キスの意味・その後 


『深酒する時は、二人きりの時だけ』
室井と付き合うようになって1番最初に交わした約束だ。
悪癖については室井自身認識しているから、日頃から気をつけて飲んではいるようだったが、新米の恋人としては確かな約束が欲しかった。
「気をつけてはいるが、結果として酒が過ぎることがないとは…」
酒好きな室井の弁である。
そういうこともあるだろう。
長い付き合いとはいえ、やけに酔っ払った室井の扱いに慣れていた一倉を思えば頷ける。
困った顔で言う室井に、青島はニッコリ笑って言ってやった。
「じゃあ、俺も酔っ払ったら他のヤツとキスしまくってもいいの?」
考えるまでもなかったらしい。
「分かった。約束する」
返事は即答だった。


「あ、幻の大吟醸!」
室井の部屋に遊びに来ていた青島は、素敵な一升瓶を発見した。
というより、テーブルにどんと置いてあったのだから、一緒に飲むつもりでいてくれたのだろう。
目を輝かせた青島に、室井は苦笑した。
「君が来たら開けようと思ってたんだ」
「どうしたんです?コレ」
「飲みたかったから、取り寄せた」
珍しいなあと思ったが、ふっと理由に思い至る。
「もしかして、外で飲み辛くなくなったから?」
さすがに申し訳なく思って聞くと、室井は緩く首を振った。
「いや、君と二人で飲みたかっただけだ」
青島に気を使ったのか、本音なのか。
嘘の吐けない性格だから、嘘ではないことだけは確かだ。
少し頬を強張らせると、青島はバシバシと室井の肩を叩いた。
「あは、あはは」
「い、痛いんだが…」
「もうもう、早く飲みましょう」
青島の分かりやすい照れ隠しでは、照れどころか嬉しささえも隠せていなかったが、室井はそれ以上何も言わず小さく笑っただけだった。


テーブルに突っ伏してしまった室井を見て、青島は急激に酔いが覚めてくるのを感じた。
思い出すのは、初めて室井とキスをした時のことだ。
そんなに飲んだつもりはなかったが、いつの間にか空になった一升瓶と目の前の室井がそうではないと証明してくれる。
「……もしかして、自業自得?」
青島は乾いた笑みを浮かべた。
室井のことではない。
『深酒する時は、二人きりの時だけ』
という約束を交わした自分のことだ。
このままつぶれてくれないかなと思いつつ、青島は恐る恐る室井を見ていた。
別にキスくらいは構わない。
室井とは恋人同士だ。
酔っ払っていない時の方が好ましいが、酒が入っていたってその気になればキスするし、それ以上のことだってする。
が、酔い潰れた室井とは勘弁したかった。
酔い潰れて、キス魔と化した室井とは―。
室井の肩がピクリと動いて、青島もビクリと驚く。
ゆっくりと持ち上がる頭を見つめて、青島は逃げ出すことにした。
やっぱり目が据わってしまっている。
慌てて立ち上がろうとした青島の足首を、室井の手が掴んだ。
「ちょ…室井さん、落ち着こうよ、ね?」
無駄と知りつつ、言ってみる。
室井がキス魔に変貌したところを見たのは、実は最初のキスの時しかない。
が、あれだけ見ていれば、今の室井がどういう状況か良く分かる。
青島の声は、きっと聞こえていない。
案の定、青島の制止など聞いてはくれず、そのまま圧し掛かってくる。
「わ…っ」
床に押し倒されて思わず叫んだ青島の唇を、室井は問答無用に塞いでくる。
いきなりの濃厚な口付けに、青島は眉を寄せた。
―まずい。
繰り返すがキスが嫌なわけではない。
室井とのキスが嫌なわけがない。
だけど困る。
青島は舌を吸われて、思わず目を閉じた。
押し退けることもできずに室井の胸に添えていた手を肩に滑らせ、少し強く掴んだ。
「ん…ん…っ」
鼻に掛かった声が漏れ、酒のせいだけではなく身体が熱くなってくる。
青島がまずいと思ったのはコレだった。
室井にこんなキスをされたら、もっと欲しくなるに決まっているのだ。
いつの間にか室井の舌に絡ませていた青島の舌が物語っている。
自分から室井の舌を、唇を求めながら、室井の首に腕を回していた。
だが、腰に熱が集まるのを感じ、青島は慌てて唇を離した。
急に解放されたのが不満だったのか、室井は眉を寄せてまた唇を近づけてくる。
押し倒され、頭を抱えるように腕を回された状態では、避けるのも難しい。
唇をぺろりと舐められて、背中がゾクゾクしてくる。
室井は目を細めて、唇をなぞるように何度も舌で愛撫してくる。
意識せずとも唇が開き舌を出して、室井のソレを求めた。
当然のように、吸い付いてくる室井。
だから、まずいって!
青島は目を閉じて、心の中で叫んだ。
何がまずいのかというと、青島の身体の都合だ。
まずいと思いながら全く抵抗をみせず、反応を返してしまう青島の身体がまずいのである。その気になるなっていう方が、無理な相談だ。
すっかり熱くなってしまって、キスだけで納まりそうにない。
顎を舐められて目を開ける。
どうやら唾液を舐めとったらしく、そのまま唇の端にキスをされた。
「青島…」
熱っぽい声に、室井がちゃんと自分と知りながらキスをしているのだと悟る。
それが余計に堪らなかった。
「くそっ…も、いいや…」
青島は舌打ちすると、室井の好きにさせることにした。
もとより、青島に抵抗できるわけもない。
本当はキスだけじゃ堪らないのだが、この状態の室井がセックスできるのかどうかもわからなかった。
もう、いいや。室井さんだもん。好きにすればいい。
半ば投げやりになっていたのは、青島も酔っていたからかもしれない。

