んだ。
病室はすみれが教えてくれたので、真っ直ぐ病室に向かう。
病室の前にはすみれが立っていた。
室井を待っていたらしく、室井の姿を見ると駆け寄ってくる。
「青島は?」
堪らず尋ねると、すみれは疲れた表情で目を伏せた。
「命に別状は無いわ」
それは電話でも聞いていた。
もちろんそれが一番重要なことで、命に別状がないのならとりあえずは安心できる。
だが、後遺症が残ったり、刑事に復帰できないような怪我であれば、それは青島にとっても室井
にとっても大きな問題である。
室井は厳しい表情を崩さない。
「怪我の具合は?どこを刺されたんだ?」
そう尋ねると、すみれが口元を手で覆ったから、嫌な予感がする。
「・・・・・・目をね、真横に」
室井は絶句した。
言葉を無くした室井に、すみれは言葉を濁して痛ましそうな視線を寄こした。
「・・・・・・傍に、行ってあげて」
短く硬直していた室井は、すみれに促されてようやく動き出す。
ノックをして病室に入ると、青島はベッドの上にいた。
上半身を起こして座っている青島は、両目を覆うように包帯を巻かれていた。
それを見て、室井は息を飲む。
「えーと・・・・・・誰ですか?」
青島が声を掛けてきた。
ノックはしても名乗っていないから、当然目を覆われた青島には室井が見えない。
尤も覆われていてなくても、見えないのだろうが・・・。
室井は呆然としたまま、青島の傍に寄った。
真っ暗な視界の中、声も無く近寄る人の気配に、青島は少し緊張をしているようだった。
身を硬くしている青島の手にそっと触れると、青島の体が少しだけ跳ねた。
驚かせたらしい。
だが、すぐに緊張を解く。
「あ、室井さんでしょ?」
「・・・なんで分かった?」
「勘?」
口元に笑みが浮かんでいる。
室井は胸を締め付けられるような思いだった。
視力を失ってショックじゃないわけがない。
室井に気を使ってくれているのかもしれない。
そう思うと、堪らなくなって青島を抱きしめた。
「む、むろいさん?」
「こんなことが無くても」
「はい?」
「ずっと一緒だけど」
「・・・・・・?」
「これからも変わらずに傍にいるから」
抱きしめる腕に力を込めた。
青島がそっと抱き返してくる。
「室井さん・・・」
「心配いらない。一緒に頑張ろう」
「室井さん」
青島が慌てたように、室井の名を呼んだ。
「何か、誤解してませんか?」
困ったような青島の声に、少しだけ身体を離す。
目が覆われてしまっているので、表情は良く分からなかった。
「誤解?」
「ええ・・・もしかして、俺が失明したと思ってません?」
言われて、室井は目を剥いた。
「違うのか!?」
驚愕した室井に、青島も驚愕した。
「ち、違いますよ!」
「目を真横に切られたと・・・」
「幸いなことに瞼だけで済んだんです!眼球は無事ですよ!」
妙な沈黙が降りる。
「・・・後少し深かったらやばかったんだそうですけど。抜糸が済めば元通りになるそうです」
室井は間抜けなことに、口をポカンと開けたまま一言も発せられなかった。
ほっとした。
そして、ものすごく気が抜けたのだ。
青島が口元だけで苦笑する。
「どうしてそんな誤解を?」
「あ、ああ・・・恩田君が」
「あら。誰も、失明したとは言ってないわよ」
突然現れたすみれに室井も青島もぎょっとして、慌てて離れる。
すみれは何を今更とばかりに気にも留めない。
室井は悪びれずに笑っているすみれに、さすがにムッとする。
「大丈夫だとも言わなかっただろう」
「さすがに人が悪いよ、すみれさん」
青島も困ったように言う。
確かに、冗談にしても酷すぎる。
室井が青島をどれだけ心配しているかなど、すみれも良く分かっているだろうに。
だが、すみれは胸を張って室井を睨みつけた。
青島を睨みつけなかったのは、見えていない青島を睨んでも意味がないからだ。
「青島君が切りつけられた瞬間、傍にいた私の身にもなってよ。本当に失明したかと思ったのよ」
憮然と主張するすみれに、室井も青島もすぐには返事が出来なかった。
「どんな思いで、それを見てたか分かる?」
室井を睨むすみれの目は涙目だった。
目の前で青島が切られて、一番動揺したのもショックを受けたのもすみれだっただろう。
「室井さんにもちょっとくらい同じ思いをさせてやろうと思ったのよ。性格悪くてごめんなさい」
ふんとそっぽを向くすみれに、室井はもう怒りを感じてはなかった。
「すみれさん・・・」
「あんまり簡単に怪我しないでよ。室井さんも、ちゃんとしつけて」
「分かった」
「はい・・・・・・。分かったってどういうこと、室井さん」
すみれに素直に返事をして、室井に文句を言う青島。
すみれはそんな二人に苦笑した。
「じゃあ、私。署に帰るね。室井さん、悪いんだけど青島君家まで送ってってくれる?」
「構わないが、もう帰っていいのか?」
これはどちらにともなく尋ねると、青島が首を竦めた。
「ええ、抜糸するまで不自由なんですけど、至って健康体ですから。入院する必要ないらしいです」
「そんなわけで、後よろしくお願いします」
すみれは室井に言うと、さっさと病室を出て行った。
彼女は彼女なりに気を使ってくれているのだ。
しんとした病室で、室井の息を吐く音が響く。
「・・・また心配掛けて」
思わず漏れた恨み言に、青島がさすがに小さくなって謝罪を寄こした。
「すいません」
「もういい。・・・・・・無事で良かった」
ベッドの端に腰を掛けて手を伸ばし、青島の頭をくしゃりと掻き混ぜる。
青島は口元に笑みを浮かべた。
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(2004.9.30)
『LOVERS』ネタです。本当に書いちゃいました・・・。
書きたかったのは、視覚を失っている設定でのキスです。
ただそれだけです!
それ以外、特に意味のある話ではないです!(おい)
ですので、瞼を切っているのに即日退院はありなのか?とか、
青島君一人暮らしなのに抜糸するまでどうするのよ?とか、
聞かないで頂けるとありがたいです・・・(^^;