■ 嫉妬の応酬(1)


Muroi Side


その日、私は羽田空港に居た。
羽田空港がハブ化して初めての海外要人出迎えに出た、自国大臣の警護の一環だった。
警察庁長官官房審議官にも担当がある。
今の私は警備局の担当だった。

青島は当直明けだった。
羽田空港は湾岸署の管轄だ。
警備には臨時で所轄にも人員要請をしていたが、そこに青島は居ないはずだった。


「2分後に大臣が到着される。全警備員は不審人物に注意せよ」
ホテルのVIP専用入り口に配置された人員に指示を出しながら、従業員用の休憩室に設置されたロビー周辺を

映し出す監視モニターに注視する。
出迎えに立った大臣の後ろに控える人物を見て、私の視線は凍りついた。

青島だった。

いつもの出で立ちとはまるで違うスーツ。
髪も短く整えられている。
カバンと一緒に持っているのは見たことの無い黒のコート。
比べてみれば全てが青島とは違う印象だ。
しかし私が青島を見間違えるはずが無かった。

なぜここに?
しかも制服での警護応援ならまだしも、私服のスーツとは。
あんなのクローゼットには無かったはずだ。
私に内緒で用意した?何のために?
胸に嫌な不安が立ちこめる。


要人と大臣が最上階のレストランに入ったのを見届けた私は、青島に声を掛けるべく部屋を出た。
室内での警護は警備局でなく警護課が担当している。
彼は大臣について店には入らなかった。
ならばエントランスで掴まるはずだ。

エレベーターが開くと同時にロビーの向こうに青島を見つけた私は、近づこうとした足を止めた。
青島が立っていた脇の円柱の影から一人の男が現れる。
その男は親しげに青島に歩み寄ると、顔を寄せて何事か話しかけた。
こちらに背を向けている男の顔は判別できない。
広いロビーの端と端。
私と青島の間を無尽蔵に通り過ぎる人の波を透視するように、私は青島と彼を見つめ続ける。
やがて男が促すように青島の背に手を添えると、ロビーを横切るように歩き始めた。
エレベーター前に立ち尽くす私に気づいたのだろう。
私に向かって軽く会釈してきたのは、今回の警護の外務省側の責任者。
邦人テロ対策室の安藤室長だった。
青島もちらりとこちらを見たようだったが、安藤室長に話しかけられ、連れ立って遠ざかっていった。
私の存在など知らないとでもいうように・・・。


なぜ青島がここに居るのか。
なぜ安藤室長と知り合いだったのか。
私に分かることは何も無い。
青島と安藤室長がどんな関係なのかも・・・。


青島を疑うわけではない。
青島が不義を働くと思っているわけではない。
しかしアレは紛れも無く青島だ。
私の愛した青島だ。
ならばなぜ。
私の存在を無視するのだ。
なぜ警察側でなく外務省側に居る。

なぜ。


何事も、うやむやにするのは性に合わない。
青島の口から真実を知りたい。

仕事が終えるのをまんじりともしないままに向かえた私は、青島の携帯に連絡を入れた。

その日、非番であったはずの青島が、携帯電話に出ることは無かった。







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