■Honeymoon(5)
4日目、二人はマウイ島に移動した。
ビーチ沿いにある、高級コンドミニアムを予約していたのだ。
10室前後の客室しかなく静かなリゾートで、すぐ目の前の海はもちろん、プールもあるしゴルフ場もあるらしい。
一泊しかしないからそんなに遊べないが、一泊だけ贅沢に過ごすことにしていた。
それにここなら殆ど二人きりでいられる。
日本に帰ったって二人きりにはなれるが、折角の新婚旅行。
何にも邪魔されずにいられるというのは、やっぱり嬉しかった。
「何処に行っても、キレイだな…」
砂浜を歩きながら、室井が言った。
確かにハワイに来てから見た海といえば、どこもかしこもキレイだった。
「追いかけっこでも、してみます?」
青島が笑いながら提案してみると、室井は首を傾げた。
「追いかけっこ?」
「昔テレビとかで見かけませんでした?カップルがこう浜辺で、あはあはうふうふ言いながら、追いかけっこしてるの」
室井は露骨に呆れた顔をした。
「君、一人でやってこい。見ててやるから」
「あ、そんな冷たい」
「…もし俺がやると言ったら、どうする気だ」
そんなY口にしたか分からないが、自然と出るのだから仕方が無い。
夜でも明るい東京では見られない、満天の星空。
星の色すら違って見えた。
「キレイだな」
室井の口をついて出るのも、いつも同じ台詞。
本当に自分たちのボキャブラリーの貧困さには笑えてくる。
―けど、本当に感動した時って、きっとこうだよな。
こういう理由だから、ここが素敵。
そんなふうにはきっと語れない。
それはきっと、後から思い出して語るのだ。
ワインを飲みながら、ひっそりと室井を眺める。
見慣れた精悍な顔つき。
だけど、日本にいる時とは、少し違う。
少し日に焼けているし、こちらに来てからは一度もオールバックにはしていない。
だけど外観的な違いだけではない。
いつもなら部屋の中でしか見せないリラックスした表情を、ハワイに来てからは一日中見せてくれた。
だけど、それも今日までだった。
明日はもう帰国する。
4泊6日のハワイ旅行と聞いた時には信じられないほど長く感じたが、今となっては足りなくさえ感じる。
「贅沢なもんだなあ」
思わず失笑して漏らすと、室井が振り返った。
「どうかしたか?」
「いえちょっと帰りたくないな…って思っちゃったから」
素直に言ったら室井が驚いた顔をしたから、苦笑した。
何も永遠にここにいたいと思ったわけではない。
帰れば大好きな捜査も待ってるし、刑事は天職とすら思ってる。
それに日本に帰っても室井とは一緒だ。
常にじゃないが、同じ家に帰って同じ家から出かける。
そういう意味では、これからもずっと一緒である。
愛すべき日常。
そこに戻るのが嫌なわけではない。
青島は、ただ。
「後、もうちょっとだけ、帰りたくないって思っただけです」
青島は舌を出して、はにかんだ。
「一日でも二日でも…後ちょっとだけって」
室井がじっと見つめてくるから、青島は照れ臭さに笑って誤魔化した。
「いや、子供みたいなこと言って、恥ずかしいんですけど」
子供の駄々とは少し違う青島の気持ちに、室井は気付いているだろう。
柔らかく微笑んで手を伸ばしてくる。
室井は青島の手からワイングラスを奪うと、そっと脇に置いて青島の肩を抱いた。
意図を察すると、青島は一瞬躊躇ってから目を閉じた。
躊躇ったのは「ここ外だよな」と思ったからで、素直に目を閉じたのは「まあ、誰もいないか」と思ったからだ。
ゆっくりと唇を重ねられて、青島は室井の背中に腕を回した。
キスの合間に、室井が呟いた。
「一月くらい、夏休みを要求するんだったな」
青島は身体を揺らした。
「クビになりますよ、間違いなく」
「なら、二週間くらい」
「破産するかも」
「ランク落とせばいけたんじゃないか?」
「そうかも…でもここも捨て難い」
「ここに一泊して、後はモーテル」
何度もキスを繰り返しながら、合間に囁きあう。
話している内容に色気がなくとも、お互いの目の中には確かにあった。
青島は室井の頬を撫ぜながら、微笑んだ。
「アンタと一緒なら、テントでも野宿でも…どこでもいいですよ」
「青島…」
不意に室井のキスが深くなる。
舌を差し込まれて、青島は室井の首に両手を回した。
夢中でキスをする。
青島は室井の髪をかき乱して、室井は青島のシャツを乱した。
室井の唇が青島の首筋に吸い付くから、青島は顎を逸らした。
室井越しにキレイな星空が見える。
それで、自分が押し倒されかかっていることに、初めて気が付いた。
「室井さん、ちょっと待って」
「待てない」
短く返事が返ってきて、ぎょっとする。
―ここでするつもりか!
