ…」
人質が外国の要人だというから外務省が関わっていてもおかしくはないけど、人質を救出したのが警察官じゃないっていうのは驚きだ。
何にせよ、事件は解決したんだ。
室井さんもホッとしてるに違いない。
無駄足にはなったけど、最悪の事態は免れて良かった。
『そういうわけだから、お気の毒だけど』
「りょーかい」
『あ、そうだ。室井さんから電話あったわよ』
「室井さんから?」
ついでのように言われた一言に驚く。
室井さんとはついさっき携帯で話したばかりだ。
事件だからまた改めてと伝えてあった。
それなのに折り返し電話があったということは、急用か?
でも、それなら携帯に掛けてくる気がする。
署に掛けてきたのはなんのためだろう。
行き先を確かめるため?
それこそ、なんのために?
『空港に行ってるって伝えておいたわよ』
「ん?ああ…ありがと」
すみれさんに礼を言って電話を切った。
疑問は残ったけど、そんなことは室井さんにでも聞いてみないと答えは分からない。
だから、考えるのをやめにした。
「どうしたんですか?青島さん」
不思議そうな夏美ちゃんに事情を説明すると、早々に空港を後にした。
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