Roadshow(4)


「青島君、彼女できたの?」
箸の先から、鳥の唐揚げが転がり落ちた。
すみれはハッと手元を見たが、唐揚げが落ちた先が取り皿の上でほっとした。
床に転がりでもしていたら、青島の皿の上の唐揚げを奪い取っているところである。
唐揚げの無事を確認し安堵しているすみれに、青島は苦笑していた。
青島と二人、仕事帰りの達磨で一杯やりながらの打ち明け話だった。
「そんなに驚くこと?俺に彼女ができたくらいで」
確かに、青島はそれなりにもてる。
相貌は整っているし、スタイルも良い。
時々補導してきた女子高生や摘発してきた風俗嬢にまで、カワイイカッコイイとからかわれている。
少々軽いが明るい性格だし、基本的には女子に優しい。
警察官でなければ、もっともてていたかもしれない。
素直にそう思うから、青島に恋人が出来たこと自体はそれほど驚くようなことではないはずだった。
では、すみれは何に驚いたのか。
自分でもよく分からない。
漠然とした違和感を覚えたが、それがはっきりとしなかった。
ただ、一つ安心した。
(やっぱり室井さんとは何でもなかったのね、良かった良かった)
余計な心配をしてしまったと反省しつつ、同僚の春の訪れを喜んでやる。
「良かったじゃない」
「まあね」
「どこで知り合ったの?」
「真下主催の合コン」
「ああ…」
そういえば、つい最近真下が青島を合コンに誘っているのを目撃した。
真下は青島をダシに婦警との合コンの約束を取り付けてくることもあるくらいで、そういう意味でも真下は後から入ってきたこの歳上の先輩を頼っているらしい。
だが、その合コンで相手を見つけたのは青島だったようだ。
「いくつの子?」
「23」
「ちょっと、青島君の相手にしちゃ若くない?」
「俺もそう思ったけど、青島さん若く見えるから平気って言ってたよ」
「あ、そ…何してる子?」
「ええと、アパレル関係とか?」
「とかって何よ、ショップの店員?」
「だと思うけど」
「家は?」
「まだ行ったことないよ」
「場所くらい知ってるんでしょうね」
「もちろん、大体は」
なんだか恋人のことを語るにしては、返答が淡々としている。
先ほど感じた違和感はこれのせいだろうか。
青島に浮かれたところが一つもないのだ。
青島のことだから彼女が出来れば嬉しげに自慢の一つもしそうなものだが。
すみれの疑問を感じとったわけではないのだろうが、青島は苦笑し肩を竦めた。
「まあ、最近付き合いだしたばっかりだしね。まだ彼女のことよく知らないんだよ」
合コンで知り合ったのならそういうこともあるだろうと、すみれも納得した。
どうやら青島が淡々として見えるのは、青島が彼女に惹かれてアプローチしたわけではないからのようだ。
合コンで見初められたのは青島の方であり、青島も憎からず思ったから受け入れたということなのかもしれない。
「彼女、可愛い?」
「うん、可愛いよ」
この質問には、さすがに少し照れくさそうに笑った。
その顔を見て、すみれはまた安堵した。
青島は彼女とこれから始めるところなのだ。
うまくいけばいいと思った。
「とりあえず、おめでとう」
グラスを掲げて見せると、青島はありがとと笑って自分のグラスを合わせた。
「すみれさんはどうなの、最近は」
自分の話はこれで終了とばかりに、青島がすみれに振ってくる。
すみれはわざとに顔をしかめた。
「嫌なこと聞くわね」
罰として唐揚げ没収と言って、結局青島の皿から唐揚げを奪い取る。
青島は呆れた顔をしたが、諦めているのか奪い返しには来なかった。
「すみれさんは、まずその食いしん坊を治した方がいいかもね」
「病気みたいに言わないでくれる?てか、見合いの席では大人しくしてるわよー」
回し蹴りを披露した経験もなくはないが、それはイレギュラーである。
「あーあ、どっかにかっこよくて優しくてお金持ってる独身男性がおっこちてないかなあ」
すみれの素直なぼやきに青島は苦笑した。
「すみれさんの春は遠そうだね」
「何よ、他人事だと思って…この際、室井さんでもいいんだけどな」
何となく思い出したある程度条件を満たした男の名前を挙げると、青島がビールを噴いた。
すみれは汚いと思うより、またかと思った。
前にもこんな青島を見たことがある気がする。
むせている青島に、それほど驚くような冗談だっただろうかと、すみれは首を傾げた。
咳が落ち着くと、青島は困惑した眼差しをすみれに向けた。
「すみれさんて」
「何よ」
「室井さんのこと、好きなの?」
「はあ?」
何を馬鹿なことをと思ったが、青島はすみれの冗談を真に受けただけなのだろう。
だが、青島がやけに焦って見えるのは何故か。
すみれはいつかにも感じたあまり良くない予感に背中がむずむずした。
(まさか青島君、本当に室井さんのこと…いや、待って!今の流れなら、私のことを…って可能性もあるんじゃない?うんうんあるあ…ってそれはないわ、落ち着け私)
少し混乱している脳内を落ち着かせるために、すみれは深呼吸をした。
青島が不思議そうにすみれを見ている。
僅かに不安そうな眼差しを向けられ、すみれは思い出したように首を振った。
「違うわよ、冗談だったら」
なんとなく誤解されたらまずい気がして、ちゃんと否定しておく。
青島はすみれをじっと見つめていたが、「そう」と呟き小さく息を吐いた。
その何とも言えない表情に、すみれも何とも言えない気分になった。
青島は安堵したようにも、残念そうにも見えた。
本当に青島がそんな顔をしていたのか、はたまたすみれが勝手にそう見ただけなのか分からなかった。
だが、何事も無かったように「室井さん、いいと思うけどね」と笑う青島には、一言言ってやりたい気分だった。

女の子と付き合ってる場合か?

青島の春は長くは続かない予感がする。
すみれはそう思ったが、当然黙っておいた。










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2013.12.30

あとがき


悪い予感しかしないすみれさん(笑)
そして、おそらく暗中模索中の青島君。

室井さんと青島君の視点じゃないと、あの人たちが実際のところ
どう思っているのかを書けなくてもどかしいなあ…


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