いくら人がいなくても、外は外だ。
青島は慌てて、室井の胸を押した。
不服そうな室井に見下ろされて、青島は思わず笑みを零した。
この男は青島に対する欲望だけはあまり隠さなくなった。
―そんなことが嬉しいなんて、俺もどうかしてる。
青島は少し身体を起こして、押し返した室井と身体を密着させた。
「ここじゃ落ち着かない。中でいっぱいしましょう」
軽く室井の唇を奪った。
「いっぱい、したい」
当然のように、青島の願いは叶えられた。
「ん、んっん…っ」
「…っ…く…っ」
青島は室井の下肢に顔を埋めながら、室井の顔を跨いでいた。
所謂シックスナインという態勢である。
やり始めこそ抵抗があったものの、すでにそれどころじゃなくなっていた。
室井の熱い舌に翻弄されないように、必死に室井を愛撫する。
唇で扱きながら頭を上下させると、咥内で室井が体積を増した。
その質感が苦しくもあり、愛しくもあった。
室井の舌の感触に腰が震えそうになるのを堪えながら、室井のソレに吸い付いた。
背後で室井の小さな呻き声が聞こえてくるのが嬉しかった。
不意に室井の手が臀部に掛かる。
ぎょっとした青島は、慌ててそこから顔を上げた。
「ちょ、何す…っ」
青島の先走りで濡れた室井の指が侵入してきて、思わず息を詰める。
「…んなの、卑怯だっ」
罵ると、室井は小さな笑い声を漏らした。
「卑怯って…」
「ずるい、絶対ずるい…っ」
「気持ち良くないか?」
室井は指を動かしながら、先端を舐めた。
「ん、や、あ…っ」
そうされると、室井を愛撫している余裕など無くなる。
指を増やされて、我慢できずに腰を揺すってしまった。
「青島…」
「ん…あ、ああっ…あ…っ」
「青島…俺のもしてくれないか?」
室井の声は真剣で、興奮でそれどころではなくなっている青島をからかっているわけではようだった。
途中で放り出されているから、もどかしくなったらしい。
青島の痴態に煽られたのか、室井のそこは先ほどよりも逞しくなっていた。
「くそ…っ」
青島の口から何故か悪態が出る。
お互いに気持ち良くなるように始めた行為だったのに、自分一人だけ喘がされているなんて気に入らない。
「室井さん、も……鳴かしちゃる…っ」
またよく分からない方向に熱意を燃やすと、青島は夢中で目の前のソレにしゃぶりついた。
「くっ」
いきなりの刺激にか、室井の腰が反射的に引ける。
青島は追い掛けるように深く咥えこんだ。
そして思いきり吸い付く。
「―っ」
息を詰めた室井に、青島はひっそりと微笑んだ。
室井もされっぱなしでは、当然いない。
後に納めた指はそのままで前を咥内に深く含まれる。
青島はきつく眉を寄せたが、室井のソコを離さなかった。
唇でしっかりと咥え頭を動かし、手も使って愛撫する。
「ん、ん…ふっ…ぅ」
「うっ…ん…っ」
室井も大分興奮しているのか、青島の体内に収めた指で中を少し乱暴に掻きまわした。
「うぁっ」
中へのダイレクトな愛撫には、さすがに我慢ができない。
青島は室井のソコから口を離した。
「あ、や、やだって、もうっ」
「いっぱいしたいと言ったのは、君だぞ…?」
先端を舐められて、青島は軽く仰け反った。
「い、言った、けどっ、こんなの…」
「まだ、始まったばかりだろ…?」
深く咥えられて、室井の唇に扱かれる。
「んんっ」
指を更に増やされて、抜き差しされた。
