ずっと傍に・その後 


「来週には退院できそうですね」
青島は増えてきた見舞いの品を整理しながら、呟いた。
漸く退院の目途が経ってきて、来週中には無事退院出来る予定である。
幸いなことに後遺症も出ず、元通りの生活が送れるということだった。
「そうだな…君には随分面倒を掛けた」
室井がベッドの上から、青島に柔らかい視線をくれる。
「やめてくださいよ。俺が好きで毎日来てるだけですから」
室井が目を覚ました後も、青島は毎日仕事帰りに病院に来ていた。
本当に青島が好きでしていることだった。
目を覚ましてからの方が、室井にしてあげられることは多い。
だから喜んで面倒を見た。
それに本音を言えば、毎日会いに来ないと少し不安だったのだ。
室井がまた眠ってしまうのではないか。
そんなわけはないのだが、どうしてもその不安が拭えない。
室井が目覚めない夢を見て、未だに夜中に飛び起きることがある。
こんな話は情けなくて室井に言えない。
だから何も言わずに、笑って会いに来た。
そして確認して帰るのだ、室井が生きてここにいることを。
青島は室井のベッドの縁に腰を掛けた。
そして、室井の頬に手を伸ばす。
「本当に、良かった」
頬を撫ぜながら小さく微笑むと、室井がその手を握ってくれた。
そして、その指先に唇を押し付けてキスをくれる。
「ありがとう」
「ん…」
そのまま室井が指先を口に含んだ。
ぎょっとして手を引こうとしたが、室井がそれを許してくれない。
「む、むろいさんっ」
慌てる青島の目の前で、室井が青島の指を舐める。
「君に、随分触れていないな…」
それはそうだ。
室井が事故に合ってから一月近く経っている。
その前から触れ合っていないから、三ヶ月くらいは無いかもしれない。
だからと言って。
「室井さん。ここ、病院」
一応釘を刺すと、室井が苦笑した。
「分かってはいるんだが…君が傍にいるのにな」
優しい眼差しに、青島は堪らなくなる。
そんなことは、青島だって感じている。
室井が傍にいる、生きて、ちゃんとここに。
それを強く実感しているのは、むしろ青島の方だ。
そして、もっとちゃんと室井を感じたいのも、青島の方だった。
青島は思わず空いた手を伸ばした。
意図を悟った室井が、青島の手を解放して腰を抱いてくれる。
そのまま唇を合わせた。
触れ合わせるだけでは満足できずに、舌を差し入れて深く求める。
室井も直ぐに応じてくれた。
久しぶりの感触に青島は眩暈を起こしそうだった。
室井の唇に夢中になり、唇を舐めて、舌を絡めて、吸い上げて、甘噛する。
濡れた音が病室に響いた。
「ん…」
手のひらでそっと室井の胸を押すと、少しだけ身体が離れた。
「…青島」
熱っぽい室井の声に、青島は背中がゾクゾクした。
指先で室井の唇をなぞりながら、困ったように笑った。
「どうしましょう、室井さん」
「どうしましょうと言ったって…今更引けないだろう」
青島の腰を抱く室井の手に力が篭る。
「誰か来たら」
「来ない」
「なんで言い切れるんですか」
「絶対来ない」
何故言い切れるのかさっぱり分からないが、室井は引いてくれる気はないらしい。
いくらここが個室でも、やはり公共の施設で致すことには抵抗がある。
あるのだが、青島自身引けないこともまた事実だった。
キスだけでこんなに興奮するのだから、室井に触れたくないわけがなかった。
だけど、青島はまだ躊躇う。
「けど、室井さん。大丈夫?」
「平気だ」
「まだ腹の包帯取れてないでしょ」
「…君がしてくれれば、平気だ」
しれっと言い返されて、青島は薄っすらと頬を染めた。
「そうきますか」
「青島」
グッと抱き寄せられて、腰に室井の高ぶりが当たった。
完全に形を変えているそれに、さすがに青島も驚く。
珍しくも室井は本気で我慢が利かないでいるようだった。
「室井さん…」
「欲しい」
短く言われて、カッと頬が熱くなった。
そんなことは言われるまでもなく、青島だって欲しいに決まっている。
「青島」
ぎゅっと抱きしめられて、首筋に熱い室井の息が掛かる。
「…っ」
こうなっては青島も堪らない。
室井の唇に軽くキスを送ると、薄く笑った。
「人が来ないことを、祈りましょうね」
室井も微笑して頷いた。

