Roadshow(2)


夜勤中のすみれは、席でカップラーメンを食べながら仕事をしていた。
書類に汁を飛ばさないように気をつけつつ、器用にラーメンを啜る。
同じく夜勤の青島は、すみれの背後でさっきまで机に伏せて転寝していたはずだが、ラーメンの匂いに気付いたのか椅子ごと振り返ってすみれの横に並んだ。
「美味そうだね」
すみれはニッコリと微笑んでやった。
「売ってあげようか」
「…高いんでしょ?」
「同僚価格で三割増でいいわよ」
「三割増ね…」
同僚じゃなかったらいくらで売る気だと顔に書いてあったが、背に腹は変えられなかったのか、青島は手を差し出してきた。
引き出しから非常食のカップラーメンを取り出しその手に乗せてやると、青島はいそいそと給湯室でお湯を入れて席に戻った。
背後で鼻歌混じりに三分待つ青島に、今度はすみれが椅子ごと振り返る。
「ねえ、青島君」
すみれはここのところどうしても気になり、青島に聞いてみたいと思っていたことがあった。
それはどちらかといえば人の耳を避ける話題であり、二人以外に人がいない今がチャンスだと思った。
「うん」
「青島君と室井さんてさ」
じっとカップラーメンを見つめていた青島が、少しの間の後すみれを振り返った。
「うん?」
「仲良いわよね」
「そう?」
首を傾げる青島は、少し不思議そうな顔をした。
なぜそう言われているのか分かっていない顔だ。
「そうよ。だって、この間だって…」
「この間?」
「ほら、喫煙室でよ。まつ毛取ってもらったりしてたじゃない」
「ああ、あれ…いや、あれは室井さんが怖がるから、結局すみれさんの鏡見て自分で取ったんだよ」
「そういうことじゃなくて」
イラッとしたすみれに、青島はまた不思議そうな顔をした。
「だから、普通キャリアにまつ毛取ってなんて、頼めないでしょ」
噛み砕いてすみれの疑問を説明してやるとやっと伝わったようで、青島は「あー」と呟き頷いた。
「室井さん優しいよね」
他人事のようにそれだけで済ます青島に、すみれは逆に驚いた。
(そんな問題?そんな問題なの?)
自分が考え過ぎているだけなのかと、不安になる。
すみれだって、別にわざわざ同僚に下世話な疑いをかけたいわけではないのだ。
だが、すみれの常識だと、普通の官僚は部下のまつ毛なんか取ってやらないし、普通の平刑事は官僚にまつ毛取ってなどと頼まない。
「ねえ、青島君。仮に真下君がまつ毛取ってってお願いしたとしたら、室井さんは嫌な顔をするだけだと思うんだけど」
すみれが自分の考えをぶつけると、ラーメンの蓋を剥していた青島はまたすみれを振り返った。
「それは、そうかも」
青島も同じ想像をしたのか、苦笑して頷いている。
すみれは思わず身を乗り出した。
「でしょ?そう考えたらさ、やっぱり貴方たちって、」
おかしくない?とはさすがに言い辛くて、すみれはその先を飲み込んだ。
青島はのんきに笑っていた。
「うん。やっぱり仲が良い方なのかも、俺と室井さん」
なんてったって相棒だしね、と笑う。
(…なんか違うわよね、仲が良いことには違いないんだろうけど、私が思ってるのと青島君が言ってるのはなんか違う気がする)
それとも、やっぱりこれもすみれの考え過ぎなのか。
憮然と考えこんでいるすみれに気付くことなく、青島はラーメンを美味そうに啜っていた。
「ねえ、青島君」
すみれは意を決して、もう一度青島を呼んだ。
「うん?」
「室井さんのこと、好きだったりしない?」
青島は盛大にラーメンを噴いていた。

一般的ではない恋愛の形に、それほど偏見があるわけではないすみれだが、一応相手は大事な同僚である。
わざわざ何かと先行き不安な相手と結ばれることもないと、すみれは思っていた。
別に室井自身に問題があるわけではなく、立場の問題である。
言うまでもなく男同士で、警察官同士だ。
しかも室井は官僚である。
二人が交際に至ったとしたら、本来ならしなくてもいいはずの苦労をすることになるだろう。
できることなら、青島にはもっと楽そうな恋愛をして、幸せになってもらいたいものである。

結局、「ないない、あるわけないでしょ」と盛大に笑った青島に、すれみはとりあえず安堵した。










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2013.11.28

あとがき


青島君と室井さんが怪しすぎて、気になって気になって仕方がないすみれさん(笑)

でも、生理的に嫌とか気持ち悪いとか、そういうことではなく、
二人とも苦労するだろうからそうでない方がいいなと思っているすみれさんでした。

青島君がすみれさんの味方であるように(室井さんだって敵じゃないし!)、
すみれさんも青島君の味方であって欲しいのです。



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