■ こんにちは、赤ちゃん(3.5)


赤ちゃんが寝たのを確認してから、室井は電気を消した。
当然の如く、青島のベッドに入ってくる。
「夜鳴きとか、しないですかね」
赤ちゃんが起きないように小声で尋ねると、室井が苦笑を漏らした音がする。
暗くて表情までは見えない。
「どうだろうな」
こればかりは、赤ちゃん次第である。
「…しないことを、祈りましょうね」
「そうだな」
「じゃあ、おやすみなさい」
青島はすぐ傍の室井の頬に唇を押し付け、これくらいなら煽ったことにはならないよなあと、自分に言い訳をした。
一瞬の間の後、室井が動いた。
「おやすみ」
少し身を乗り出した室井に、キスされる。
触れるだけの優しいキスが心地よくて、青島は目を閉じた。
が、何度も繰り返されて、少し慌てる。
「ちょ、ちょっと、室井さ…」
柔らかい口付けを繰り返す室井に、青島は小声で制止をかけた。
室井が唇の触れる距離で動きを止める。
「キスだけなら、いいだろう」
小声で返事が返って来て、また唇が降ってくる。
青島はその唇を受け入れながら、キスの合間に文句を零した。
「ダメ、ですって」
「なんで」
「キス、だけで、終わらな、」
そう訴えると、室井がまた動きを止め、不服そうな声で言った。
「俺にも理性くらいある」
青島は溜息を吐いた。
室井が我慢できなくて襲い掛かってくると思ったわけではない。
青島が言いたかったのは、室井の都合ではなくて青島の都合だった。
「そんなことは知ってます」
「…なら」
「俺は自信ないです」
「は?」
「俺が、キスだけで止める自信が無いって言ってんですよ」
理性が無くてすいませんねとイジケ気味に言うと、室井が目を剥いた、ような気がした。
さすがに青島も照れくさい。
「もう…どいてくださいよ」
身を乗り出していた室井の胸をそっと押しのける。
だが、室井はどいてくれない。
それどころか、身体ごと乗り上げてきた。
「むろっ」
唇を塞がれる。
先程までとは違って、触れるだけのそれではない。
唇を割って、室井の舌が差し入れられた。
青島が呆然としている隙に、舌を絡め取られて吸い上げられる。
唇を合わせたままくぐもった抗議の声を漏らすが、聞き届けてはもらえない。
「青島…」
唇を甘噛みする室井を、青島は睨んだ。
「何、考えて…」
「すまない」
潔い謝罪だが、やっぱりどいてはくれない。
至近距離で青島を見下ろしたまま、固まっている。
「前言撤回してもいいか」
「……理性的な室井さんの方が魅力的ですよ?」
「こんな俺は嫌いか」
恐ろしく卑怯な台詞で、青島は言葉に詰まる。
しかも真面目に聞いてくるから、始末に終えない。
性質が悪いのはどっちだよと内心でぼやきながら、青島は室井の頬に手を伸ばした。
「欲望丸出しな、アンタも好きだよ」
室井がその手を掴んで、甲にキスをしてくる。
「良かった」
嬉しそうな声と愛しげに触れて来る唇に、青島の頬が熱くなる。
青島だってここまできて何も感じていないわけではないのだ。
『自信が無い』と言った通り、深いキスをすれば室井が欲しくなることは分かっていた。
だが、しかし。
視線を横にずらせば、ベッドの下で赤ちゃんが眠っている。
赤ちゃんが何も分かっていないとはいえ、その真横で致すのはやはり如何なものかと思うのだ。
青島は愛想笑いを浮かべて、最後の抵抗を試みた。
「でも、ここは理性的にいきませんか?」
「青島」
室井の顔が一段と近くなった。
「は、はい?」
「すまない」
青島のさして意味のない「何が?」という質問は、室井の唇に飲み込まれた。