「青島…青島…」
名前を呼びながら、首筋に吸い付いてくる。
それに反応して熱っぽい吐息を漏らしながら、青島は室井に視線だけ向けた。
青島のシャツを開きながら、肌に吸い付いてくる。
キス魔というのは、唇に対してだけではないのだろうか。
そんなことを思いながら、その先の行為を期待してしまう。
今の室井がどこまでしてくれるのか分からない。
できるなら、もっといっぱい触れて欲しかった。
青島の願いが通じたわけではないだろうが、室井の唇が胸に滑って、乳首を口内に含まれた。
いきなりの感触に、青島は眉を顰めた。
舌先で愛撫したと思ったら、強く吸い付かれる。
「あぁ」
思わず唇から、素直な声が漏れた。
慌てて唇を閉じた青島に気付くことなく、室井はソコに吸い付いてくる。
吸っては舌先で弄られて、甘噛みされる。
いつになく執拗に吸われて、青島は小さく声を漏らしながら赤面した。
「も、ソコ、いいから…っ」
それで室井が止まるとも思えないが、思わず室井を制止すると、乳首を口内に含んだまま、室井が視線を寄越した。
堪らず室井の肩に手を添えて押し返すと、室井は不満そうな顔になった。
だが、すぐに青島のベルトに手をかける。
意図を察すると、青島は少しだけ安堵した。
キスだけではなくて、ちゃんと愛してもらえるらしい。
ベルトを外し、ファスナーも下ろされる。
室井は下着をずらすと、既に形を変えたモノを取り出した。
次にくるのが何かは想像するまでもないが、期待通りにソコに熱い息が掛かり、青島はキツク目を閉じた。
すぐに、息よりも熱い粘膜に包まれる。
室井の口内に招き入れられて、軽くのけ反った。
咥えたと思ったら、いきなり唇で扱きだす。
焦らすような愛撫は一切ない。
唇で扱きながら吸い付いては、舌で擦り上げる。
「はっ…ん、待っ…っ」
望んだ快感ではあるが、性急すぎて青島はついていけない。
酔いもあるし、先ほどの長いキスで身体はすっかり反応している。
このペースで愛撫されたら、恐らくあっという間だ。
いや、いいんだが、それでもいいんだが、それもどうなんだ。
青島が一人葛藤している間にも、室井の愛撫は止まらない。
先端に軽いキスを繰り返し、先走りを吸う。
「あっ」
ソコを舌でなぞっては吸い付くのを繰り返されて、青島は腰を震わせた。
まともに働かない頭の片隅で、この人今何してるか分かってんのかなと思った。
再び室井の口内深くに招き入れられて、口全部を使って愛撫されると、青島は考えることを放棄した。
「あ、あ、も、イ…っ」
青島の声を聞いているのかいないのか、室井がソコに強く吸い付いた。
声にならない声をあげ、青島はのけ反りながら果てた。
室井が唇を離さなかったため、その咥内に全て吐き出す。
「あ…はぁ…」
終わってもなお吸い付かれて、残滓も吸い出される。
青島はぼんやりとしたまま、視線だけ室井に向けた。
先端に何度かキスをして顔を上げた室井と目が合う。
青島は真っ赤になると、慌てて半身を起こした。
色々なことが恥ずかしかったが、1番堪えたのたは、
「んな、満足そうな顔しないでくださいよっ」
室井が満足げに微笑んでいたことだ。
青島を唇で存分に愛せて満足したのかもしれないが、青島の方はなんだかとっても居た堪れない。
普段なら愛されているなと照れ臭くとも幸せに思ったかもしれないが、酔っ払った室井相手だと素直に思えなかった。
大体、青島をいかせるだけで満足するなど有り得ない。
青島は赤い顔のまま、室井の頬に両手をあてて、引き寄せた。
唇を重ねると青臭い味がしたが、気にしない。
舌を絡めると、すぐに反応があった。
この、キス魔め。
青島は内心で笑いながら、室井の下半身に手を伸ばした。
スラックスの上から触れるとちゃんと熱く、硬くなっていて、青島は嬉しくなった。
そのまま手を動かして、形を確かめるようになぞる。
「ん……青島……?」
少し唇を離した室井が小首を傾げてくる。
バカみたいに吸い付いてこないところをみると、もしかしたら少し酔いが覚めたのかもしれない。
だけど、まだぼんやりとしている。
青島は軽く唇を合わせた。
「もう少し…」
「ん…?」
「もう少し、キスに夢中になっててください」
唇が触れる距離で、ひっそりと笑う。
「俺はこっち、ね」
ファスナーを下ろし、下着越しにソレを握る。
「っ」
息を飲んだ室井の唇にもう一度軽く触れた。
「責任持って、お世話しますから」
悪戯っぽく笑った青島に、室井は目を細める。
返事の変わりか、また唇に吸い付いてきた。
青島は心の中で苦笑しながら、手を動かした。
明日の朝、覚えてるか聞いてみよう。
そして、苛めてやろうと思った。

正体不明な室井はちょっと可愛い。
そう思ったのは、青島も酔っ払っていたせいかもしれない。









END






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