■ 悪いのはどっち?(2)


すみれが刑事課に戻ってくると、袴田が慌てていた。
「青島君、いないのー?」
どうやら青島を探しているらしい。
困っている様子の袴田に、すみれは声をかける。
「青島君なら、さっき着替えに行ったらしいですよ?」
先程廊下で雪乃と真下とすれ違って、ちらっと話を聞いたのだ。
何でも雨に当たってずぶ濡れになってしまったらしい。
それを教えてやると、袴田は近くにいた森下に青島を呼んでくるように言いつけた。
「何かあったんですか?事件?」
バタバタと刑事課を出て行く森下を見送って、すみれは首を傾げた。
袴田が憂鬱そうに首を振る。
「いや、今署長のところに…」
言いかけたところで、刑事課に袴田が慌てていた原因が入ってくる。
すみれもすぐに理由が分かった。
新城の姿を見て。
「これは、新城補佐官!今、青島を呼びに行っておりますので…」
袴田が慌てて飛んでいく。
それに無言で頷く新城。
すみれはちょっとうんざりしたように肩を竦めた。
「また雑用押し付ける気ですか?」
「こら、すみれ君!」
袴田が慌てて注意をしてくるが、すみれにはどこ吹く風と言った感じだ。
新城はそのすみれを横目でちらっと見た。
「この後本庁に用事があるんだ。そこまで送らせるだけだ」
「やっぱり雑用じゃない」
「お前に送ってもらうわけじゃないだろう」
「じゃあ、なんでわざわざ青島君なんですかー?」
これはすみれの意地悪だ。
新城が青島に少なからず興味を持っていることは知っていた。
だから新城は湾岸署にくると、大抵の雑用を青島に押し付けたがる。
本人は気に入らない人間だからこき使ってやっているつもりらしいが、すみれの目には気になるから傍に置いておきたがっているようにしか見えない。
などとすみれに思われていることなど知らないのであろう、新城は何食わぬ顔で平然としている。
「使い勝手がいいからだ」
「あら、青島君のこと認めてるわけ?」
「訂正する。雑用を言いつけるのに勝手がいいんだ」
すみれを睨みながら新城がそう言うと、背後で恨めしげな声がした。
「…そういう言い方は無いと思いますけど」
新城の暴言には大分耐性ができたが、腹が立たないわけではないのであろう。
複雑な表情をした青島が背後に立っていた。
すみれは急に現れた青島に驚いた。
が、もっと驚いたのは新城の方だったようだ。
目を剥き、酷く焦っている。
「な、なんで…っ」
「は?なんでって…新城さんが呼んだんでしょ?」
正確には呼んだのは袴田だったのだが、慌てた森下に「新城が」と言われて来たのかもしれない。
しかし、新城が言いたかったのはそんなことじゃないらしい。
「なんでそんな格好なんだ!」
そんな、とは青島の服装を指しているらしい。
それだけで、すみれは新城が何に焦っているのかが分かった気がした。
青島は何がなんだか分からずに、怪訝そうな顔をしている。
「そんなって…制服ですよ?別におかしかないでしょ」
青島が着替えてきたのは、ロッカーに放置してあった制服だ。
滅多に着る事もないので、新品同様である。
確かに署内で警察官が警察の制服を着ているのだから、新城が目を剥くほど驚くようなことではないはずだ。
「雨に当たっちゃいましてね、仕方なくですよ」
首にかけたタオルで、まだ濡れている髪から滴り落ちる水滴を拭う。
新城の顔が心持赤くなったのは、すみれの気のせいではないはずだ。
「そ、それは、分かったが、それ…っ」
余程動揺しているのか、一向に要領を得ない新城の発言に、青島は怪訝を通り越して心配そうであった。
「大丈夫ですか?」
青島は珍しくも新城の様子を気にしたようで、首を傾けて新城の顔を覗きこんだ。
ぎょっとしながらも、新城が声を荒げた。
「お前っ、それはっ」
「だからなんですかぁ」
「だらしないから、制服くらいちゃんと着ろ!」
言いたかったことはそれだったらしく、青島は阿呆みたいにぽかんと口をあけ、すみれは吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
青島は自分の姿と新城を見比べて、肩を竦めた。
「つーか、新城さんが大至急なんて言うからでしょ。俺着替えの途中だったのに…」
制服のシャツも上着も袖を通しただけで、ボタンは全開である。
ズボンはさすがにちゃんと履いているが、ベルトは留まっていない。
挙句、髪の毛は濡れたままだから…。
見ようによっては、結構いかがわしい。
「いいから!早くちゃんと着替えて来い!」
新城は目を逸らしながら、刑事課の外へと指をさした。
青島に更衣室に戻ってちゃんと支度して来いと言っているのだ。
「いいですよ、もう。ボタン留めればすぐ出れますから」
本庁まで送ればいいんですよねーなどと確認する青島を無視して、新城は再度刑事課の外を指差した。
「髪も乾かして来い!」
「風邪引いたりしませんよ」
「そうじゃなくて!」
「は?」
「…っ!だから、だらしがないと言ってる!」
「そんなこと言われても、更衣室にドライヤーなんかないですよ」
だらしないだらしないと言われてさすがに気に障ったのか、膨れっ面をする青島。
埒が明かず言葉を必死に探している新城。
傍観しているすみれはかなり楽しかったのだが、これは助けてやるべきだろうと思った。
新城のためでもあるが、青島のためでもある。
―本庁に向かう途中に車の中で襲われても困るしね。
さらっと失礼なことを思いながら、すれみは青島の背中を軽く押した。
「ほらほら、新城さんの言うとおり!警察官は公務員!だらしない格好でうろうろしてたら、市民に示しがつかないでしょ」
「そりゃあそうだけどさぁ」
「乾いたタオルで拭くだけでも違うから、ああ、ポタポタ垂れてる」
首からかけたタオルでそれを押さえながら、青島はすみれを見下ろした。
「いくらバカでも風邪引くわよ?」
「…失敬な」
そう言いつつも、すみれに逆らわないというのが身体に染み付いているのか、青島は渋々と刑事課を出て行った。
それを見送った新城が、ホッと小さく息をついたことをすみれは見逃さない。
「新城さん」
すみれが声をかけると、新城はいつもの無表情を取り繕った。
「何だ」
「鼻血」
新城は慌てて鼻の下に手を当てる。
「うっそー」
「!」
すみれは笑いながら新城から離れていった。










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2004.7.22

あとがき


キャリアの皆さんが妙に阿呆です(笑)
青島君にメロメロ(?)ですね〜。
このお話が終わるまで、きっと青島君の頭は疑問符だらけ。
「皆、何かおかしいな、今日は…」くらいに思ってます。
こりゃあ、悪いのは本格的に青島君だなぁ。


このシリーズ書くの、妙に楽しいです。
なんでかな…。

ああ、青島君がモッテモテだからか(笑)
きっと私は青島君至上主義です〜。


一人で楽しんでたら、申し訳ありません(^^;



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