「あ、ああっ…も、イク、でる…っ」
青島はシーツに手を付いてきつく握ると、腰を振るわせた。
腰を引こうとしたのだが、室井にしっかりと押さえられて、それも叶わず。
「ああ…っ」
青島は引き攣った声をあげて、室井の咥内に吐精した。
荒い呼吸を繰り返す青島の腰を支えながら、室井は全て飲み込んでから口を離した。
体内から指がそっと引き抜かれて、背中が震える。
青島はぼうっとしたまま、室井の身体の上から降りると、室井と対面で座った。
室井の口元に付着した自分の精を見て、さすがに赤面する。
「室井さんの反則負けですからね」
室井の顎に手を伸ばして拭うと、小さく呟いた。
「負けって…何の勝負だ一体」
苦笑した室井に軽く口付けて、青島は手を室井の下肢に伸ばした。
手で握ると、またそこに顔を寄せる。
自分だけいかされてしまったので、室井もちゃんといかせてあげようと思ったのだ。
だが、そこに到達する前に、室井の手に遮られる。
肩を掴まれて顔を上げさせられて、青島はきょとんとした。
「室井さん…?」
「それも嬉しいんだが…」
「はい?」
「君の中でいきたい」
青島はグッと言葉に詰まったが、こくりと頷いた。
腰を抱えて、室井がゆっくり侵入してくる。
「んっ」
青島は鼻に掛かった声を漏らして、のけ反った。
ゆっくりと、だけど深くまで身体を進めると、室井は青島に覆い被さってきた。
「青島…」
一度唇を合わせると、動き出す。
「あ、は…っ」
揺すぶられるままに、声を上げた。
普段なら耳を塞ぎたくなるけど、何故か今日は気にならなかった。
青島は室井の肩に手を掛けて、室井の動きに合わせるように、下から身体を揺すった。
「ん、あ、あっ」
「はっ…青島…っ」
室井の動きが激しくなる。
「すまない…っ」
一度謝ったかと思うと、両手で青島の腰を掴み、激しく突き上げてくる。
青島の喉から悲鳴に似た嬌声が漏れた。
それすら室井の興奮に繋がるのか、中の室井が体積を増した。
青島は既に一度解放されているからマシだが、高ぶったままの室井には余裕がないのだろう。
腰をぶつけるように穿たれて、青島は強すぎる快感に耐えた。
「青島…青島…っ」
切羽詰まった室井の声に、青島も余計に煽られる。
「や、あ、い、いい、気持ち、い…っ」
「俺もだ…っ」
室井は腰を動かしながら、青島の中心に触れてきた。
既に回復していた青島のそれを握り込むと、強く扱く。
性急な行為に室井の限界を悟って、青島の身体が勝手に室井を締め付けた。
「くっ…そんなに、しめないでくれ…っ」
「やっ、だから、知らな…てば…っ」
赤面しながら訴える青島に軽くキスをして、やはり相当切羽詰まっているのか、室井は青島の腰を抱え直した。
「あまり、もちそうに…ない…っ」
青島の腰を高く上げさせて、激しく突き入れてくる。
青島の喉からは、荒い呼吸と嬌声しか出てこない。
「あ、きて、くださ・・・っ、奥に・・・きっ」
奥に奥にと貪欲に室井を欲する心と身体。
どちらにも正直になって、青島は夢中で室井を求めた。
「くっ…いく、青島…っ」
室井が眉をキツク寄せた瞬間に、体内に室井の熱が広がった。
その熱に、青島にも激しい快感が訪れる。
室井が握った青島自身の先端を、親指の先で抉った。
「―――っ」
少し尾を引くような声にならない声をあげて、青島も室井の手の中に射精する。
