「酷いと思いません?」
青島が缶ビール片手にぼやくと、室井は苦笑した。
「結局バレちゃったのか」
「ええ…」
青島は複雑な表情を浮かべた。
室井とこの先も付き合っていくのなら、遅かれ早かれすみれにはバレたと思う。
そうは思うが、あの後散々からかわれたせいで、すみれに知られてしまったことを悔やまずにはいられなかった。
それを室井に話すと、室井は苦笑を深めた。
「そうか…災難だったな」
「室井さん、ひと事だと思ってる場合じゃないですよ」
「?」
「うちの署ですみれさんと顔を合わせたら、室井さんも同じ目にあいますよ」
すみれにとって、キャリアであることなどたいした問題ではない。
玉の輿を狙える相手なら別かもしれないが。
室井の表情が少し強張る。
「そうか…」
「覚悟、してくださいね」
「望むところだ」
真剣な顔で頷くから、青島はつい吹き出した。
「いや、そんなに気合入れなくても大丈夫ですけどね」
いくらすみれだって取って食うわけではない。
からかわれて、多少おもちゃにされるくらいだ。
充分イヤだが。
「げほっ」
ビールを煽っていた青島が、不意に咳き込んだ。
「おい、大丈夫か?」
室井が慌てて背中を摩ってくれるが、それでも咳はすぐには止まらず、何度か繰り返した。
「え、ええ…すいません、大丈夫です」
ようやく落ち着くと、青島は室井に詫びて深呼吸をした。
「変な咳してるな。風邪か?」
「かもしれないっす。ここのところ忙しいから…」
「……」
室井は黙って、青島の手から缶ビールを取り上げた。
「あ、大丈夫ですって!」
「飲酒なんかしてる場合じゃないだろう。さっさと寝たほうがいい」
言いながら早速テーブルの上を片付け始める室井に、青島は不満げに唇を尖らせた。
「全然大丈夫ですよ、咳が出るだけですから」
「初期症状のうちに治しておかないと、長引くぞ」
「平気ですってば」
室井が片付けようとした缶を掴むと、室井はいささか呆れた表情になった。
「今日くらい我慢しろ」
「別にビールが飲みたいわけじゃっ」
呆れられたことに抗議しようと思ったのだが、余計なことを口走ってしまった。
ハッと口を閉ざした青島を、室井が訝しげに見てくる。
「それなら、いいじゃないか」
「…そうなんですけど」
「…?」
「ビ、ビールはいいんですけど」
「ああ。だったら、早く寝た方が…」
「だからっ」
「何だ」
「室井さんが良くないんですってばっ」
ヤケクソ気味に叫ぶと、室井が目を丸くした。
青島だって突飛なことを言っている自覚はあるのだが、それが事実なのだから仕方が無い。
ビールはそのまま下げてもらっても構わないが、室井まで下がってもらっちゃ困るのだ。
つまりはそういうことだ。
青島は気まずさに視線を逸らす。
「…それは、つまり?」
どこまでもはっきり言わないと通じないらしく、青島はソッポを向いたまま言った。
「もうちょっと、居てくださいって言ってるんです」
「!」
いくら鈍い室井でも、こうもはっきり言われて分からないわけはないだろう。
短い沈黙の後、不意に室井に引き寄せられた。
目の前に広がる室井のシャツで、抱き締められていることを認識した。
少し驚いて身を硬くしたが、嫌なわけではないのでそのまま大人しく身を任せる。
「…身体、ちょっと、熱い、ような、気がする」
途切れ途切れに言われて、青島はふっと笑った。
視線を持ち上げて室井を見ると難しい表情をしていたから、青島は更に笑みを深めた。
室井も緊張しているのだろうと思う。
まだ、キス以上の触れ合いはない。
「そうですかね?少し酒が入ってて気持ち良くはありますけど」
言われてみると少しだるい気もしたが、微熱程度なら一晩寝てしまえば治るだろうし、青島はそんなことよりもう少し室井と一緒にいたかった。
「…やっぱり、寝たほうがいい」
「うー…」
駄々っ子のように唸ると、室井の胸が震えた。
緊張が解けたのか、笑っているらしい。
前髪をかき上げられ、むき出しになった額に軽くキスされる。
「寝付くまで、ここにいるから」
ちょっと考えてから、それならいいか…などと現金にも思った。
結局それから二時間程、室井は青島に付き合って傍にいてくれた。
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