■ Sign(6)


「今日泊まりに行ってもいいか」
室井は口に運びかけたグラスを止め、無言で一倉を見た。
偶々本庁で顔を会わせた一倉に誘われ、飲みに来ていた最中だった。
無言でも眉間の皺を見れば、返事は伝わるらしい。
一倉が苦笑した。
「そんなに嫌がるなよ」
「なんでお前を泊めなくちゃならない」
「同期だぞ、仲良くやろうじゃないか」
何が仲良くだ白々しいと精一杯白い目で見てやったが、そんなことで堪える一倉ではない。
平然と笑っている。
「かみさんがね、娘を連れて実家に帰ってるんだ」
「とうとう愛想を尽かされたのか」
真顔で言ったら、さすがに嫌そうな顔をした。
傍若無人で厚顔無恥な友人だと思っているが、愛妻家で娘を溺愛しているところだけは、一倉を評価していた。
「ただの里帰だよ」
「そうか」
そんなところだろうとは思っていたので、そっけなく頷く。
一倉と違って室井には人をからかって遊ぶ趣味はない。
家族が里帰りしているからこそ、室井を飲みに誘ったのかもしれない。
だからと言って、室井の自宅に泊まる必要は全くないが。
「たまには旧友を深めるのもいいだろ?」
確かにそれはいいことかもしれないが、相手が一倉だと素直に頷けない。
「結構だ」
きっぱりと断わる。
「友だち甲斐のないやつだな」
「旧友なら、今深めただろ」
適当に言って日本酒を煽る室井に、一倉はわざとらしく溜め息をついた。
「なるほど、お前は青島しか泊めたくないわけだな?」
目を剥いた室井に、ニヤリと笑って見せる。
「青島はたまに泊めてやるんだろ?」
室井はむっつりとした。
同じ官舎住まいの一倉が「泊めてくれ」とらしくもないことを言い出したのが、ただのフリに過ぎなかったことに気が付いたのだ。
本当にしたかったのは、青島の話しだったようだ。
青島を泊めるたびに一倉にわざわざ報告するようなマネはしていないが、一度目撃されているせいか一倉はそうと決めつけていた。
また、それが事実だから始末が悪い。
青島は度々室井の部屋に泊まっているし、室井も青島を泊めることには抵抗がなかった。
だが、素直に認めるわけにもいかない。
下手ないいわけでもしておくべきだろう。
「終電がなくなった時くらいだ」
嘘ではないが、それだけというわけでもない。
室井は好んで青島を泊めているのだ。
青島がいる状況にすっかり慣れてしまっている自分を自覚してもいた。
そんなことを一倉に言っても仕方がない。
一倉はニヤニヤしたまま、頬杖をついた。
「それでも泊めてやってんだろ?青島を泊めてやれて、俺を泊められない理由でもあんのか?」
そう聞かれて、室井は眉間の皺を深くした。
意表をついた質問ではあった。
思わず答えを探してみれば、一倉を泊められない理由があるのではなく、青島だから泊める理由があるような気がした。
青島と一緒にいることは、楽しいと感じている。
青島を泊めることに抵抗がないのは、だからだろうか。
だが、それが一倉の言うところの理由になるのかどうか、分からなかった。
同期で曲がりなりにも友人である一倉を泊めるのには難色を示すくせに、青島を泊めることには全く抵抗がない。
それがどういうことかは室井にも良く分からず、考えれば考えるほど眉間に皺が寄った。
「お前、青島のこと本当に好きなんだなぁ」
しみじみと言われて、室井はまた目を剥いた。
「ばかばかしい」と、あの時のように言い捨ててしまえば良いのだ。
馬鹿なことを言うな、青島をそんな目で見たことなどない、そう言いたかった。
それなのに、動揺が激しくて言葉が出なかった。
一倉が苦笑している。
「お前が気に入ってるのは分かるし、まぁ理解もできるよ」
理解できると言われ、室井の眉がピクリと動く。
「本来の意味の警察官として、正しいのはあいつだと思わなくもないさ」
警察官という言葉を聞いて、室井の身体が熱くなった。
一倉の言葉を取り違えていたことに気が付いた。
なにも一倉は室井が深い意味で青島を好いていると言ったわけではなかったのだ。
警察官として。
普通に考えれば当然のことだったのに、室井は勝手に深読みしていた。
その勘違いに気付いて、身体が熱くなった。
一倉が続ける。
「だが、俺たちは立場が違うんだ。青島に肩入れしすぎて、足をすくわれるなよ」
結局は、室井のことを心配してくれているらしい。
「…分かってる」
大きなお世話だとは言えなかった。
室井が所轄に共感するたび、上が室井を煙たく思うことは分かっている。
だからこそ、早く出世しなくてはと思っていた。
青島との約束を果たすためにも。
室井は酒を煽ると空になったグラスをテーブルに置いた。
胸ポケットで携帯電話が鳴る。
ディスプレイを見て、また眉間に皺が寄った。
嫌な電話だったわけではなく、一倉の前で電話に出たくなかっただけだ。
噂をすれば影ではないが、あまりにタイムリーだった。
室井は一倉に断って席を立つと、店の外に出た。