青島が果てると、室井は弛緩した身体を青島の上に投げ出した。
その背中を抱きしめ、青島は室井の肩に顔を埋める。
「青島、大丈夫か?」
室井の唇を耳元に感じる。
「ん、平気です…凄い、良かったです…」
素直に言ったら、柔らかな表情で、唇に触れるだけのキスをくれた。
そして身体を引こうとするから、青島はしっかりと室井の背中を抱いた。
「もう少し、このままで…」
はにかんだように言うと、室井は軽く目を瞠ったが、抗わずに力を抜いてくれた。
室井の唇が額、瞼、頬、耳元に触れる。
心地良さに青島は目を閉じて、室井の背中を撫ぜた。
呼吸が落ち着いてきたころ、青島はそっと瞼を持ち上げて、微笑した。
「帰ったら…」
「ん?」
「しばらくできないかもしれませんね」
何の話しか少し考えてから、室井は苦笑した。
「そうだな…当分忙しくて、それどころじゃないかもしれないな」
一週間の休暇の代償を払わなければならないのは当然だった。
二人ともしばらくは、家には寝に帰ってくるだけという生活が続くかもしれない。
それは覚悟していたことだし、この幸せの埋め合わせと思えば、それほど辛いことではない気がした。
青島は少し、日本に帰るのが楽しみに感じてられた。
心も身体も、室井に満たされたからかもしれない。
やっぱり今のこの瞬間は愛しいけれど、愛しい瞬間は他にもいっぱいあるから。
青島はそんなことを思いながら、室井に唇を寄せた。
軽く触れ合わせて、舌で室井の唇をなぞる。
その舌を室井に絡め取られて、吸われた。
キスが深くなれば、必然的にまた身体が熱くなる。
自分だけじゃなくて室井もだと感じるから、焦ることも恥ずかしがることもない。
だけど、自然と笑みが浮かんでくる。
「俺ら、こっちきてから、ヤりすぎ?」
「そうは言っても…納まらないだろ、これじゃ」
室井がグッと腰をいれてくるから、青島は小さく声を漏らした。
「んっ、は…じゃあ…」
「ん?」
「ヤり納め?」
目を丸くした室井は、少し考えてるように視線を浮かせて、青島に戻すとやんわりと微笑んだ。
「それなら、もっといっぱいしないとな」
室井の欲望が見え隠れする眼差しに、青島はその頬に触れて引き寄せると唇を重ねた。
―明日はまた長時間飛行機に乗るんだよなあ。
一瞬頭を過ぎったが、それは本当に一瞬だけ。
そんなことよりも、室井が欲しかった。
明け方になり、気絶するように眠りに落ちるまで、何度も求め合った。
それが新婚旅行最後の夜だった。
日本に帰った二人は、本当にしばらくすれ違いの毎日だった。
青島は夜勤ばかりのシフトで、室井は朝早くに出て夜中に帰ってくる生活。
それでも、二人の幸せだった。
一瞬顔を合わせれば嬉しくて、キスをして一緒に眠れる日があればそれだけで満足。
そんな毎日が永遠に続くわけではないことも分かっている。
貴重な一週間を思い出して、「あの頃は良かった」と思う日がくるかもしれない。
だけど、今の瞬間があるからこそ、幸せな思い出がある。
そう言える日々を過ごしたい。
青島も室井も、そう願っていた。
二人がそう願っていれば、幸せな日々を過ごすことはきっとそう難しくない。
END
こんなに内容がないのにびっくりする長さ…!(滝汗)
お疲れ様でございました…
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