■ Before I know・その後


恋人が出来て三ヶ月。
普通だったら一番楽しくて仕方がない時期のはずだが、青島は何故か沈んでいた。
折角のデートで、室井の自宅に向かっている途中だというのに。
いや、幸せなことは幸せなのだ。
室井のまどろっこしいアプローチには全く気が付かなかった青島だったが、室井の真っ直ぐな告白にようやく自分の気持ちを悟り、室井とそういう意味で交際するようになり三ヶ月が過ぎていた。
相変わらずできる限り時間を作り、二人で会っている。
室井と会うのはとても楽しい。
ちゃんと幸せだとも思う。
しかし、青島は沈んでいた。
理由は簡単、室井とキス以上の行為がないからである。
30前後のいい大人の恋愛とは思えない、やけにプラトニックなお付き合いなのだ。
青島だってそれが全てとは思っていないが、好きな人と付き合っていれば相手に触れたくなるのは当然のことである。
実のところ、青島は室井とそういう関係になりたかった。
室井に告白される直前まで自分の気持ちに気が付かないような鈍感な青島だが、一度好きだと認めてしまえば、青島だって男だ。
好きな相手が欲しくないわけがない。
男同士なわけだから、室井が触れてくるのを一方的に待っている必要も無い。
我慢できないのであれば押し倒してしまえばいい話だが、正直室井がしたがっているとは思えなかった。
何となくそんな雰囲気になったことは何度かあるが、室井が何かしらのリアクションを起こすことはないし、むしろそんな雰囲気になるのを避けられているような気さえする。
そんなことを感じていては、室井を押し倒すこともできない。
レイプなんてことになっては洒落にならない。
間違えてもそんなことはしたくない。
触れたいとは思うが、室井を好きだからこそ、大事にしたいという思いもあった。
青島は辿りついた室井の自宅の前で一つ溜息を吐くと、気持ちを切り替えた。
インターホンを押すと、室井がドアを開けてくれる。
「お疲れ様」
小さく微笑んで迎えられると、やはり幸せを感じずにはいられない。
青島も笑顔で応じた。


室井が作った夕食をご馳走になりながら、酒を飲む。
実家から送ってくるらしく、室井の家にはいつも美味しい日本酒があった。
ほくほくとした顔で酒を煽る青島に、室井は苦笑した。
「君は飲ませ甲斐があるし、食わせ甲斐があるな」
「ああ…よく言われます、それ」
作る側にすると嬉しいみたいですねと何気なく零すと、室井の表情が一瞬曇った。
青島が「ん?」と首を捻ると、すぐに無表情になる。
「…なんでもない」
明らかに何でもなくない室井の表情に、青島は何となくピンときた。
これでも、室井の表情は大分読めるようになってきたのだ。
室井さんが嫉妬してる、そう思って笑みを零しそうになるのを何とか堪えた。
青島が言った台詞を、昔の彼女に言われた台詞だと判断したらしい。
確かに言われたことはあるが、青島が思い出していたのは昔の彼女のことではない。
「言っておきますけど、良く言われたのは母親ですよ?」
室井の眉がぴくりと動く。
「そうか」
「室井さん料理美味いから、何となく母親のこと思い出しました」
言うと、室井が目を剥いた。
「それはそれで、複雑だな」
室井が思わず本音を零したから、青島は声を漏らして笑った。
それでは、『昔の彼女に嫉妬しました』と白状したようなものである。
「昔の彼女、とか言って欲しかったです?」
青島の突っ込みに、室井は失言だったと気が付いたらしく、気まずそうに眉間に皺を寄せた。
「意地が悪いぞ、青島」
「へへへ…」
嬉しさを隠さずに微笑むと、青島は室井の傍ににじり寄った。
少しだけ酔いに任せて、室井の唇を奪う。
驚いた顔をした室井だったが、青島の頬に手を添えてくれる。
「ん…室井さん…」
青島はそのまま舌を差し入れて、室井を深く求めた。
舌を絡めて夢中で口づけているうちに、勢い余って室井を押し倒してしまう。
それでも青島は止められなかった。
室井が欲しかったからだ。
「あ、青島…っ」
室井の上ずった声にハッとして唇を離すと、至近距離で室井が視線を泳がせた。
明らかに困っている。
やはりだめなのだろうか。
室井に拒まれたのだと思うと、胸が痛かった。
青島は目を伏せた。
「…室井さん」
「な、何だ」
「俺のこと、本当に好き?」
「当たり前だろ」
慌てた室井の声に、青島は顔を上げた。
「俺も室井さんが好きだよ」
想いを伝えたのは初めてではないが、室井は目を見開いて青島を見ている。