携帯電話をじっと見つめ、通話ボタンを押す。
「…はい」
『あ、青島です、お疲れ様ですー』
電話の向こうから、少し疲れたような青島の声がした。
「お疲れ様、どうした?」
『いやぁ、あのぉ…室井さん、今、外ですよね?』
携帯電話が周囲の雑音を拾うのか、青島が遠慮がちに聞いてくる。
「そうだが」
『ああ…じゃあ無理かなぁ…』
ガッカリしたのか、疲れた声から益々元気がなくなる。
室井は首を傾げた。
「どうかしたのか?」
『んー、いや、大したことじゃないんで』
「いいから言え」
思わず命令口調になり、言い直した。
「なんだか分からないが、言うだけ言ってくれ」
ここで言葉を濁されれば、何かあったのかと心配になる。
話してもらえれば、もしかしたら何かの役に立てるかもしれないのだ。
そう思って促すと、青島が電話の向こうで少し笑った。
『ええとですね、鍵を落としちゃって』
「鍵?自宅のか」
『ええ。管理会社に連絡しようにも、夜中でしょ?明日電話しようと思ってんですけど、とりあえず今日家に入れなくて…』
自宅に入れなくて困って室井に電話をしてきたということは、室井の自宅に泊めてもらおうとしていたのだろう。
なんといっても、歯ブラシが置いてあるくらいである。
そういうふうに自宅に入れず困った時に、青島が室井を頼ってもおかしくはなかった。
室井もそれが不愉快ではなかったし、今更青島を泊めることになんの問題もないが、今はちょっと困った。
一倉がいる。
一倉を追い返して青島を泊めるとなれば、一倉に知られた場合何を言われるか分かったものではない。
どうしたものかと思案していると、青島が言った。
『室井さん外みたいだし、気にしないでいいですからね。一晩くらい、どうとでもなりますから』
「当てがあるのか?」
『んー、まあ、ぼちぼち。最悪、署に帰って仮眠室で寝たっていいですしね』
大丈夫大丈夫と笑う青島だったが、室井はなおも悩む。
青島の言う通り、一晩くらいどうとでもなるだろう。
湾岸署の連中の自宅に泊めてもらうこともできるだろうし、青島のことだから一晩くらい泊めてくれる友人もいるかもしれないし、青島の言う通り湾岸署に戻れば休むことくらいできるはずだ。
だが、折角室井を頼ってくれたというのに、大した理由でもない理由で断るのは気が引けた。
青島が困っているのなら、部屋に泊めてやりたい。
そう思っていたから、悩んでいるのだ。
―一倉を追い返せばいいか。
要は一倉に青島が泊まることを知られなければいいのだと思い直した。
「いや、俺ももう家に帰るところだから、家に来るといい」
室井が言うと、青島が少し困った声を出した。
『でも、大丈夫っすか?なんか用事あるなら、本当…』
「平気だ、一倉と少し飲んでいただけだ」
『一倉さんと?』
「もう帰るところだから」
気にしないで来いと言いかけたが言い切る前に、背後から携帯電話を取り上げられた。
驚いて振り返れば、いつの間に外に出て来たのか一倉が立っていて、室井は目を剥いた。
一倉がにやりと笑って電話に出る。
「おいっ」
「青島か?一倉だ。久しぶりだな」
携帯電話を取り返そうとする室井を適当にあしらい、青島に話しかける。
電話の向こうで慌てたような青島の声がしたが、何を話しているのかまでは室井には聞こえなかった。
「ん?ああ、気にすんなよ、もう帰るとこだったんだ。どうかしたのか?」
青島から事情を聞き出している一倉に、室井は眉間に皺を寄せて深い溜め息をついた。
こうなっては諦めて、一倉が飽きるまで待つより他にない。
可哀想だが、青島にもタイミングが悪かったと思って付き合ってもらうしかなかった。
「はは、ばかだなー。それで、室井の家にか?…ああ、来いよ、俺も泊めてもらう予定だったんだ」
お前も来いよと誘う一倉に、室井はげんなりした顔になった。
「誰がお前を泊めると言った」
一倉は涼しい顔で笑ってみせると、室井には構わず青島と話しを続けた。
「なんだよ、遠慮するなって。室井がいいって言ってんだから、遠慮しないで来いよ」
青島を説得しているような口調になった。
どうやら、電話の向こうで青島が遠慮しているらしい。
それはそうだろう。
室井と同期の官僚で、青島にとっては上司にあたる一倉も泊まるといえば、青島だって遠慮するはずだ。
室井は一倉から携帯電話を奪い取った。
「青島」
『あ、室井さん』
室井が電話に出たことで安心したのか、青島の声が明らかにほっとしている。
『あの、一倉さんが泊まるんだったら、尚更俺は』
「気にしなくていい、一倉は勝手に泊まると言ってるだけなんだ、放っておいていい」
『いや、でも…』
放っておいていいと言われても、青島も困るだろう。
困惑している青島に、室井は眉間に皺をよせてきっぱりと言った。
「いいから来い」
一倉は放っておいていいと思えたが、青島をそうは思えなかった。
何故一倉を泊めるのに青島を追い返さなければならないのだとさえ思った。
そこまで青島に執着しておきながら、その理由には全く思い至っていなかった。
困っている青島を、放っておきたくない。
今の室井は、ただそれだけだった。
『じゃ、じゃあ、お邪魔しようかな…』
そう言った青島は、室井の勢いに押されて頷いたようだった。


