一倉氏の受難(2)










青島と飲み行くのは初めてだった。

もちろん室井と三人で、だ。

渋る室井を強引に頷かせて、三人で飲みに行くことを承知させたのだ。

何故かといえば、そんなことはからかうために決まっている。

無表情を装っている室井と、明らかに困惑気味の青島、それから上機嫌な一倉。

余計なことを言うなと室井に口酸っぱく言われているが、一倉から余計な発言を取るとかなり無

口な男になってしまう。

「どっちからだったんだ?」

何が、とは聞くまでもない。

室井が眉間に皺を寄せ、青島が頬を掻きながら一倉から顔を背けた。

「何でお前に言わなきゃいけなんだ」

「口止め料」

眉間の皺が深くなるのを、一倉はにやにやしながら見ていた。

もちろん本当に脅すつもりなんかない。

そこまで腐ってはいない。

室井も本気にはしていないから、返事が返ってこない。

「いいじゃねぇか。減るもんでもないし」

「減る。確実に減る」

「お前ら、惚気る相手もいないだろうが。俺に惚気とけって言ってんだよ」

親切だろう?と言うと、室井に胡乱げに睨まれ、青島に呆れた顔で見られた。

そんなことで堪える一倉ではない。

「んで?どっちからなんだ?」

引く気が全く無い一倉に諦めたのか、青島が口を開いた。

「俺からですよ」

室井が驚いて青島を見る。

「青島?」

「確かに減るもんじゃないですしね。それに言わないと帰れない気が・・・」

後半ぼそぼそと呟く青島に、室井は首を振った。

「そうじゃなくて。・・・・・・俺からだろ」

「はい?」

「俺から、言った」

今度は青島が驚く。

「え?違うでしょ。俺からでしょ?」

「違う、俺だ」

「ええ?だって」

どうやら二人ともが自分から告白したと思っているらしい。

どんな告白をすればそんなすれ違いが生じるのか分からないが、尋ねた一倉をそっちのけで揉め

だす二人。

一倉は余計なことを聞いたことを早くも後悔し始めていた。

「俺が言ったら、室井さんも「俺も」って」

「違う。君が言う前に、俺が一度言ってる。それから」

「ええ?違う違う。室井さん何も言ってくれなくて」

「それこそ、違う。俺を何回も伝えようとしたんだが、上手く伝わらな」

「えええ?あれ、告白だったんですか!?」

「・・・そうだ」

「あ、え・・・と、あれが告白に入るなら、俺だって」

「いや、俺が」

「だって・・・」

「でも・・・」

赤面しつつ言い合う中年男性二人組を眺めながら、一倉は心の中でテーブルをひっくり返した。

―やってられるか。

一倉の心中だが、余計なことを聞きだそうとしたのは一倉である。

テーブルをひっくり返すわけにもいかない。

仕方なく大人な対応にでる。

「切欠はなんだったんだ?」

話題変更という手を使ってみた。

だが、話題が悪かったことに一倉が気がつくまでそう掛からなかった。

二人はまた顔を見合わせた。

「切欠・・・」

「それは、俺も聞きたい」

ぎょっとしている青島に、室井が真剣な顔で見つめている。

どうやら、そこはお互いに触れたことが無かったらしい。

「自分で言うのもなんだが、好きになってもらえるような出会い方じゃなかったはずだが」

出会った頃の自分を後悔しているのか、眉間に皺が寄っている。

青島が苦笑する。

「あははは、名刺見てもくれなかったし?」

「そこには触れないでくれ。激しく後悔してるんだ」

苦虫を噛み潰したような顔をしている室井に、青島は屈託無く笑った。

「確かにあの時は室井さん・・・てか、キャリア組みんな大嫌いでしたよ〜」

「青島、そんな朗らかに言わないでくれ」

「警察がどんなところか全然知らなかったしね。勝手に夢見てたところあったから、結構失望し

てたし」

失望で終わらないのが、青島のすごいところである。

室井と警察を変えようと約束しているのだから。

「・・・それで、何故」

複雑な表情をしている室井。

あんな出会いで何故自分に好感が持てたのか、不思議で仕方が無いのだろう。

「それを言ったら、室井さんもそうでしょ?何もしらない所轄の刑事があれこれうざかったでしょ」

「・・・確かに、初めはな」

「やっぱり」

苦笑する青島を室井は真摯に見つめた。

「でも、すぐに惹かれた。君の何があっても揺らがない信念に」

「!」

「それから、真っ直ぐな瞳に」

青島が音を立てる勢いで、赤面した。

それを見ながら、一倉は気が遠くなりそうだった。

―良くそんなこっ恥ずかしい台詞を真顔で吐けるな・・・。こいつ、こんなキャラだったか?

そう思いながら室井を見るが、至極真剣な表情である。

「君は」

「お、俺ですか?」

「俺は言ったぞ」

「・・・似たようなもんですよ」

照れくさいのか言葉を濁す青島に、室井が不満そうな顔をした。

「ちゃんと言え」

「・・・だからっ」

「ちょっと待て」

静止をしたのは、一倉だった。

声を掛けて、席を立つ。

「一倉?」

「一倉さん?」

不思議顔の二人に、一倉は堂々と嘘を吐いた。

「急用を思い出した。誘っておいて悪いが、先に帰らせてもらうぞ。ここは俺の奢りだ」

テーブルに適当な金額の金を置く。

せめてもの償いである。

誘っておいて勝手な話だと思う。

話を聞きだそうとしておいて最後まで聞かないのも失礼な話だと思う。

だが、どうしても耐えられなかったのだ。

目の前でバカップルが―しかも一人は友人である、いちゃいちゃしているのが。

これ以上ここにいたら、本気でテーブルをひっくり返してしまうかもしれない。

呆気にとられる二人に軽く挨拶をして、一倉は一人店を出た。

そして、心に誓う。

―もう二度と興味本位でバカップルの間に首を突っ込まないぞ。































NEXT

(2004.9.13)


一倉さん、自業自得ですね(笑)
バカップルには関わらないのが一番です・・・。

室井さんと青島君は、いつケンカするんだろう・・・(おい)
二人のケンカよりも振り回される一倉さんがメインになりそうです。