「キスしたいし触れたいしセックスしたい」
はっきりと言ったら、室井の表情が変わった。
心底困った顔。
青島はそれを見てショックだった。
室井の気持ちを疑っているわけではない。
どれだけ手間を掛けて自分を口説こうとしてくれたかは、三ヶ月くらいで忘れたりしない。
また、三ヶ月くらいで、その室井の気持ちが変わってしまったわけがない。
分かってはいるが、もしかしたら青島をセックスの対象としては見られないのかもしれない。
青島だってそうだったが、これまでの室井の恋愛相手は女性だったと聞く。
キスをするのは、青島を好いていてくれるからだろう。
だけど、セックスできないのは、その身体に欲情しないからではないだろうか。
気持ちはあっても身体が反応しない、もしくは拒絶する。
女性としか恋愛をしてこなかった室井だから、有り得ないことではない気がした。
青島にはそれが悲しかった。
自分が室井を欲しているだけに、それを自覚しているだけに、余計に悲しかった。
青島は俯いて、室井の上から身体をどけた。
「すいません、今日はもう帰ります」
立ち去ろうとした青島の腕を室井が掴む。
「待ってくれ」
思わず室井の腕を振り払うが、すぐにまた掴まれた。
「頭、冷したいんです」
泣きそうになる顔を見られたくなくて、顔を伏せた。
この場にいたくなかったのだが、今度は腕をしっかりと捕らえられて離してもらえない。
「青島」
「離してくださ…」
室井の腕に抱きこまれて、言いかけた言葉を飲み込む。
感情が高ぶって緩みそうになる涙腺に、力を込めた。
「室井さん、無理しないでいいんだ」
「そうじゃないんだ、青島」
「俺だってセックスが全てと思ってるわけじゃない。アンタがしたくないなら…」
「だから、そうじゃないんだ」
焦れたように言いながら強く抱きしめられて、青島は室井の腕の中で眉をひそめた。
室井の言いたいことが分からない。
したくないから、青島を拒んでいるのではないのか。
青島が沈黙すると、室井が酷く言い辛そうに口を開いた。
「……君は、男同士がどうやってするか、知ってるか?」
思わぬ質問に、青島は目を剥いた。
「へ…?あ、ああ…大体は」
基本的には男女のそれとそう変わらないだろうが、強いて言えば使用する器官が違うだけである。
だけと言いきるには、大き過ぎる違いだが。
青島の返事を聞いて、室井は更に言い辛そうに躊躇った。
それでも言わないわけにいかないと思ったのか、ぼそぼそと呟く。
「男同士の場合は…その、される側とする側があって…」
「…はあ」
「つまり…君は、俺を…」
「えーと?」
「だから…っ」
室井は抱きしめていた青島を放すと、その両肩を掴んで真正面から見つめた。
もとい、睨み付けた。
ご丁寧に眉間に皺まで寄せている。
青島は何を言われるのかさっぱり分からずに固唾を呑んだ
「君は、俺を抱きたいか?」
「は…?」
ポカンと口を開ける。
じっと室井に見つめられて、青島はやがて赤面した。
「だ、抱きたいって…」
「俺たちの場合は、どちらかがどちらかにならないと抱き合えないだろう」
「そ……れは、そうですけど…」
青島だって何も考えずに室井と触れ合いたいと思っていたわけではない。
ただ、どっちがどうということよりも、室井としたいという思いの方が先行していたのは事実だ。
青島にしてみれば、「室井さんよりも俺の方が体格が良いし、そうするべきかな」というくらいに思っていただけで、はっきりと室井を抱きたいと思っていたわけでもない。
抱き合ってみて成り行きに任せてしまえば良いとさえ、思っていた。
だから室井に改めて聞かれて、驚いた。
驚いた顔をしている青島を見ながら、室井は意を決したように言った。
「君としたくないわけないだろう」
「室井さん…」
「俺がどれだけ君を好きだと思ってる」
また頬が熱くなる。
どこでスイッチが入れ替わるのか。
青島にはまだそのタイミングが掴めていないが、捜査の時と一緒で恋愛中の室井も開き直ると青島の手には負えない。
真っ直ぐな視線に耐えかねて視線を反らそうとした直前、室井がようやく本音を口に出した。
「俺は君を抱きたい」
「!」
息を飲んだ青島は、耳まで赤面した。
そして、室井が青島とのキス以上の行為に躊躇っていた理由が、やっとわかった。
成り行きに任せようと気楽に構えていた青島と違って、室井ははっきりと青島を抱きたいと自覚していたから、行為に踏み切れなかったのだ。
青島の思惑次第では絶対に先には進めないし、下手をしたら青島に無理強いすることになるかもしれない。
