■ Trust my life to you(3)


真夜中に、青島は目を覚ました。
何だか気持ちが悪い。
夕べは署の連中と忘年会と称して軽く飲みに行ったが、年末の忙しさで皆かなり疲労していたため早々の解散となり、青島自身もそれほど飲んでいなかった。
しかも、先日からの風邪が長引いていることもあり、青島はかなりセーブして飲んだはずだった。
にも関わらず、気持ちが悪い。
青島はベッドから抜けだすと、台所に向かった。
「胃薬、飲んどこ…」
コップに水を汲んでいると、締め付けられるような痛みを胃に感じた。
「…っ」
―吐く。
瞬時に思った青島は、胃を押さえてすぐにトイレに向かった。

胃の中の物を出し切ってしまうと、とりあえず吐き気は治まった。
だが、胃がムカムカするのはしばらく治らないだろう。
トイレから出ると、今度こそ台所で水を汲む。
数回うがいをしてから、水を飲んだ。
「はぁ……っ、げほっごほっ」
また咳が止まらず、いい加減肺が苦しかった。
涙目になりながら咳き込んでいた青島は、シンクに乗り出すように身体を倒した。
再び吐き気を感じたのだが、どうせ胃の中は空っぽなのだ。
出るのは胃液だけである。
そう思って咳を繰り返した青島は、シンクに落ちた赤い液体にぎょっとした。
「げほっ……はっ……」
浅い呼吸を繰り返して、手の甲で口元を拭う。
「…ま、さか…血?」
手の甲に付着した血に、青島は愕然とした。
体調不良は自覚していたが、吐血するほど悪いなんて思ってもいなかった。
風邪を悪化させたくらいにしか思っていなかったのだ。
―え?ええ?な、なんで?血…俺、何で血吐いたの?
動揺が激しくて、中々思考が追いつかない。
―風邪や疲労だけじゃないのか?確かにこのところずっと調子が悪いけど。
まさか、病気?
青島の頭を嫌な考えが過った。
そういえば、魚住があれほど勧める健康診断にも行っていない。
こんなことなら面倒くさがらずちゃんと検診に行っておくべきだったと思った。
青島はなんとなくドアを見た。
室井の部屋に続いているドアだ。
こんな夜中だから、室井は寝ているはずだ。
青島は思わず室井に縋りたくなってしまったから、ドアを見たのだ。
それに気が付いて自嘲する。
「…バカだな、俺」
起こして「血を吐いた」などと言うわけにもいかない。
言ったところでどうにもならない。
室井に迷惑と心配を掛けるだけである。
ドアを見つめたまま、青島は血で汚れた手で胸元を押さえた。
―どうしよう…。


