■ 気持ちの行方(新青)
ひきずられるように連れて行かれたのは、ホテルではなく新城の自宅だった。
青島がそっちの方がいいと言ったのだ。
新城の自宅も青島の自宅もそう遠くない場所にあるというのに、わざわざそれ目的でホテルに泊まることに抵抗を感じたからだ。
お互いに気ままな一人暮らしである。
自宅でいちゃいちゃするのに、なんら不都合なことはない。
新城の自宅につくと、コートを脱ぐ間も与えられないまま、寝室に連れて行かれた。
自分からベッドに腰を下ろし、青島は苦笑した。
「新城さん、もしかしてかなり我慢してた?」
「うるさい」
言いながら、青島のコートを脱がし始める。
「自分でやりますよ」
止めたが、聞いているのかいないのか、新城の手は止まらない。
コートを脱がすと、床に放り出されてしまう。
「あ、大事にしてくださいよ」
新城の手が止まる。
真顔で青島を見つめていた。
「酷くはしてないだろ、まだ」
「……俺じゃなくて、コートの話ね」
俺を大事にしてくれなんて恥ずかしい主張ができるか。
内心で思いながら訂正すると、新城は途端に興味を失ったように再び動き出した。
脱がされたスーツの上着も床に落とされて、青島は笑った。
「新城さん、意外と行儀が悪い」
「お前に言われるのは心外だ」
「それはどういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
「俺だって脱いだ服くらいちゃんと片付けますよ。大体皺になったらどうしてくれん…」
「青島」
引き抜いたネクタイを床に放り出した新城が、青島を睨んだ。
「ちょっと黙ってろ」
言って、圧し掛かってくる。
やっぱりこんな時まで命令口調なんだと思いながら、青島はシーツに背中を預け、いじけ気味にそっぽを向いた。
新城の手がシャツのボタンを外していく。
自分で脱ぐ時には感じない心許なさがあって、無意識に目を閉じた。
「…青島」
「……なんすか?」
言う通りに大人しくしてますよーだと思ったが、こんな状況になってまで口喧嘩する気はなかったので、余計なことは口には出さない。
だが、新城からの返事も無い。
そのまま動きまで止まってしまったから、青島はそっと目を開けて訝しげに新城を見上げた。
「新城さん?」
無表情に見下ろす新城に首を傾げる。
「お前…」
「はい?」
「もしかして、緊張してるのか?」
カッと頬が熱くなる。
からかわれたと思ったわけでも、無神経だと思ったわけでもない。
ただただ図星をさされて恥ずかしかっただけだった。
こんな時くらい、青島だって緊張する。
新城とこうするのは二回目なのだ。
二回目だから前回よりマシかと言えば、自分がどうなるか、どんなふうに変わっていくか、うろ覚えではあれど知っているだけに緊張した。
それを自分の中で誤魔化そうとしていたのだが、誤魔化しきれないまま新城にバレてしまったらしい。
「俺だって人間ですからね」
緊張くらいしますよと投げやりに言ってまたそっぽを向いた。
少しの間のあと、頬に柔らかい感触を感じる。
頬にキスをされたのだと悟ると、ちょっと驚いた。
唇へのキスなら初めての時に何度もしたが、そんな可愛いキスはされていない。
新城でもそういうキスをするのかと、失礼ながらちょっと驚いたのだ。
視線を向けると、新城の顔が間近にあった。
「新…」
開いた唇を塞がれる。
思いの外優しいキスで、青島は素直に目を閉じた。
「喋っていても構わない」
キスの合間に囁く。
「…え?」
「余裕があるのかと思って、気に入らなかっただけだ」
それでお前が落ち着くなら好きにしろと言って、今度は深くキスを仕掛けてきた。
青島に余裕があるのが気に入らない。
つまり、新城には余裕がないということだろう。
話していなければ緊張がほぐれないような青島に余裕などあるわけもなく、つまりお互い様だということだ。
青島は内心で苦笑しながら、新城の背中を抱いた。
口内を愛撫する新城の舌に自分のソレを絡めて、積極的に応じる。
青島が緊張していると知って落ち着いた新城と同じように、余裕のない新城に気付いて青島もいくらか落ち着いた。
落ち着けば、何がそんなにいいのか知らないが、自分を欲しがる新城は可愛く見える。
唇を重ねたまま、シャツの隙間から新城の手が素肌に触れてくる。
緊張が消えてなくなったわけではないが、自分とは違う手の温度を嬉しいと思った。
「…っ」
青島は必死に声を飲み込んだ。
嬌声とも、悲鳴ともつかない声だと思ったからだ。
いつもの冷たい態度からは想像も付かないほど丁寧な愛撫は、相変わらずだった。
二度も自分だけいかされ、お返しに愛撫しようとした青島の手を止めてまで、なおも時間をかけて慣らされれば、新城がどれだけ自分の中に入りたがっているかなど、知りたくもないほどはっきりと分かった。
どれだけ慣らされようと、二度目の行為ではまだ挿入時に痛みと衝撃を伴う。
これだけ丁寧にされては、新城に苦痛を訴えることだけはしたくなかった。