そう考えていたのではないだろうか。
青島が室井を傷つけたくないと考えたように、多分それよりももっと切実に、室井は青島のことを大切に考えてくれていたのではないだろうか。
青島は手を伸ばして、室井の背中を抱いた。
当然のように室井も抱きしめてくれる。
「もしかして、そんなことずっと考えてた?」
「…笑うなよ」
「え?」
「思春期みたいに、そのことばかり考えてた」
室井の思わぬ告白に、青島は笑みを零した。
笑うなといわれても、無理な相談だ。
バカにしたわけではない。
嬉しかったのだ。
「室井さん」
「なんだ」
「俺も、一緒です」
耳元で囁くと、室井がぎゅっと抱きしめてくれた。
「そっか」
「はい」
「それで…青島」
「はい?」
青島の顔を覗きこむようにして、室井はまた眉間に皺を寄せた。
室井の緊張が伝わってくる。
「俺に抱かれるのは、嫌か?」
青島は笑みを零すと、室井の唇を奪った。
「…全然」
小さな呟きだったが、室井はちゃんと聞き届けてくれた。


ベッドに場所を移すと、キスをしながら室井のシャツに手を掛けた。
ボタンを外しながら、舌を絡め合う。
「前から思ってたんですけど…」
「ん?」
「室井さん、キス上手いですよね」
青島が室井を好きだからかもしれないが、室井とのキスはいつだって気持ち良かった。
「そうか?」
「いっぱい経験あったりして?」
茶化すように室井を覗き見ると、室井が苦笑した。
「経験がないとは言わないが、大したことは無いと思うぞ」
言いながら、青島の服に手を掛ける。
互いの服を脱がしあいながら、何度もキスをした。
「…ん…じゃあ、やっぱり器用なんだ…」
室井の唇を舐めて顎を掠め、ボタンの外れたシャツを肌蹴させて首筋に吸い付く。
「…っ…青島…」
「ん…?」
首筋から顔を上げて上目使いで見つめると、室井が目を細めた。
その瞳から室井の興奮が伝わってくる。
「俺も、君に触れたい」
青島の背筋が震えた。
室井が自分を欲しがってくれているのが分かるから。
「室井さん…」
室井がそっと手を伸ばしてくる。
頬を包まれて、引き寄せられた。
青島は照れくささと嬉しさで笑みを零した。
室井が望んでくれていることが、これ以上ないくらい嬉しかった。
室井に引き寄せられるままに、唇を重ねる。
そのまま、後に押し倒された。
室井を見上げる形になり、青島は躊躇わずに両腕を室井の首に絡めた。
「大好きですよ」
額をつき合わせて、室井が微笑んだ。
「俺もだ」
室井の手が青島のシャツを開くと、首筋に顔を埋めてくる。
「…ッ」
鎖骨の辺りをキツク吸われて、息を呑んだ。
青島からは見えないが、痕が残ったはずだ。
それを少し眺めてから室井はもう一度、今度はもう少し胸の近くに吸い付いた。
「これが、しばらくは君の胸に残るのか…」
嬉しそうな室井の声。
青島は顔に熱が集まるのを感じた。
堪らなく照れくさい。
首を逸らした青島に気付くことなく、室井はそのまま唇を胸元に滑らせた。
室井が乳首に舌で触れた瞬間に、青島の唇から吐息が漏れる。
今までにちょっと感じたことの無い感覚である。
思えば女性とのセックスでは、自分のそこを意識したことは余り無い。
そこを口に含まれて、もう片方を室井の指で触れられる。
「あっ」
掠れた声が上がって、慌てて口を塞ぐ。
室井が胸元から顔を上げた。
「気持ち良くないか?」
不安そうな顔。
男同士で抱き合うことなどお互いに初めてだから、室井も勝手が分からないのだろう。
喘いでいるわけだから気持ち良くないはずがないのだが、室井の目には声を殺した青島の顔が辛そうに見えたらしい。
青島は慌てて首を横に振った。
「いや…ちゃんと気持ちいいですよ」
ちょっと恥ずかしい自己申告だった。
「そうか?それなら良いんだが…」
尚も不安そうな室井に、青島は仕方が無いから素直に言った。
「変な声が出るから、ちょっと恥ずかしかっただけです」
変な声、つまりは喘ぎ声だ。
それが伝わったのだろう。
室井は少し目を瞠って、それから嬉しそうに微笑んだ。
「気にしないで、出せばいい」
「…そんなこと、言われても」
「俺は聞きたい」
青島はさすがに赤面した。
「も…いいから、続きしてくださいよ…」
そんなことを言われては、恥ずかしくて仕方が無い。
「了解した」
生真面目な返事が返って来て、再び愛撫が再開される。
乳首を室井の舌や唇で愛撫されて、青島は顎を逸らす。
この人、やっぱり本当は凄い経験豊富なんじゃないか?