室井たちに遅れること10分程度で、青島も室井の自宅にやってきた。
今は床に腰を下ろし、所在なげに煙草を咥えている。
一倉はソファーに座っていた。
室井の部屋に、青島と一倉がいる。
勝手に来た一倉はともかく、青島は室井が「来い」と言ったにも関わらず、感じる違和感。
室井は知らぬ間に眉間に皺を寄せていた。
「遠慮しないで飲めよ」
一倉が青島に缶ビールを勧めている。
帰りがけにコンビニで買ってきたものだった。
「あ…ありがとうございます」
青島はちょっと笑ってそれを受け取った。
その顔を見て、疲れているのだろうかと室井は思った。
少し元気がないように見える。
時計を見れば、もうすぐ日付が変わるような時間であった。
「今日も残業だったのか?」
室井も缶ビールを片手に床に腰を下ろした。
「大丈夫か?疲れて見えるが…」
青島は照れたように笑って頬を撫ぜた。
「そうっすか?疲れが顔に出るなんて、俺も歳かなぁ」
笑った顔に、やっぱり疲労が見える。
「なんならもう寝てもいいんだぞ」
少しくらいの酒なら寝酒になっていいかもしれないが、無理に付き合わせるのも可哀想だ。
室井の気遣いに笑いながら、青島は開けた缶ビールを掲げて見せた。
「これだけ、もらって寝ます」
「そうか」
「すいません、突然邪魔して…一倉さんも」
「俺は構わないさ、室井の部屋だしな」
笑みを浮かべる一倉に、室井は無言で全くだと思った。
「俺の方こそ悪いな、余計なものがいて」
「いや、それこそ室井さんちだし、俺の方こそ余計でしょう」
「そんなことはないだろ。お前の方が、室井と仲が良い」
青島が目を丸くし、室井は眉間に皺を寄せ嫌そうな顔をした。
「そういう言い方はやめろ」
「事実だろ。良く室井の家に来るんだって?」
後半は青島に向かって問うもので、青島は戸惑ったように一倉と室井に視線を寄越した。
「まぁ…時々お世話になってますけど…」
「ほらな?俺が泊まるって言ったら、コイツ嫌がるんだよ」
「当たり前だ、何でお前を喜んで泊めなきゃならない」
室井が思わず突っ込むと、一倉は室井を見て口角を上げた。
「青島なら喜んで泊めるくせに」
室井の顔が強張る。
またその話しかと思ったが、青島本人を目の前にしてする話しではなかった。
面を食らったような顔をしている青島の方は見ず、室井は一倉を睨んだ。
「そういう言い方はするなと言ってるだろ」
青島が変に思ったらどうするんだ、そんなことだけ考えていた。
一倉は肩を竦めた。
「だって、お前、俺を泊めるのは無碍に断ったくせに、青島はあっさりオーケーしたじゃないか」
「お前を泊める理由がないからだ。同じ官舎だろ、部屋に帰れ」
「言ったろ、嫁と娘がいなくて寂しいんだよ」
「お前も一緒に実家に帰れ」
「な?この扱いだよ」
わざとらしく溜め息をついて、一倉は青島に言った。