青島は、休暇を取ってとりあえず病院に行った。
行きたくはなかったが、病院に行くのが怖いなどとは言っていられない。
吐血したのだから、それなりの理由があるはずだ。
ただの風邪だったら、血を吐くわけがない。
検査の結果が出るのは数日後だと言われて、青島は落ち着かないまま帰宅した。
「……」
ソファーに座って、深い溜息を吐いた。
大きな病気だったらどうしよう。
それこそ、命にかかわるような。
青島は病院からの帰り道、そんなことをずっと考えていた。
29年生きてきて、病気らしい病気はしたことがない。
そのせいか、思考が悪い方悪い方へいってしまう。
「まさか、ね」
自分を元気付けるように言って笑ってみるが、乾いた笑いが部屋に響いて虚しくなる。
「……はぁ」
溜息を吐くと、ちらりと室井の部屋と繋がったドアを見た。
青島が帰宅したときに外から見たが、まだ電気がついていなかった。
―もし…もし、俺が病気だったとしたら…。
不吉な考えが頭を過ぎって、唇を噛んだ。
そのままドアを見つめていた青島は、不意のノックにビクリと身体を強張らせた。
「青島?帰ってるのか?」
ドアの向こうから、室井の声がする。
どうやら青島に少し遅れて帰宅したらしい。
青島は慌てて返事を返した。
「あ、はい、いますよ」
「開けるぞ」
一言断ってから、室井はドアを開けた。
スーツ姿のままの室井に、青島は笑顔を作った。
「お疲れ様です」
「お疲れ様…病院に行ったのか?」
青島の表情が固まった。
「湾岸署に用事があって行ったら、病院に行くから休むと連絡があったと聞いたんだが」
課長には「風邪を引いたから病院に行ってくる」と言って休みを貰っていた。
青島はニコッと笑う。
「あんまりしつこい風邪なんで、観念して病院に行って来ました」
言い草が可笑しかったのか、室井は苦笑している。
「そうか。それで?やはり風邪だったのか?」
「ええ…」
風邪というのは嘘ではない。
病院で風邪薬も貰ってきている。
他に悪い所があるかもしれないので、検査をしてきたのだ。
「あ、コーヒーでも飲みます?それともビールにしますか?」
さすがに今日は飲酒する気にはならなかった。
気分的にもだが、何より胃が受け付けそうにない。
コーヒーすら無理そうだった。
室井がビールを飲む分には一向に構わなかったが、室井が一人で飲むわけもなかった。
二人分のコーヒーを入れて、自分のカップには牛乳をたっぷり入れて、カフェオレにする。
これなら何とか飲めそうだった。
ソファーに座った室井にカップを渡すと、律儀に礼が返ってくる。
隣に座った青島のカップの中を見て、室井は少し眉を顰めた。
「珍しいな…そんなに体調悪いのか?」
「大したことないんですけどね」
曖昧に笑って、誤魔化す。
だが、室井の眉間の皺は消えない。
「顔色が悪いぞ」
「もー、大丈夫ですって」
心配性なんだからと言って声を立てて笑うと、同時に咳が出る。
「げほっ」
慌てて、カップをテーブルの上に置いた。
「どこが大丈夫なんだ…」
室井が背中を優しく摩ってくれる。
「いや…ごほっ」
「無理して喋るな」
息が苦しくて涙目になりながら室井を見ると、真剣な眼差しとぶつかる。
室井が本当に自分を心配してくれていることが分かる。
それは、背中にある暖かい手の平からも伝わってきた。
「少し熱っぽいな…今日はもう寝た方がいい」
「……」
「お粥作ってやるから、薬を飲んで」
「室井さん」
青島が室井の言葉を遮ると、室井が小さく笑った。
「心配しなくても、ここにいるから」
一瞬何のことを言っているのか分からなかった。
額にキスをされて、ようやく気が付いた。
この間二人で飲んだときに青島が「帰るな」と駄々を捏ねたことを、室井は覚えていたのだ。
そして、その時と同じく、傍にいてくれると言っているのだ。
「お粥、作ってくる」
胃を押さえていた青島の手に軽く触れて、室井が立ち上がった。
青島はすぐに室井の腕を掴んだ。
ゆっくりと室井を見上げると、室井が目を見開いた。
青島の目が涙目だったからだ。
「あ、青島?どうした?身体、辛いのか?」
慌てた様子で、室井は青島の額に触れてくる。
その優しい手の感触に、更に泣きそうになった。
「青島?」
「室井さん」
「うん?」
「俺…病気かもしれない…」
室井が息を飲む音が響いた。










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2005.1.10

あとがき


ラスクリっぽくなってきました…かね?(苦笑)
精神的に室井さんに対する依存度が高そうな青島君になってしまいました。
ほら、病気の時って、妙に心細いですからね!(凄い言い訳だな)

ええと、病気に関する知識が皆無なもので、
おかしな点があっても笑って読み流してやってください;
お願い致します。
あ、後。この話に限らないのですが、英語のタイトルはみんな怪しいです。
笑って読み流してやって頂けると嬉しいです。
英語は苦手でなるべくタイトルに使わないようにしてるのですが〜(^^;



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