■ Festival(前編)


昨夜、室井からメールが届いていた。
『昼休み、一緒に食べないか?』
初めてのお誘いである。
互いに仲の良い級友もいるので、昼食を一緒に食べたりしたことは無かった。
このところ室井が忙しくて、一緒に過ごす時間が極端に減っている。
体育祭が近いのだ。
その準備に追われていて、話す隙も殆ど無かった。
学年が違うとこういう時は特に痛い。
寂しいが室井が忙しいのを知っていたから、青島も生徒会室に遊びに行くのは控えていた。
だから、室井からのお誘いはとても嬉しかった。


昼休みに約束した屋上へ向かうと、既に室井が来ていた。
久しぶりに会う恋人に、青島は自然と笑みを零した。
青島に気が付いた室井が、小さく微笑み返してくれる。
「急にすまない」
「気にしないでくださいよ。嬉しかったし」
照れ笑いを浮かべながら、室井の横に腰を下ろす。
フェンス越しに校庭が見えた。
昼休みが始まったばかりで、今は無人である。
もう少し時間が経ったら、イベント好きで張り切っているクラスの生徒たちが、校庭に出て来て練習を始めたりする。
幸い青島のクラスは、練習するほどの熱意はない。
かといって盛り上がっていないわけでもなく、女子がお揃いのTシャツを作ったりしているようだった。
青島は屋上に来る途中に購買で買ってきた焼きそばパンを頬張る。
ふと室井を見ると、母親が作ったと思われるお弁当を手にしていた。
彩りのキレイなお弁当を、思わず覗き込む。
「な、何だ?」
「美味そうっすね〜。室井さんのお母さん、料理上手そう」
「…そうか?」
室井は自分の弁当を見ながら首を傾げている。
「うちの母さんなんて、冷凍食品ばっかの癖に、週の半分くらいは面倒臭がってコレですよ」
言いながらパンを持ち上げた。
青島の母親も弁当は作ってくれるのだが、結構な手抜きだ。
最近の冷凍食品は美味いからそれは構わないのだが、母親が良く寝坊をするので青島が毎日弁当を持ってくることはない。
週の半分は五百円を渡されて、購買でパンやらおにぎりを買っている。
室井は苦笑した。
「何と言うか…君の母親らしいな」
「それは、どういう意味ですか」
「気にするな」
「気になりますよ」
むぅっと膨れながら、青島は牛乳のストローを咥えた。
「……体育祭、何に出るんだ?」
あからさまな会話のすり替えに、青島は呆れを通り越して内心苦笑する。
もうちょっとさりげなく出来ないものかと思うが、それが出来る室井は室井ではない。
生徒会長などを任されて完璧に見える室井だが、完璧じゃないところがたまらなく好きだった。
青島はニコッと笑うと、室井の質問に答える。
「100mと、200mと、リレーと、騎馬戦と、障害物と…後なんだっけな?」
首を捻った青島に、室井は目を剥いた。
「ちょっと待て。ほとんど全部じゃないのか?」
「ですかね〜?」
青島は肩を竦める。
「体育で計った記録を見たら、俺のが一番良かったみたいで、あれもこれも出てくれって頼まれちゃって」
決まりとして一人一回はどれかの種目に参加しなければならないことになっている。
各種目のクラスの選手枠は決まっているが、クラス全員が参加しているのなら、後は同じ人が何種目掛け持ちしても良いことになっているのだ。
そんなわけで、青島は覚えきれないだけの種目に出ることになっていた。
「…大丈夫か?」
眉間に皺を寄せた室井に、青島は胸を張って見せた。
「え〜?俺、これでも運動神経には自信があるんですよ」
「君が運動神経がいいのは知ってる。じゃなくて」
「はい?」
「キツイだろう、体力的に。無理はしない方がいい」
単純に心配してくれているらしい。
青島は嬉しさを隠しもしないで笑った。
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
「ならいいが」
「室井さんは?何に出るんですか?」
室井は卵焼きを箸で掴んで、青島に差し出してくる。
遠慮なく口を開けると、放り込まれた。
甘い卵焼きだ。
「美味い」
くぐもった声で言うと室井は小さく笑った。
「俺は100と、リレーだけだ」
「あれ?意外」
卵焼きを飲み込むとちょっと目を丸くする。