青島は目を瞬かせていたが、苦笑気味に笑った。
「十分一倉さんも室井さんと仲良しじゃない」
室井の眉間に深い深い溝ができて、口に出すまでもなく不本意と語っていた。
どうも一倉を交えて会話をしていると、話しが変な方向に行く。
もうさっさと寝てしまうべきかもしれない。
ここにきて、一つ問題があることに気付いた。
「ところで」
室井は徐に話題を変えた。
「来客用の布団は一組しかないんだが」
独身の一人暮らしで泊まりにくる人などほとんどおらず、時々酔っ払った青島が泊まる程度だから、予備の布団など沢山あるわけがない。
誰か一人はソファーに寝てもらうしかなかった。
青島は吸っていた煙草を消した。
「俺はソファーを貸してください」
布団がなければそうするしかないと、容易に想像がついたのだろう。
室井も、そうするべきなんだろうなと思った。
こんなところで上下関係を発揮させるわけではないが、部屋の主が室井で、同期の一倉と部下の青島がいれば、青島がソファーに寝るのは当然だった。
ただ、寝床を借りに来たはずの青島をソファーに寝かすのも、気がひけた。
ソファーで寝たのでは、疲れもあまりとれないかもしれない。
泊まりに来いと言ったのは室井の方なのに、申し訳なくも思った。
だからといって、室井が青島にベッドを譲るのは不自然な気がする。
譲ってやっても構わないと思っている自分自身が既に不自然な気がした。
「一つの布団で二人で寝ればいいんじゃないか?」
躊躇している室井に気付いたのか、単にふざけているのか、一倉が提案した。
「それは狭いでしょ、さすがに」
「一晩くらいなんとかなるだろ」
なんとかならないことはないだろうが、そうなると誰が誰と一緒に寝ると言うのか。
「ま、居候同士だしな。一緒に寝るか?青島」
酷くあっさりと誘われて青島は目を丸くしたが、それよりも内心驚いていたのは室井の方だった。
―青島と寝る?
―一倉が…?
それは想像し難く、実感が湧かない提案だった。
もっと言えば、何かが不快ですらあった。
それが何かが分からないでいるうちに、青島が苦笑した。
「二人とも図体デカイんだから、窮屈ですよ」
「なら、室井と寝るか?」
「お断りだ」
考える隙もなく即答すると、一倉が笑った。
「俺がじゃなくて、青島がだよ」
それには青島も室井も目を剥いた。
確かにシングルの布団に二人で寝るとしたら、一倉と青島が寝るより、青島と室井が寝た方が良いのかもしれない。
だがそれはどうなんだろうと考える隙もなく、今度は青島が即答した。
「いいからいいから、二人が布団使ってください」
伸びをして、枕代わりのつもりかクッションを抱える。
「俺、どこでも寝れますから」
気は引ける。
だけど、やはりそうしてもらうのが一番自然だった。
結局、室井と一倉は青島をリビングに残し、布団で眠ることになった。