背中からせりあがってくる快感に耐えながら、青島はそんなことを考えていた。
青島が愛撫されるという行為に慣れないから、そう感じているだけかもしれない。
「ん…ん…っ」
青島が小さな声を漏らすと、そこを重点的に責められる。
生真面目な性格が災いしているのか、青島の様子を細かく気遣いながら触れてくるので、逆に青島の小さな反応も見逃さない。
おかげさまで青島は乳首を舐められるという初体験で、それの快感を教えられてしまった。
「あ…っ」
上ずった声に、室井が顔を上げた。
嬉しそうな顔をしている。
「いい声、出すな」
青島は音を立てる勢いで赤面した。
「あ、あほな事言わないでくださいよ」
「事実だ」
「…っ」
室井が嘘を吐くわけがないから、そんなことは分かってる。
本当にそう思ってくれているのだ。
だがそんなことを言われたら、青島の方が堪らない。
こういうのも、言葉責めというのだろうか。
ぼうっとしている頭の片隅で、アホなことを考えていた。
その間にも、室井の手がベルトに掛かる。
ベルトを外してしまうと、下着と一緒にスラックスを脱がされる。
「…む、室井さんっ!」
青島は顔を背けて、室井を呼んだ。
「なんだ」
「そんなにじっくり見ないでくださいよ!」
室井がじっと青島の裸を眺めているのだ。
羞恥心くらい、青島にだってある。
ついてるものはアンタと一緒だ!と、心の中でそう叫んだ。
「いや…キレイだなと思って」
「〜〜〜〜〜っ」
もう青島には言葉も無い。
室井は一度腹を括ると度胸が据わっているのだ。
捜査中に見せる室井のそういう姿が大好きだったのだが、今は嬉しくともなんとも無い。
ひたすら勘弁して欲しかった。
「触るぞ」
要らない断りにクラクラしながら、青島は瞳を閉じた。
中心に触れられる室井の手の温度に、身体が小さくはねる。
先の愛撫で既に形が変わっていたが、室井に触れられるだけで直ぐに新しく反応してしまう。
「んっ…あ…っ」
反射的に唇に手の甲を押し付けた。
自分の呻き声と濡れた音が聞こえてきて、ついでに耳まで塞ぎたくなった。
「青島…」
室井の手の動きが早くなる。
「あっ…ぅあ…っ」
声をあげるたびに、弱い部分を責められる。
不意に室井の手の動きが止まった。
「……?……!」
青島は閉じていた瞳を見開いた。
そこに濡れた感触を感じたからだ。
「うわっ!ちょ、ちょっと!室井さん!」
「……なんだ」
一度口に含んだソレを出して、室井は顔を上げた。
「そんなことしなくてもっ」
された経験がないわけではないが、青島だってした経験はない。
室井も未経験のはずだから、抵抗があると思ったのだ。
だが、そう思ったのは青島だけだったようで、室井は再び平然とそこに唇を寄せた。
「気持ち良くないのか…?」
舌でなぞられる。
「そういうことじゃな……うぁ」
否応なく声が上ずった。
気持ち良くないかと聞かれれば良いに決まっている。
「ああ…っ」
青島は思わず目を閉じて、快感をやり過した。
「イイみたいだな…」
嬉しそうな室井の声が聞こえて、青島はいよいよ目を開けられなくなった。
「くそっ…アンタ、嘘だろ…っ」
「何が?」
「男、初めてだって…騙されたっ…ん、ん…っ」
「そんな嘘吐いてどうする…」
室井は呆れた声でいいながら、そこを扱く。
たまに先端を口に含まれて、青島は唇を噛んだ。
「ん、ん…じゃあ、なんでそんなこと平気…っ」
「君のだから、平気なんだろうな」
「…っ…ああっ」
「いい声だ…」
どんな耳をしているんだと青島は思った。
女の子みたいに細くて高い可愛い声ではない。
みっともなく掠れて上ずった男の声だ。
それでも室井は嬉しそうだった。
「もっと、聞きたい」