シーツに肘を付いた体勢で背後から室井に抱きしめられて、首筋にキスをされる。
前に回された手が、胸元を撫ぜた。
数度繰り返されて、軽く立ち上がった乳首に指先が触れる。
青島は上げそうになる声を飲み込んだ。
「青島…」
そこを愛撫しながら、耳元で室井が囁く。
青島の背中が小さく跳ねた。
背中にも室井の唇が降ってくる。
室井の手のひらが、胸元から腹を通って下腹部に滑る。
「んっ」
中心に触れられて、小さな声が漏れた。
そんな青島を室井は酷く愛しそうに見つめていたのだが、背後から覆い被さってくる室井の表情など、青島には分かるはずも無かった。
ただ、触れてくる手の優しさは感じている。
そっと労わるような、気遣うような優しい手。
なのに、どんどんと青島から快感を引き出していく。
この時ばかりは、手先が器用な室井が恨めしい。
室井の手の平に導かれて、中心は既に形を変えていた。
青島はシーツに突っ伏して、呼吸と一緒に漏らしそうになる声を必死で飲み込む。
「…っ…ふ…っ」
室井が青島の頭を撫ぜてくれる。
「青島…少しくらいなら、大丈夫だろ…」
声を出しても、ということだろう。
青島は背後を振り返って、室井を睨んだ。
「…他人事だと…思ってっ」
少しだけ喘ぐなんて器用な真似が出来るものか。
一度漏らせば、我慢が利かなくなる。
赤ちゃんが起きてしまうではないか。
上気した顔で睨みつける青島に、室井は愛撫の手を止めて唇を寄せてくる。
瞼にキスをされた。
「すまない」
本当にすまなそうにしている室井に、青島は少し呆れた。
半ば強引に持ち込んだくせに、青島が辛そうにしていると申し訳なく感じるらしい。
首を伸ばすと間近にあった室井の唇を奪う。
「謝らないでいいから、責任取ってください」
こんな状態になってから室井に後悔されても、青島だって困る。
ここで理性を取り戻した室井に止められでもしたら、青島が逆に襲って乗っかってやるところだ。
舌を出して笑うと、室井が真顔で頷いた。
「それは、もちろんだが」
「じゃあ、意地悪しないでくださいね」
室井が意味を悟るまでに数秒かかった。
焦らしたりしつこく責めたりするなということである。
素直に『イかせて』と言っているのだ。
室井は微笑した。
「了解した」
青島の唇にキスを返してから、室井は徐に自分の指を咥えた。
次の行動が読めた青島は、更に顔が熱くなるのを感じながら、またシーツに顔を埋める。
後に室井の指が宛がわれた。
傷つけないようにそっと侵入してくる。
「青島」
室井は青島の項にキスをしながら、愛撫を加える。
慣れてきた内部で少し激しく動かされると、青島の呼吸が乱れた。
シーツから顔を上げない青島の様子を気遣いながら、室井は指を増やして慣れさせる。
お願いが効いているのか、焦らさずに青島の弱い所を責めてくる。
「ぅあっ」
思わず仰け反って声を漏らした。
青島は慌てて仰け反った身体を元に戻してシーツに頬を押し付けると、口元に拳を当てる。
「ん…ん…っ」
「青島…」
熱っぽい室井の声に、青島の背中が震える。
室井の欲情した声に興奮したのが、中を責めている室井も気がついたはず。
青島の興奮に引きずられるように、室井の指の動きが激しくなった。
「青島、入ってもいいか?」
静かだけど確かに欲情している男の声。
「室井さんは…平気?」
掠れた声で尋ねる。
青島の方の準備はいいが、室井の方はなにもしていない。
愛撫しなくても良いのかという意味で尋ねたら、静かに指を引き抜かれる。
「っ」
そこに熱くなった室井自身が宛がわれた。
「分かるか…?」
「っ…はっ…」
否応なく、青島の呼吸が乱れる。
「青島」
ゆっくりと室井が入ってきた。
思わず息を詰めてしまう。
室井とは何度も肌を合わせたが、この瞬間だけは中々慣れない。
そんな青島を気遣って、室井はゆっくり時間をかけて侵入してくる。
すっかり入りきってしまうと、青島は深く息を吐いた。
青島の力が少し抜けるのを見計らって、室井が緩く動き出す。
「…っ…あぁ…」
「青島…っ」
動きにあわせて、青島の中心も愛撫する。
「…ん…ん、ん…っ」
シーツに完全に顔を埋めてしまうと、くぐもった吐息が響いた。
室井が身体を倒して、青島の項にキスをしてくれる。
ぐっと近くなったせいで、室井の荒くなった呼吸が耳に響く。
それだけで、青島は興奮してしまう。
青島の中でそれを感じたのか、室井の動きが少し乱暴になった。
「声…」
「…っ…え?」
「聞けないのが、残念だ…」
「ぅあ」
強く突かれて、青島は堪らず目の前のシーツを噛んだ。
シーツと歯の隙間から荒い呼吸が漏れる。
キツク瞳を閉じて、唇の端からは唾液が零れた。
酷く扇情的な姿態に、煽られたのか。
「…青島っ」
不意に室井の動きが早くなった。
強く穿たれて、喉の奥で悲鳴を堪える。
肌がぶつかる音が耳についた。
「んっ、んっん…っ」
限界が近い。
「…っ…青島、いいか?」
室井が耳元で囁くのに、青島は必死で頷いた。
中心を愛撫する室井の手が早くなり、一際強く穿たれる。
「ん―――っ」
引きつった悲鳴を喉の奥で漏らしながら、青島は吐精した。
一瞬遅れて、室井も青島の中で果てる。
「あぁ…」
青島の口からシーツが離れて、唾液が糸を引いた。
「青島…」
室井が唇を寄せてくるから、青島はだるい首を起こしてキスをした。
舌を絡めては吸いあって、何度も柔らかいキスを繰り返す。
唾液が零れた青島の唇の端を、室井が舐め取ってくれた。
「室井さん…」
ぼんやりと瞼を持ち上げた青島が、あることに気が付いて室井を呼ぶ。
「ん…?」
「赤ちゃん…泣いてる」
室井は夢から覚めたように、ハッとした。
青島の視線の先で、赤ちゃんがぐずりだしている。
「青島、すまない」
背中に一つキスをして、室井がそっと体内から出て行く。
息を詰めた青島を宥めるように、もう一度項にキスをくれた。
ベッドを降りた室井が、慌ててパジャマのズボンを履く。
「室井さん」
「何だ」
青島は脱力した身体をそのままに、視線だけを室井に向けた。
照れくさいがこれだけは言っておかなければ。
「手、洗って来てください」
あんなところをそんなことした手で赤ちゃんに触れるなど、言語道断である。
室井もハッとしたようで、慌てて寝室を出て行った。
それを見送って、泣いている赤ちゃんに視線をうつした。
抱いてあやしてあげたいが、今の青島には出来ない。
「ごめんね…」
色んな意味で赤ちゃんに謝って、瞳を閉じた。

自分を放っておいた罰と言わんばかりに、赤ちゃんはこの晩夜鳴きを繰り返して二人を寝かせなかった。










END






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