ふと目を覚ました。
枕元にあった腕時計を引き寄せて見れば、四時をいくらか過ぎている。
眠れなかったわけではないが眠りは浅かったようで、変な時間に目覚めたわりに頭ははっきりとしていた。
起き上がると、室井のベッドの横に布団を敷いて眠っている一倉を見下ろす。
寝入りばなに多少鼾を掻いていたが、今は静かなものだった。
起こさないようにそっとベッドから降り、寝室を出る。
薄暗いリビングに入ると、青島がソファーに座りぼんやりと煙草を吹かしていた。
ドアを閉める音で室井に気付いたのか、室井を振り返り驚いた顔をした。
「室井さん」
「寝れないのか?」
「…室井さんこそ」
こんな時間に起きているのは、室井も一緒だった。
室井は眉間に皺を寄せ、青島の隣に腰を下ろした。
「喉が渇いて目が覚めた」
別に青島のことが気になったから起きてきたわけではない。
聞かれてもいないのに、心の中で弁解する。
無意味に心の中で弁解しているくせに青島本人にそれを言うこともできず、益々無意味だった。
「眠れないのか?」
もう一度尋ねると、青島は苦笑して肩を竦めた。
「んなこともないんですけどね、なんか目が覚めちゃったから」
ちょっと一服と言って、手にしていた煙草を見せてくる。
煙草を吸ったら余計に目が覚めるのではないかと思ったが、余計なことは聞かなかった。
「やはりソファーじゃ、寝辛いんじゃないのか?」
「どこでも寝れるって言ったでしょ?大丈夫っすよ」
ソファーをポンポンと叩き笑う。
「室井さんちのソファー、寝心地いいし」
俺んちにも欲しいなぁと呟くから、青島の部屋にはソファーがないらしい。
青島の部屋には行ったことがなかった。
どんな部屋に住んでいるんだろう。
どうでもいいことが、少し気になった。
「室井さん」
声をかけられて青島の顔を見ると、青島は何故か少し目を伏せた。
浮かない顔をしているなと思った。
思えば、今日は会った時からずっと浮かない顔をしていた気がした。
「どうかしたのか?」
そっと尋ねる。
室井に何か話したいことがあるのではないかと思った。
根拠はなく、ただ室井がそんなふうに感じただけだったが。
青島は視線を逸らしたまま、前を向いた。
両膝の上に肘を乗せ、顎に手を当てて首を振る。
「いや、なんでもないです」
「青島?」
「何を言おうとしたか、忘れちゃった」
悪戯っぽく横目で室井を見る。
ただ口にするのを躊躇っただけ。
室井の目にはそう見えたが、見えただけで確証はない。
「そうか」
「すいません」
「思い出したら、話してくれ」
「……室井さん」
青島が咥え煙草で笑った。
「水飲みに来たんじゃないの?」
室井の眉間に皺が寄る。
可笑しそうに笑う青島を軽くこずいた。
「これから飲むんだ」
「そうっすか」
「君はベッドに行って寝ろ」
きょとんとした青島に、交代だと告げる。
室井がソファーで寝るから、青島にはベッドを使えと言う。
後三時間くらいしか寝られないが、少しくらい熟睡できた方がいいだろう。
室井の意図を理解したのか、青島が慌てて首を振る。
「いいっすよ、そんなの」
「いいから、早く行け」
なんとなく照れくさくて、俺は眠いんだとそっけなく言う。
青島はしばらく室井の顔を凝視していたが、煙草を消すとまた目を伏せた。
俯いているせいで表情は見えない。
少しの間の後、顔をあげると室井を見て小さく笑った。
「室井さん、本当俺に甘い」
「……」
そんなことはないと言おうとして、そんなことがないこともないのかもしれないと思い押し黙る。
青島にまた「なんで?」と聞かれたら、「慣れたから」と答えるのか「世話がやけるから」と答えるのか。
考えてみたが、どっちでもいい気がした。
どちらも間違っておらず、どちらも正解ではない気がしたからだ。
それだけが理由ではなく、きっともっと他に理由がある。
そんな気はしていたが、その理由が相変わらず分からないでいる。
だから答えようがなかった。
だが、青島はそれ以上何も聞かなかった。
「じゃあ、ありがたく借りようかな」
「ああ」
青島は立ち上がると、室井を見下ろした。
「おやすみなさい」
顔には相変わらず小さな笑みが浮かんでいる。
おやすみと返した室井には、青島の笑みが少しだけ寂しそうに見えていた。










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2008.7.13

あとがき


室井さんが酒ばっかり飲んでてすみません…;
いや、ちゃんと忙しく働いてるんですよ?
私が書いてないだけでっ(書け)
酔っ払った青島君が切欠のお話なので、
お酒と絡めていこうという気持ちもあったのですが〜。
それにしたって、飲んでるところ、
もしくは飲んだ翌朝ばっかり書いてる気がします。

室井さんがイライラするくらい鈍いですね!
私のせいですけどね!(自信満々に言うことか)
青島君と一倉さんが同衾(…)なんかしたらイヤなくせに!
本当は自分がしたいくせに!←それは私(いや、本当に)


なんだかシリアスなんだかそうでないんだか分からないお話に
なってしまいました(^^;
いつものことですかね。
すみません…。



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