だから深くに新城が侵入してきても、青島は声を漏らさなかった。
「青島…」
全てを青島の体内に納めてしまうと、新城は青島をじっと見下ろした。
何かを耐えるような眼差しに、青島は額に汗を浮かべたまま小さく笑う。
余裕はなかったが、新城に対してそうするだけの愛情があった。
「平気…すよ、動いて…」
「…嘘をつくな、馬鹿」
罵るくせに、仕草はこの上なく優しい。
新城の手が青島の前髪をかきあげ、剥き出しの額に唇を押し付けられる。
青島は新城の背中に手を伸ばした。
できる限りの力で抱きしめれば、身体が密着する分だけ更に深くなる。
正直苦しいが、恐らく苦しいのは新城も一緒だ。
同じ男だから青島にも分かる。
中でじっとしているのは、きっと辛いはずだった。
「…っ、青島…」
新城が上ずった声をあげるから、ドキリとする。
そして思い出した。
―そうだ…俺、この人に、こうやって欲情するんだよなぁ。
自分の身体で興奮する新城に、青島は興奮した。
それは初めてだった前回のセックスの時に、当然だが初めて知ったことだった。
男に求められて欲情する日がくるとは思ってもいなかったが、誰だって心の底から求められれば嬉しいものなのかもしれない。
新城の首に手をかけ引き寄せると、唇を軽く合わせる。
「も、大丈夫、だから、ね?」
「…っ」
噛み付くようなキスが返って来るのと同時に、新城が動き出した。
「―っ」
幸い青島の引き攣るような声は新城の唇に飲み込まれて響かない。
青島がもうやめてくれと懇願するまで続けられた丁寧な愛撫が効いているのか、動かれても痛みはそれほどない。
それよりも、新城が出入りするたびに感じる、内臓を持っていかれそうな衝撃の方が堪える。
無意識にずり上がり逃げそうになる身体を、新城が押さえつけた。
「青島…」
「ん、んん」
信じられないほどの違和感は感じているが、それでも気持ち良くないわけではない。
動かれるたびイイトコロに当たるのも、青島自身感じていた。
歯を食いしばって思わず耐えるが、新城が青島自身に触れてくるとそれも難しくなる。
「あ、あ、新城さ…っ」
青島を感じさせるためか、それとも単に焦っていたのか、新城が早急に青島を追い上げる。
それは中にいた新城自身にダイレクトに返ってくる。
突き上げられながらキツク扱かれて、体内にいる新城を強く締め付けた。
「く…青島…っ」
新城の動きが止まると同時に、体内で弾けた。
「ん!」
驚いた青島の背に力が入る。
そんなところに何かが流れ込んでくる経験は初めてだった。
新城自身を受け入れている熱とはまた違った熱をそこに感じる。
「はっ…はぁ…」
つめていた息を吐き出すと、新城が青島の胸に寄り添ってきた。
「……すまない、中に」
新城に謝罪されたことよりも、今更だが改めて中に出されたことに驚き、青島は赤くなった。
「や、大丈夫です……大丈夫ですよね?」
聞き返したら、顔を上げた新城が少し笑った。
笑われたって、分からないものは仕方が無い。
そんなところにそんなものを注がれた経験はないのだ。
生命誕生の経緯を考えれば害は無いのかもしれないが、そもそもそんなところに注がれるべきものではないので、やっぱり問題かもしれない。
「入れっぱなしにしておくと、腹を壊すそうだ」
「そ、そうですか…」
新城さんは一体どこでそんな知識を?と思っていたら、柔らかくキスをされる。
「少し、我慢しろ」
「え……うあっ」
体内から、新城が出ようとする。
「んんっ」
鼻に掛かった声を漏らすと、新城が動きを止めた。
青島は慌てて口を押さえたが、今更遅い。
「……ここ、気持ち良いのか?」
出て行くつもりだったのだろうが、気が変わったのか、中を緩く擦られて青島の中にも熱が戻ってくる。
「ちょ、待って、新城さん」
「私だけというのも、悪いだろ」
「いや、いやいや、俺、さっき、2回もいってるし」
「……まだこんななのに、いいのか?」
前を握りこまれて、青島の背が少し仰け反る。
青島の中で一度いったせいか、新城には余裕が生まれたらしい。
再びゆっくりと動き始めた。
中で出されているせいか、湿った音がやけに響く。
それに新城が先程よりもスムーズに出入りしている気がして、青島は突然恥ずかしくなった。
「あ、や、待って、新城さんっ」
「なぜだ?嫌か?」
「いや、いや、じゃないけど、あ、んん、なんか、ちょっと、いやかも」
「どっちだ…」
ふっと笑った新城が自分を見下ろしていたから、青島は居た堪れなくなり目を閉じ新城にしがみ付いた。
しがみ付いた青島の身体を揺さぶる新城に、もう遠慮や躊躇いはない。
「あ、あ、あ…っ」
突き上げられるたび、甘い声が漏れる。
「嫌ではないようだな…」
耳元でくすりと笑う新城の声。
その通りではあるが、意地でカプリと新城の肩に噛み付いてやった。
「っ」
ちょっと息を飲んだ新城が横目で視線を寄こすから、ニッと笑って見せた。
