■ 三大欲求


玄関を開けてやると、何故だか陽気な青島が転がりこんできた。
「お久しぶりです、室井さんっ」
ふざけて敬礼まで寄越すテンションの高さで、酔っ払っているのだろうかと思ったが、酒の匂いはしなかった。
「…久しぶりだな」
訳が分からないがとりあえず青島を中にいれてドアを閉めたが、閉めた途端青島はいきなり両手で室井の頬を掴んだ。
鷲掴みにされて目を剥いた室井に構わず、キスを繰り返す。
今更キス一つで驚く仲ではないが、会って早々キスするような熱烈歓迎は受けた経験がない。
室井は何度も唇を重ねてくる青島の肩を掴みなんとか顔を引き離した。
これでは話もできない。
「なんすか?」
不服そうに唇を尖らせる青島に、それはこちらの台詞だと思った。
「酔っ払ってるのか?」
酒の匂いはしないが、酔っ払っているとしか思えない。
だが、青島はカラカラと笑って否定した。
「酒なんか飲んじゃいませんよ。大体徹夜続きでね、それどころじゃなかったっすよ」
そう言われて、室井にはピンとくるものがあった。
フラフラとリビングに入りソファに腰を下ろす青島に続きながら、室井はそっと溜息を吐いた。
「何日まともに寝てないんだ?」
「んー、三日…いや、四日だったかな」
三日ではないなと室井は思った。
三日くらいであれば慣れているせいか、徹夜明けの青島の様子がそれほどおかしくなることはない。
だが、徹夜が三日以上続くと変な脳内物質でも出るのか、青島は妙に明るくなった。
元々明るい男が更に明るくなるのだから、傍迷惑なくらいである。
実は、この日の青島は5日徹夜していた。
途中仮眠は取っていたが、忙しいからこそ徹夜になっていたわけで、ゆっくり仮眠する時間など取れるわけもなかった。
久しぶりに仕事から解放された青島は真っ直ぐに室井の自宅に向かい、恋人の顔を見たせいか緊張感が全くなくなっていた。
「ね、室井さん」
青島が室井の手をひいた。
思わぬ力で引き寄せられ、ソファに押し倒される。
ぎょっとした室井に覆い被さり、青島はまたキスをした。
「ちょっと待て、青島」
「待てません」
「お、おい、こら…」
「したいです」
恋人からの願ってもないお誘いに一瞬流されそうになったが、そういうわけにもいかない。
後々困るのは自分だと分かっていた。
キスしながら室井の服を脱がそうとする青島の手を掴んで阻止した。
「室井さん」
不服そうな青島に内心で困ったヤツだと思いつつ、その背中を宥めるように軽く叩いた。
「先に風呂入ってこい」
「えー?俺臭い?」
自分の身体の匂いをくんくんと嗅ぎながら、署でシャワーは浴びたんだけどなあと呟く青島に、室井は「いいから入ってこい」と繰り返した。
別に青島が汗臭かったわけではない。
身綺麗にさせることではなく、風呂にいれることが自体が目的だった。
青島は不承不承ではあったが、室井の上から退いて風呂場に向かって行った。
それを見送り、室井は深い深い溜め息を吐いた。

徹夜続きでおかしなテンションになってしまった青島に迫られて、ついうっかりその気になり抱いたが、その真っ最中に寝られてしまったことがある。
熟睡した青島は起こしても起きないし、当然だが眠っている青島を相手になにをどうするわけにもいかず、その夜は酷く切ない思いをした。
それから、徹夜明けの青島とはしないと決めていた。
数日徹夜をすれば、身体がどんな他の欲求よりも睡眠を要求して当然である。
青島本人は頭がハイになっていて気付いていないようだが、身体はとっくに限界を訴えているのである。
そのことを、青島本人にも自覚してもらう必要があった。
そのための風呂だった。


風呂から上がった青島は、さっきまでのテンションが嘘のように大人しくなっていた。
ほかほかと上気した頬をタオルで拭いながら、欠伸を漏らしていた。
「室井さん、眠い…」
目を擦りながら言う青島に、室井は苦笑した。
「だろうな、徹夜したんだから当然だ」
いいからベッドにいけと促してやると、青島は素直に頷いた。
だが、すぐにはベッドに行かない。
「室井さんは?」
まだ寝ないのかという問いかけなのだろうが、一緒に寝ようとねだられているような気もする。
室井が返事に困っていると、青島はじっと室井を見つめて返事を待っていた。
その目は今にも瞼を落としそうなのに、必死に堪えているのが分かる。
室井はまだ眠くはなかったが、ねだる青島に勝てるわけもない。
また溜息を吐くと、室井は腰を上げた。
「…俺も寝よう」
嬉しそうに笑う青島に触れるだけのキスをして、室井は青島の手をひき寝室に向かった。










END

2012.9.11


お風呂上がりは眠いよね、というお話でした(そうか?)

織田さんが「徹夜が続くと気持ち良くなる」みたいなことを仰っていたので、
こんな話になりました…(笑)

それにしても室井さんが甘過ぎますね。いつものことだけども。


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