恋守護神 第4話












神集帝国の王宮。

「・・・断る」

「いい話だと思うけどな」

「・・・必要ない」

「お前がそう言うならしかたないが・・・」

皇太子である室井慎次が書類に目を通しながら話している。

皇帝である父親が病気のため、政は彼が行っている。

しかし・・・母親は身分の低い人であったため、本来ならば皇太子などという身分にはなれない立場なのだ。

しかし彼以外に皇子がいない、そして現皇帝が彼を跡継ぎと決めていたため、大臣たちも文句は言えなかった。

室井と話しているのは一倉と言い、室井の友人であり彼の側近でもある。

「そろそろ、結婚しないと本気で負け犬だぞ」

「・・・」

「仕事熱心はいいが、あまりストレスをためすぎるなよ。禿げるからな」

「うるさいから出て行け」

どうやらある貴族の娘との見合いを断ったらしい。

肩をすくめながら、禿げないように気をつけろと軽口をたたき、一倉は部屋を出て行く。

 

本来ならば次期皇帝である室井に、そんなことを言えるはずがない。

しかし、自分の身分や周りの反応に悩んでいた室井の力になったのが一倉だった。

彼とは幼い頃からの知り合いでもあった。

一倉の友情には感謝している。

今日だって見合いの話を持ち込んだのは、一倉だった。

「見合いなどできるわけがない。俺には・・・」

そう、室井にも守護神がいないのだ。

自分が次期皇帝として認められていないからなのではないかと考え、見合いを断っているのだ。

 

 

 

その日の午後。

室井は城を抜け出す。

幼い頃はよく一倉に誘われて(無理やり)城を抜け出していた。

少し気分転換がしたかったのかもしれない。

いや・・・もしかしたら運命の女神のいたずらかもしれない。

室井はそのまま下層階級のものの住む地域へと足を進めた。

もちろん身分は隠してあるし、周りに気づかれないようにもしてある。

すべては一倉からの入れ知恵であった。

 

「勝手にどっか行っちゃだめだよ」

「わかった!」

ちょうど同じ頃、アオシマと光闇はすみれの店の前にいた。

いつもの着物ではなく、ワンピース姿の光闇。

目立ちすぎる髪はすべて帽子に仕舞い、その帽子を目深に被っていた。

「でも、これならバレないかな」

「大丈夫じゃない?」

今の光闇の服装は、彼女自身が作り出したものだった。

アオシマから外出可と言われた瞬間に、彼女の着物が変わったのだ。

一種の魔法のようなもので、光闇曰く「神様だからできる」らしい

そして、光闇が外出できるように協力してくれたのは、すみれだった。

「本当に入んないの?」

「うん、きーちゃんといるから」

『きーちゃん』とはすみれの守護者である稲荷の名前で、すみれに光闇のことを告げ、すみれとともにいろいろと協力しくれたのだ。

本名は『桔梗』らしい。

今日はそのお礼に訪れたのだった。

もちろん手ぶらではなく、おいしいと評判のケーキ店のケーキの詰め合わせを持って・・・。

 

アオシマが店に入っていったのを見届けると、光闇は近くの塀の上を見上げる。

「きーちゃん」

「レクイム様、どうかなさったのですか」

「ううん、アオちゃんがすみれさんにケーキ届けに来たの」

「ああ・・・すみません。毎回毎回、何かにつけてアオシマ殿にタカるんですよ、主は」

「いいよ、すみれさんが喜んでるなら」

すまなそうにする桔梗に、笑顔で返す光闇。

「それよりありがとう」

「えっ??」

「だってきーちゃんもいろいろ手伝ってくれたんでしょ、アオちゃんに」

「ええ・・・まあ」

そんな会話がしばらく続いた。

 

