■ 鬼ごっこ・その後(2)


「ご馳走さまでした」
夕飯を済ませて駅に着くと、青島が室井に頭を下げた。
室井は苦笑する。
「大したものじゃないがな」
「いいえ〜とんでもない!上手かったですよ」
この次は俺がご馳走しますね、と笑う。
嬉しそうな青島の笑顔を見るのは心地いい。
笑顔に微笑で応えながら、室井の気持ちには不安があった。
女性相手だと室井が金を出すことが多くそれが当たり前だったが、青島との付き合いは割り勘だったり奢ったり奢られたりだ。
もちろん青島は男で女性と同じく扱うつもりはないし、奢ったり奢られたりの関係は気楽でいい。
だが恋人になる前の付き合い方と何ら変わりのない付き合い方に、満足しているわけではない。
青島を好きだと自覚してからは、彼に踏み込みたいという気持ちが強いのだ。
あれから三ヶ月も経ったが、キスすらあの時以来ない。
どうにかしたいとは思うのだが―。
「室井さん?」
ぼんやりとしていた室井に、青島が不思議そうな顔をしている。
ちらりと視線を青島に向ける。
じっと見つめると、青島が愛想笑いを浮かべて視線を逸らした。
「いや……じゃあ、また」
室井が本当に言いたい台詞を飲み込むと、ほんの少しだけ青島が力を抜くのが分かる。
別れ際に、青島は緊張するらしかった。
誘ってくるかもしれないと思って、緊張しているのだろう。
室井が誘えずにいる理由は、これだった。
青島に気付かれない程度にそっと息をつく。
「あ、はい。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言って、手を振って別れる。
ここ何回かのデート―と呼べるかどうかは分からないが、別れ際はいつもこんな感じだった。



嫌がられているとは思っていない。
青島が真剣に自分を想ってくれていたことは、ちゃんと理解している。
こんなに短期間で心変わりしたとは思えないし、また思いたくもない。
室井が告白した時、性急すぎて拒まれた。
確かに好きだと気付いた途端に押し倒した自分自身にも呆れる。
だから、青島が望んでくれるまで待とうとは思っているのだ。
青島が室井の気持ちが動くのを待ってくれたように。
そうは思っているのだが、何分大前提として青島と両思いであるという意識がある。
いつまで我慢できるかどうかは、実は自信が無かった。
室井だって男である。
好きな人がいて、その人も自分を好きでいてくれるのなら、触れたいと思うに決まっている。
何度も誘おうと思ったが、その度に緊張する青島を見て、言葉を飲み込んだ。
また拒まれたら室井だって辛い。
それ以上に、次に誘ったら、青島が嫌だったとしても拒めないんじゃないかとも思う。
青島のことは、出来るだけ傷つけたくない。
付き合う前には、室井が鈍感なせいで辛い思いもさせたと思うし、誤解で泣かせもした。
だからこそ、慎重に大事にしたいと思うのだ。
その思いとストレートな欲望が相反していることが、室井の目下の悩みである。










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2004.8.26

あとがき


短くなってしまいましたが、室井さんサイドです。
お互い微妙に誤解してますね…。

紳士室井さん。またはヘタレ室井さん(笑)
たまにはガバッと押し倒してくれてもいいのですが〜。



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