パジャマのボタンを外しながら、室井の首筋を舌でなぞる。
「ん…久しぶり…室井さんの匂いする…」
キスマークを残さないように、肌に吸い付かないように気をつける。
さすがに明日検診に来た医師が目を剥くような行為だけは、避けたいところだ。
室井の肌を味わっていると、室井が青島のネクタイに手を掛けて引き抜いた。
キレイな指先が、シャツのボタンも外していく。
青島は室井の腹の包帯を優しく撫ぜてから、手を下腹部に持っていった。
下着と一緒にパジャマのズボンを少し下げる。
既に形を変えた中心をそっと握ると、室井が少し息を詰めた。
「…っ」
「室井さん…」
手を動かしながら、室井にキスをする。
薄く開いた唇に舌を差し入れると、室井の方から青島の唇を求めてくる。
室井の舌に口内を蹂躙されながら、青島は必死に手を動かした。
室井の弱い所は、青島も良く知っている。
指先で強く擦ったり強弱をつけて愛撫すると、室井が眉を顰めた。
「気持ちいい…?」
「ああ…いい…」
低くて少しだけ切羽詰った色っぽい声。
その声に、青島も酷く興奮させられる。
室井の唇を舐めて離れると、躊躇うことなく下肢に顔を埋めた。
「くっ」
室井の呻く声を聞きながら、口に含んだそれを愛撫する。
舌を這わせると、口内で更に成長した。
見慣れたものとはいえグロテスクなそれだが、室井と思うと愛しく思えるから不思議である。
必死に舌と唇で愛撫していた青島の胸元に、室井が手を伸ばしてきた。
手のひらで胸元を撫ぜられ、指先で乳首に触れてくる。
「ん、ん…っ」
青島の口からくぐもった喘ぎ声が漏れた。
一度口からそれを吐き出すと、根元から舌を這わせた。
何度も舐め上げると、青島の唾液と室井の先走りで濡れてくる。
青島は小さく声を漏らしながら、室井を深く咥えこんだ。
「青島…っ」
室井が愛撫を止めて、青島の髪に手を差し入れてくる。
視線を持ち上げて室井を見ると、眉間に皺を寄せて快感に耐えていた。
室井が感じてくれている。
それが青島にもはっきりと分かって、凄く嬉しかった。
手で触れて、キスをして、肌を舐めて。
青島は確かめるように何度も室井に触れた。
室井が確かにここにいる。
それを自分の身体の全てで感じたかった。
青島の愛撫に反応する室井を見つめて、ようやく実感する。
室井は間違いなく、ここにいるのだ。
強くそう思うと、堪らなくなって、口に含んだ室井自身を激しく愛撫する。
頭を揺すって唇で扱き、舌を絡めた。
「くっ…青島…っ」
限界が近いらしく、室井の内股に力が篭る。
青島は室井をいかせるために、キツク吸い上げた。
「――――ッ」
引きつった声をあげて、室井が青島の口内で果てた。
「!」
構えていたとはいえ、その瞬間はやっぱり衝撃的である。
瞳を閉じて呼吸を止めて、室井の精を受け止める。
独特の味のするそれを、何とか飲み込んだ。
「…は…青島…」
浅く呼吸をしている室井に名前を呼ばれて、青島はそこから顔を上げた。
唇を手の甲で拭うと、室井の首に手を伸ばした。
身体を寄せて、唇を重ねた。
「…っ、あお…っ」
室井の言葉ごと飲み込んでしまうような、情熱的なキスをする。
「室井さん…室井さん…」
その存在を確かめるように、キスの合間に何度も名前を呼ぶ。
「室井さん…っ」
夢中でキスを仕掛けていると、不意に室井に背中を叩かれた。
宥めるように、ポンポンと軽く優しく叩かれる。
青島はキスを止めると、そっと唇を離した。
「…室井さん?」
至近距離で室井を見つめる。
「大丈夫だ」
優しく微笑まれて、手の甲で頬を撫ぜられた。
「ちゃんと、ここにいるから」
「…っ」
緩くなりそうな涙腺を、グッと堪える。
室井の前で、もういっぱい泣いた。
見せたいのは涙ではないし、伝えたいのは悲しみではない。
青島がどれだけ想っているか。
室井はそれだけ知っていてくれれば良い。
青島は自分のベルトに手を掛けた。
その手を室井に取られて、変わりに室井の手がベルトを外してくれる。
膝まで脱がされると、後は自分で脱いだ。
シャツを羽織っただけの姿で、室井の腰を跨ぐ。
室井が自分の唾液で濡らした指を、抱いた青島の腰の奥に持っていく。
「ん…」
「大丈夫か?何の準備も無くてすまないが…」