「アオシマくん、次チョコのやつとって」

「・・・まだ食べるの」

「だってこーんなにあるのよ」

「・・・」

桔梗の分も合わせて(稲荷なのに甘党らしい)、買ってきたのだがすみれ1人で食べてしまいそうな予感がした。

「それより、聞いた?」

「何を?」

チョコレートケーキを皿に乗せ、すみれに渡しながらアオシマが聞く。

「この国の次期皇帝・・・つまり皇太子のこと」

「・・・様つけないの?」

「いらないわよ、貴族も王族も威張り腐ってるだけだし」

すみれは、毒舌をたたきながらケーキを一口食べる。

「・・・貴族嫌い??」

「別に貴族が嫌いってわけじゃなくて、自分のことしか考えてないやつが嫌いなの」

フォークを突き出して、そう宣言するすみれ。

「・・・で、その皇太子様がなんだって?」

「アオシマ君!!様なんか付けなくていいの」

「・・・でも知らない人だし」

「・・・その皇太子なんだけど、前のアオシマ君みたいに守護者がいないのよ」

「えっ・・・なんで」

「さあ・・・本人は皇太子って認められてないからだって思ってるみたいだけど」

「そうじゃなくて、なんですみれさんがそんなこと知ってんの?」

「あら・・・知らなかった。副業で情報屋やってること」

「・・・知ってるけどさ・・・ってか副業なの」

実は本業の食材店より儲かっているらしい。

便利屋にくる依頼の中には、探偵のようなものもあるのだ。

彼自身も様々な情報網を持つが、それでもカバーしきれない部分はある。

そんなときに頼るのが、すみれだった。

主婦の噂話や女性週刊誌のようなゴシップ系などアオシマが網羅できない部分を渡し、 経済や社会などのアオシマが得意とする情報を貰っているのだ。

2人がいれば、すべての情報が網羅できるのだ。

「気をつけたほうがいいわよ」

「えっ!?」

「光闇ちゃん」

「あっ!!」

「皇太子自身はそうじゃなくても、周りが献上しようとか考えるってこともあるでしょ」

「うん・・・」

「まあ、なんかあったら相談して」

「ありがと・・・」

「そのときは、手土産よろしく」

「・・・前払い??」

「相談に来るときは手土産ね、解決したらお礼よろしく」

にこっと素敵な笑顔を見せながら、すみれが言う。

どうやら2重に取るらしい。

「・・・はぁ」

もういいやと長い付き合いゆえ、諦めも入ってしまうアオシマ。

 

 

 

「そんでね・・・きゃっ」

光闇が桔梗と話し込んでいたところに、突然風が吹いてくる。

「あっ、帽子・・・」

風に帽子が飛ばされたため、光闇の銀髪が流れ落ちる。

「・・・ゼピュロス」

光闇が空中を見つめ、ある名前を口にする。

「なぜ、隠しておしまいになるのです、その美しい銀の御髪を」

光闇の視線の先に、青年が立っていた、空中に。

ゼピュロス・・・ギリシャ神話の西風の神。

この神集帝国に吹く西風も彼が司っているのだ。

「別にいいでしょ」

「あの男ですか」

「私が神様って周りにバレたら、アオちゃんが困るもん」

「しかし、レクイム様。あなたが本来守護するのは彼、アオシマシュンサクではなく・・・」

「黙りなさい!!」

いつもの光闇からは想像のできない声色を出す。

「それ以上言ってみなさい、お前を消すことぐらい簡単なんですよ」

そしてその言葉遣いも、まったく違うものだった。

「・・・わかりました」

ゼピュロスがそう言うと、光闇はジャンプして彼の持つ帽子を奪う。

「分かったんならいいよ。いつまでも風を止めてちゃダメだよ」

いつもの口調に戻った光闇は帽子を被りなおし、あたりを見渡す。

「バレてないよね・・・」

周りには誰もいないようだった。

 

 

 

「ごめん、待った??」

「アオちゃん!!」

「どうした?」

「ううん、きーちゃんとお喋りしてただけだよ」

「そっか・・・帰る?」

「うん!じゃあね、きーちゃん」

アオシマが姿を見せたときにはゼピュロスの姿は消えていた。

「光闇、誰かにお菓子あげるとかって言われてもついてったらダメだよ」

「・・・お菓子で釣るなんて安すぎる」

「・・・誰かに誘拐されそうになったら」

「石に変えて逃げる」

「・・・じゃなくて」

「悪夢見せて逃げる?」

「それでもなくて」

「んー・・・自殺に追い込んで逃げる!!」

「・・・頼むから危害は加えないでくれる」

「・・・じゃあね〜」

「大声で助けを呼んでくれればいいから」

「・・・つまんない」

「・・・なら眠らせる程度で」

「・・・わかった、眠らせて雪山にでも捨てるね」

「・・・」

ある意味、漫才にも見える会話をしながら帰路につく2人は気づかなかった。

物陰からさっきの様子の一部始終を見ていた者がいることに・・・。

 

 

 

「アオシマシュンサク・・・か」

アオシマたちから死角になる場所から、先ほどの様子を見ていた室井が呟く。

「・・・」

目を閉じ、少しの間何かを考えていたかと思うと、踵を返し城への道を急ぐ。

その横顔に期待と不安を滲ませながら。

 

 

 

これを偶然と言うならば、生物が生きていることさえ偶然。

これを運命の女神のいたずらと言うならば、すべての出来事が運命。

しかし・・・これは偶然でも運命でもない・・・・そう、ある女神による必然なのだ。










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<あとがき>


室井さん登場。

どうなんですかね・・・この設定。

すみれさんも登場。

アオシマくんの相談役(有料)にさせていただきました。

アオシマくん、光闇ちゃんともに、まだまだ謎はいっぱいです。

でもこれで依頼された『身分違い』は(とりあえず)クリアしていますか?カズ様。