深く喉の奥まで咥えられる。
室井の口内に包まれ唇で扱かれて、愛撫される。
「…あ、あっ…ちょ、ま、って…」
急に強くなった快感に、青島は慌てて身体を起こした。
「…青島?」
「それ以上は、いいです」
「やっぱり気持ち良くないのか?」
「……気持ち良くなきゃ、こんなことになってるわけないでしょ」
青島は自分の下半身を指差してぼやいた。
男の興奮など一目瞭然である。
室井の手で、唇で、姿を変えたソレは、明らかに快感を訴えていた。
「では、何故」
「……それ以上されたら、俺がもちません」
「…?」
「俺一人だけ、イッちゃうでしょ」
照れ臭さに頬を染めて訴えると、室井が一瞬きょとんとして、それから微笑した。
「俺は構わないが」
「俺は構うんです…一緒に気持ち良くなりたい」
青島だけ気持ち良くても、嬉しくないのだ。
室井にもちゃんと気持ち良くなって貰いたい。
その青島の気持ちが通じたのか、室井がそっと青島の頬に触れて唇を寄せてくる。
柔らかいキスを繰り返すと、少し離れた。
「少し、待ってくれ」
「…?はい」
ベッドを降りると、タンスの引き出しからなにやら取り出す。
それが、ゴム製品とローションらしき液体のボトルだったから、青島はちょっと驚いた。
その顔を見て、室井が苦笑を浮かべる。
「したかったのは、君だけじゃないぞ」
室井も青島としたいとちゃんと思ってくれていたのだ。
中々行動に移せなかっただけで、ちゃんと準備してくれていたらしい。
青島はちょっと赤くなりながら、それでも嬉しくて、両手を伸ばして室井を抱きしめた。

ローションのひんやりとした感触に、青島は息を詰めた。
触れる室井の手に、青島は何も考えられない。
ただでさえ足を開いて、人目に触れたことのない箇所を室井に晒しているのだ。
まともな思考回路など、保てるわけがない。
ローションで濡れた室井の指が、侵入してくる。
思ったより痛みがないのは、ローションのおかげだろう。
室井の指が慎重に動く。
「…っ」
どうしたって身を堅くしてしまう青島を気遣ってか、室井が優しく太腿を撫ぜてくれる。
「青島、痛むか?」
「へ…きです…」
中に埋めた指をゆっくりと動かし、馴染ませる。
「ん…んん…」
室井が指を動かすたびに、小さく声が漏れた。
知識としてそこで感じられることは知っていたが、実際に体感して驚いた。
有り得ないほどの違和感は感じているが、ちゃんと気持ち良いとも感じていた。
二本目の指が挿入される頃には、青島はまた自分の口に手を押し当てていた。
「うっ…っ」
「青島…」
そこを愛撫しながら、室井が青島の手に唇を押し付けた。
「無理に出せとは言わないが、苦しかったら我慢しないでくれ」
優しく促されて、青島は頷いたがやっぱり手は離せない。
自分の喘ぎ声には、まだどうしても抵抗があった。
室井も優しく唇を押し付けてくれるが、無理に手を取ろうとはしなかった。
青島は呼吸を乱しながら、室井を見上げた。
青島を気遣いながら愛撫してくれる室井だが、その瞳の中に常には無い熱を感じる。
捜査の時に感じる熱さとはまた違った、青島が今までに見たことのない色。
きっと室井も欲情しているのだ。
それを感じて、青島は口元から手を離すと、室井に手を伸ばした。
意図を察したのか、室井が唇を寄せてくれるから、遠慮なく口付ける。
青島から舌を差し入れると、室井が当然のように受け入れてくれた。
舌を絡めて吸いつくと、中を愛撫する室井の動きが大きくなった。
「あっ」
青島の背が自然としなって、唇が離れる。
「も…室井さ…」
「ん…?」
青島は上手く出来ない深呼吸をした。
「もう…大丈夫、多分…」