そこを愛撫しながら心配そうな室井の声に、青島は息を潜めて笑みを零した。
「入院中の室井さんが…ん、準備万端、だったら怖いよ…」
つられたように、室井も苦笑を零す。
「それもそうだな」
「ふふ…」
青島は両手で室井の頬を包んだ。
額をつき合わせて、唇の届く距離で囁く。
「いいんだ…」
「ん?」
「アンタがくれるなら、なんだっていい…」
吐息混じりに微笑すると、室井が息を飲んだ。
「青島…」
室井の指の動きが早くなる。
「ん…あ、ああ…っ」
「すまない、少し辛いかもしれないが我慢してくれ」
少し強引に中を解すのは、のんびり愛撫しているだけの余裕が無いからだろう。
室井が首筋に吸い付いてくる。
室井の方は何の遠慮もなく、青島の肌に赤い痕を残していく。
いつもなら文句を言う青島だったが、今日に限っては嬉しくて仕方なかった。
喉元に吸い付いた室井が、囁いた。
「早く入りたい…」
「…っ」
浅ましく中が収縮したのがはっきりと分かって、青島は赤面した。
それでも我慢が出来ずに、室井のそれに手を伸ばした。
達したばかりなのに、ちゃんと反応してくれている。
「むろ、いさん…っ」
「大丈夫か…?」
青島を気遣いつつも、室井は返事を待たずに指を引き抜いた。
そこに青島は自分の手で室井のそれを導くと、手で支えながら腰を落とす。
「うあ…っ」
短く喘いで、後は唇を噛む。
ここが何処だか、いっそ忘れてしまえたら楽だったのだが、そうもいかない。
青島は必死で声を飲み込んだ。
「青島…っ」
「ん、ん…室井さん…」
室井の切羽詰った声を聞きながら、身体を動かし室井を愛撫する。
「大丈夫…?身体…あ、あ…っ」
室井の怪我に響かないように、室井の肩に手を付いて身体を支え、自分で必死に動いた。
青島の気遣いは知っているのだろうが、室井は構うことなく青島を抱き寄せて身体を密着させると下から突き上げてくる。
青島は慌てて自分の両手で口を押さえた。
「ん、んんっ…んー…っ」
喉を反らせて喘ぐと、室井がそこに噛み付いた。
すぐ傍で聞こえる室井の荒い呼吸に、青島はすぐにも果てそうだった。
「青島…っ」
「ゴメ…っ、も、ムリ…っ」
自分のシャツ越しに、自分自身を掴む。
そのまま出せば、室井の包帯に直撃するからだ。
「青島…いいから、俺の手に出せ…っ」
室井は青島の手毎、それを掴んだ。
「んぁ…っ」
堪えきれなかった高い声を漏らすのと同時に、青島が果てる。
「くっ…青島…っ」
それに誘発されるように、室井も青島の中で果てた。
中で室井の射精を感じながら、青島は背中を震わせた。
「はっ…はぁ…」
身体を前に倒して、室井の首筋に顔を埋めた。
全速力で走った後のように肺が呼吸を求める。
酷く苦しいが、こんなに満たされた気分になるのは久しぶりのことだった。
どれだけ室井に飢えていたのか。
青島は室井の肩に唇を押し付けた。
室井も荒い呼吸を繰り返している。
それでも手は優しく青島の髪を梳いてくれていた。
青島は心地よさに身を任せて、瞳を閉じた。
静まり返った部屋に、互いの呼吸する音だけが響く。
しばらくの間、どちらも言葉はなかった。

身体の熱が少し引いて、頭に理性が戻ってくる。
「大丈夫か…?」
抱き合ったままの体勢で、室井は真っ先に青島の心配をしてくれた。
が、怪我人なのも無茶をしてはいけなかったのも室井の方だった。
青島は照れ臭くて微苦笑した。
「室井さんこそ」
「俺は大丈夫だ」
と言って視線を下に向けるから、つられて青島も見る。
「…包帯、無事でしたね」
何から、とは言わない。
室井も苦笑しているから、説明の必要は無かった。
「そうだな…青島」
「はい?」
「どうやって、帰る?」
「……シャツ脱いでコート着て帰りますか」
苦笑を浮かべた青島に、室井が触れるだけのキスをくれる。
「すまない」
「謝んないでくださいよ」
「…ありがとう」
「それなら、良いです」
青島はキスを返すと、大きく笑った。
「俺こそ、ありがとう!」

この日から、ようやく青島は悪夢を見なくなる。










END






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