■ 鬼ごっこ(1)


「……もう一回言って貰えないか?」
室井は痛む頭を押さえて、笑顔の青島に尋ねた。
聞き取れなかったというより脳が受け取りを拒否したのだと、室井は思う。


「俺、室井さんが好きです」


笑みを絶やさずに青島は先程と寸部の違い無く言ってのけた。
「ご希望なら、何度でも言いますよ?」
微笑まれて、室井は慌てて拒否する。
「いや、もう結構」
何度言われたって、脳が受け取りを拒否するのでは一緒である。
室井は根本的な確認をしてみることにした。
「私は男なのだが?」
「嫌だな。知ってますよ、そんなこと」
「…見た限り、君も男だと思うのだが?」
「俺が女に見えたら、一度精密検査した方が良いです」
どうやら、室井の認識と事実関係に間違いはないらしい。
「…君は同性愛者なのか?」
室井は同性愛者を差別する気持ちなど持ち合わせてはいない。
同じ趣向の人間同士が交際するのなら、問題は無いだろうと思う。
思うが、それはあくまでも「同じ趣向の人間同士」の話で、自分とは関係ない次元の話である。
だから、青島が自分に言っていることがすぐには理解できない。
「一度でも同姓を好きになったことがある人間をそう呼ぶなら、答えはYESでしょうね」
まるで他人事のような青島の発言に、室井は軽くうな垂れた。
「でも」
「…何だ?」
青島が何かを言いかけたので、室井は律儀に顔を上げて聞き返した。
「今のとこ、室井さんだけですけどね」
室井は絶句した。
青島があまりにも鮮やかに微笑むから。
―なんて顔をするんだ。
室井は慌てて、視線を逸らす。
引き込まれたわけではない。
ただ、驚いただけ。
誰に言い訳する必要もないのに、室井は自分に言い聞かせた。
そして、さっさとお断りするべきだと判断する。
引き伸ばしたっていいことは一つも無い。
「…申し訳ないが」
「あ、いいです、返事は。今のところ」
重い口を何とか開いたというのに、謝罪の途中で青島に遮られてしまう。
返事がいらないのならそれはそれで有難いのだが、「今のところ」という件が気になる。
「…………と、言うと?」
不安に思いながら尋ねると、青島はちょっと凄みのある笑みを見せた。
何か企んでいるような。
嫌な予感のする室井に、一言。


「覚悟、してくださいね?」










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2004.6.11

あとがき


上総桂様から8000HITのリクエストを頂きました。
「逃げる室井さん、追う青島君」というリクエストでした。

上総様、申し訳ありません!
長くなりそうなので、連載にしてしまいました(汗)
少しだけお付き合いくださいませ!


微妙に最初っからヤラレてるくさい室井さん(笑)
本当は「こいつちょっと苦手なんだよなぁ〜」くらいから始めたかったのですが、
それほど大きな室井さんの心境の変化を書ききる自信も無かったもので…。
結局「青島は好きだけど、恋人になるのはちょっと…」と思っている室井さんになりました。



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