途切れ途切れに言うと、室井は青島を見つめて軽く唇を重ねた。
そっと指を引き抜くと、コンドームの封を切った。
生々しい様は見ていられなくて、青島は瞳を閉じると視線を逸らした。
室井とセックスしているのだと、実感した。
異常にドキドキしているが、どこかに冷静な自分もいて、室井と一つになれることを喜んでいた。
人と触れ合って、こんな感情の高ぶりを感じるのは初めてだった。
室井が覆い被さってくるから、青島は視線を室井に戻した。
「青島…大丈夫か?」
どこか不安そうな室井の眼差しに、ふっと微笑む。
受け入れる青島よりも、室井の方が心配そうだ。
微笑みながら、優しい恋人の首に両手を回した。
「やってみないことには分かりませんけどね」
ニコッと笑う青島につられてか、室井も表情を緩める。
「それはそうだな」
「でも、きっと大丈夫」
「ん?」
「愛があるから、大丈夫」
悪戯っぽく笑った青島に、室井は一瞬目を丸くしたがやがて微笑んだ。
そして優しいキスをくれると、時間を掛けて慣らしたそこに、ゆっくりと侵入してくる。
「―――っ」
青島は声にならない声をあげて、瞳をキツク閉じた。
慣らしたしローションの効果もあるのだろうが、やはりその衝撃といったら無かった。
痛いことには痛かったが、それは我慢できないほどではない。
だが、元々そこは受け入れる場所ではないから、押し広げられる感触にどうしても息を詰めてしまう。
身を堅くしている青島に、室井がキスを繰り返してくれた。
「青島…青島…」
キスの合間に名前を呼ばれて、青島はそっと瞳を開けた。
やっぱり心配そうな室井の顔を見て、苦しいながらも青島は笑みを零した。
それにホッとしたのか、室井が軽く腰を揺すった。
「ん…っ」
「分かるか?全部君の中だぞ…」
「…っ、あ、マジっすか…凄いっすね…」
思わず漏れた他人事のような感想に、室井が笑った。
その振動が中から伝わって、青島は身を捩った。
それが室井自身にも跳ね返ったのか、小さく呻き緩く腰を使い出す。
同時に青島のそこを握り込み、愛撫してくれる。
「あ…っ…あ、ああ…っ」
さすがにもう、声を殺せない。
押さえるだけの余裕が無かった。
今までに感じたことのない種類の快感を感じる。
青島は室井の動きに合わせて呼吸をすることが、精一杯だった。
それに合わせて声が漏れるが、もう気にしていられなかった。
「ん、ん…っ」
「青島…っ」
どんどん大きくなる室井の動きに、青島は仰け反った。
その腰を両手で掴んで、室井が腰をぶつけてくる。
深いところを突かれて、信じられないほどの快感を与えられる。
生理的な涙で緩んだ瞳で室井を見上げると、眉を顰めて荒い呼吸を繰り返していた。
室井も興奮しているのだ。
そう思ったら、もの凄く嬉しかった。
それと同時に、青島自身も更に興奮する。
限界が近い。
青島は手を伸ばすと、自身を愛撫した。
「…っ、むろ、さ…もう、イキそ…っ」
「くっ…俺もだ、青島…っ」
自身を愛撫する青島の手に、室井の手が重ねられる。
そのまま青島の手毎扱き上げられて、青島は喉の奥で悲鳴を上げた。
それと同時に最奥を突かれる。
「室井、さんっ…好き…っ、好き、で…すっ」
無意識に口走った告白。
「青島っ」
青島は切羽詰った室井の声を聞きながら痙攣し、それを追う様に室井も動きを止めた。

青島の上に身体を投げ出して、整わない息の下で、室井が言った。
「愛してる」
だるい腕を持ち上げて、青島はその背中を抱きしめる。
これ以上ないくらい幸せな気持ちで、瞳を閉じた。









END






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