室井のことだから、もう少し出番があると思っていたのだ。
青島の「意外」の意味を悟ったらしく、室井は溜息をついた。
「生徒会は当日ほとんど本部に詰めてるからな。あまり出られないんだ」
「ああ…そっか。実行委員ですもんね」
学内行事となれば、当然主催は生徒会である。
当日も忙しいに決まっている。
だが、青島は少し残念だった。
「そっか、残念だなぁ」
「何が?」
「室井さんの勇姿、もっと見れると思ったのに」
ぽつりと零すと、室井が目を剥いた。
それに青島は照れ笑いを浮かべる。
「なんてね」
えへへ…と笑うと、室井が遠慮がちに手を伸ばしてきた。
頬に触れられて、ハッとする。
近付いてきた室井の目を見て、慌てて目を閉じた。
一気に頬が熱くなる。
室井の唇が触れる直前に大きな声がして、二人は慌てて離れた。
何事かと思ったが、何のことはない。
校庭に生徒たちが出てきたらしく、その笑い声だったのだ。
「び、びっくりしましたね」
「そうだな」
気まずい沈黙が下りる。
ちらりと室井を盗み見ると、難しい表情をしてあらぬ方を向いていた。
照れているらしい。
青島は頬を掻いた。
ちょっと考えて、「あっ」と呟く。
それに反応して、室井がこちらを向いた。
その隙に青島は身を乗り出す。
目を見開いている室井の唇を軽く奪うと、すぐに離れた。
頬が異常に熱かったが、気にしないことにする。
「二回目」
ピースを作ると、照れ笑いを零した。
室井とのキスはこれが二回目。
初めては室井からだったが、二回目は青島からということになった。
驚いた顔をしていた室井だが、やがて苦笑した。
「そうだな」
室井がまた手を伸ばしてくる。
今度は躊躇わずに頬に触れてきた。
室井の優しい眼差しを見つめ返し、触れ合う直前にそっと瞳を閉じる。
青島の背中がフェンスにぶつかって、小さな音を立てた。
実際はほんの数秒。
だけど、青島にはやけに長く感じられた。
唇に触れていた暖かい感触が無くなってから、青島はそっと瞼を持ち上げた。
至近距離に室井を捕らえて、ただでさえうるさい鼓動が更に激しくなった気がした。
「三回目、だな」
室井の照れ臭そうな顔を見ながら、ぼんやりと思った。
―いつかこれに、室井さんとのキスに、慣れる日が来るのかな。
「…飯、食べないと、昼休みが終わってしまうな」
青島から身体を離すと、また強引に話しを変える。
青島は吹き出しそうになるのをこらえながら、牛乳に手を伸ばした。
「いくつまで、数えられるかなぁ」
思わず呟いた言葉。
返事は期待していなかったが、少しの間の後、小さな呟きが返ってきた。
「すぐに数え切れなくなる」
室井は決して青島の方を向こうとしなかったが、意味は無かった。
青島も室井を見ていられなかったから。


体育祭は、もうすぐ。
それ自体はとても楽しみだ。
身体を動かすことは好きだし、イベント事は嫌いじゃない。
室井の勇姿も、きっと見られる。
だけどそれよりも。
青島は室井と一緒にいられる日常が早く欲しかった。










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2005.4.1

あとがき


きゃー恥ずかしい!(笑)

というわけで、那智様から頂いた49000HITリクで「学園パラレルでイベント物」です。
イベントは何にしようか悩んだのですが、とりあえず体育祭にしてみました。
高校生など何分遠い昔なので、あやふやな設定で申し訳ありません(^^;
そしていつにもまして少女漫画でごめんなさい…(笑)
時間軸で言うと、一つ前の青島君風邪ネタよりも前かもしれません。
室井さんが初々しすぎるから(大笑)

酷いタイトルで申し訳ありません…かなり悩んだのですが…(滝汗)
ちなみに体育祭は「field day」だそうです。
あまりにもあまりなので、お祭りということで「Festival」にしました。

那智様、遅くなって申し訳ありませんでした!
最後までお付き合い頂けると幸いです。



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