途端に新城が状態を起こし、身体を離した。
急に新城との間に距離ができ、たったそれだけのことが少しだけ寂しく感じる。
怒らせたかなと不安に思ったが、そうではなかったらしい。
「顔が見える方がいい」
新城がそんなことを言うから、青島は目を見開いた。
表情は相変わらずそんなに動かない。
上気した肌とその肌に伝う汗がなければ、こんなことをしているとは思えない顔だ。
だけど、青島を見るその目は酷く優しい。
興奮や快感でバラバラになっている意識の片隅で、青島は思った。
新城さんは気付いてるんだろうか。
俺をどんな目で見つめているのか。
俺はちゃんと分かってるんだろうか。
新城さんがそんな目で俺を見つめる理由を。
不意に、新城が片手で青島の手を握りしめた。
あの新城がである。
自分自身でも良く分からない感情で、青島の瞳が濡れてくる。
興奮でなのか、嬉しさでなのか、それとも単なる生理的な涙なのか。
青島の異変に気付いたのか、新城が少し驚いた顔をした。
「…青島?」
「……です」
「なに?」
「すき、です」
新城が目を見開いた。
握られた手を強く握り返して、繰り返す。
「好きです」
握った手を持ち上げて口元に引き寄せると、そこにキスをした。
「アンタが好きです」
握った手を振り解くと、新城は青島の腰を両手で掴んで叩き付けるように動き出した。
青島は顎をそらすと、今度こそ悲鳴に近い嬌声をあげる。
「青島…」
「あ、ん、新城さ、んっ」
痛みも衝撃も分からない。
ただただ、強い快感に襲われる。
「言え…もう一度言え」
青島を追い上げながら、新城が「もっと」と強請る。
何を求めているかなど、朦朧としている今の青島にだって分かった。
「すき、んっ、すきです、アンタが、すき…っ」
「もっとだ、青島…っ」
「あ、あ、すきだよ…ああっ」
求められるまま素直に気持ちを口にして、青島は片手を自身に伸ばした。
もう片方の手で新城の肩を掴む。
どこでもいいから、新城に触れていたかった。
「青島…っ」
限界が近いのはお互い様のようで、新城が切羽詰った声をあげて、深く強く青島の中に押し入った。
「ああ…っ、も、無理…っ」
青島の身体が痙攣する。
目を閉じて、顎を逸らした。
「すき…っ、すきだよ、新城さん…っ」
告白を繰り返しながら、自身の腹と手の平を汚して、青島は果てた。
その衝撃でか、新城もすぐに後を追う。
「青島…っ」
再び中に注がれて、青島は目を開けた。
目を閉じ、耐えるような表情で、青島の中で果てた新城の顔を見る。
整わない息のままじっと新城の顔を見つめていると、やがて目を開けた新城に噛み付くようなキスを返される。
照れているのだと気付いて、青島は笑いながら新城を抱きしめた。
「明日は会えるか?」
ベッドでぐったりしていると、新城が言った。
「明日、また来い」
続けて命令されて、都合を聞いた意味はあるのかと思ったが、一々文句を言っても仕方が無い。
明日もということは、今更ながらに蜜月ということになるんだろうかと、バカなことを考える。
青島は自分の腕を枕にして、隣で横になっている新城を見た。
「来るのはいいですけど」
「けど、なんだ」
「明日はやりませんよ」
露骨に顔を顰めるから、そんなにやりたいのかと思って、ちょっと笑えた。
こう考えるとそれほど分かり辛い男でもないのかもしれない。
「連日は無理ですよ、こんなこと」
青島が苦笑すると、新城は眉をひそめた。
「良くなかったのか」
なんつーことを聞くんだと思いながらも、いささかショックを受けている新城を見れば、否定しないわけにもいかない。
「良かったですよ、良かったですけど、その、毎日は、身体がついていきませんって」
「……やりたくないという意味ではないんだな」
らしくもなくホッとした顔を見せるから、青島は密かに息を飲んだ。
青島がやりたくないと思ったら、それは二人の別れに繋がる。
多分、新城の中ではそういう図式になっているのだ。
できるかできないか試してみることから始めた二人の関係だから、新城は今もそう思っているのかもしれない。
「別にやらなくてもいい」
そう言うと、新城は青島に背を向けた。
「ここに、来い」
おやすみと素っ気無く言われて、青島は堪えきれずに笑みを零した。
何故会いたいとか、一緒にいようとか、そういう柔らかい言葉で誘えないのか。
命令口調でなければ、新城の口から出てくる言葉はどれも愛の言葉にすぎない。
青島は、新城のことを少しだけ分かった気がした。
―変な人。
そう思いながら、新城の背中に抱きついた。
「最後までは無理だけど、そうじゃなかったらできるかも」
てか、したいかも。
耳元で囁くと、新城の身体に力が入った。
「……今すぐするぞ、馬鹿」
罵倒され、青島は弾かれたように笑った。
END
螺旋屋のリカさんに送り付けた新青の続きでした。
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