■ マッサージ
室井がふっと瞼を持ち上げると、青島が上から見下ろしていた。
寝ぼけた顔で瞬きをする室井を見て笑う。
「目、覚めました?」
聞かれて、寝てしまっていたことに気が付いた。
室井は欠伸を噛み殺しながら半身を起こした。
青島が風呂に入っている間にソファの上で転寝していたようだった。
「お疲れみたいっすね」
「いや…そんなことは…」
頭がぼんやりしていて歯切れの悪い返事になる。
いつもの通り仕事に追われた一日だったから疲れていないとは言わないが、普段と比べて特に疲労を感じていたわけではない。
ただ、青島に会って気が緩んだのは確かだった。
実は青島の顔を見た瞬間から眠気が差していた。
室井を癒す物質でも分泌しているのかもしれないと思ったが、呆れられるのが目に見えているので口に出しはしなかった。
「マッサージでもしましょうか」
青島が有り難いことを言ってくれる。
意外にもと言ったら失礼だろうが、大雑把な性格に反して青島はマッサージが上手だった。
「いいのか?」
「駄目なら言いませんって」
青島が差し出してくる手を何も考えずに握り返したものの、意味が分からず首を捻る。
「青島?」
「そのまま寝ちゃってもいいように、ベッド行きましょう」
腕を引っ張られて立ち上がり、青島の寝室に向かった。
室井がベッドにうつ伏せに横になると、青島は室井の腰を跨ぐように座り、室井の肩に触れた。
シャツ越しでも風呂上がりの青島の暖かい手の温もりが感じられて心地良い。
揉み解される感覚に室井は目を閉じた。
「痛かったら言ってくださいね」
「大丈夫だ」
「気持ちいい?」
「ああ、凄く…」
背中から腰にかけて、青島の手が這う。
指先で押したり、手の平で揉んだりされると、堪らなく気持ち良かった。
青島の言葉に甘えるつもりだったわけではないが、意識が遠のきそうになる。
だが、室井の意識を引き止めたのは、その青島の手だった。
腰の辺りをマッサージしていた青島の手が臀部に触れた。
そこを揉み解されるのは、妙な感覚だった。
もちろん青島の手に特別な意図を感じさせる動きはなく、背中や腰をマッサージしているのとなんら変わりない。
それが分かるだけに、室井としては嫌がるわけにも、ましてや喜ぶわけにもいかなかった。
おかしなことを考えるなと内心で自分を戒めている室井に気付くこともなく、青島は手を動かした。
程良く力を込めて、太腿をマッサージする。
内股に滑り込んだ手が、柔らかく筋肉を押し、優しく撫ぜた。
その手が足の付け根にまで伸ばされ、そこを指で強く押されると、室井はとうとう堪え切れずに小さく呻いた。
赤面しつつ、青島を振り返る。
「あ、青島…っ」
振り返った途端、目を見開いた。
四つん這いになるように室井の身体を跨いだ青島が、軽くキスをしてきたからだ。
「気持ち、良かった?」
悪戯っぽく笑う男に、室井は赤面したまま引き攣った。
「この…っ」
額に青筋を浮かべながら仰向けになると、青島の首に手を回し乱暴に引き寄せた。
口付けると青島もすぐに唇を開き、室井を誘い込む。
互いの舌を絡めて、深く求め合った。
乱れた吐息を漏らした青島が、室井の唇を啄み顔を上げた。
「最初から、そのつもりだったのか」
呆れたような口調とは裏腹に、青島の首筋に回した手は愛撫するようにその肌に触れる。
少し上気した顔で青島が笑った。
「はは…いや、室井さん眠そうだったし、寝ちゃったら諦めようと思ったんだけど」
そう言いながら、パジャマのボタンをゆっくりと外していく。
「寝ないなら、相手してもらおうかと思って」
露になる青島の身体を見上げながら、知らないうちに室井の喉が上下した。
寝ないなら?
こんな青島に乗っかられて、室井が寝られるわけもない。
誘われるがままパジャマの隙間から手を滑らせると、青島は目を細めて再び唇を寄せてきた。
唇を触れ合わせながら、苦笑する。
「騙された」
この男に癒されると思った自分が馬鹿だった。
いや、癒されていることも間違いではないが、結局こんなに高ぶらされているのではどんなに癒されても意味がない気がした。
「なんですか…?」
「いや、何でもない」
室井の呟きを拾って怪訝そうな顔をしている青島の肩を抱き、引き寄せながらひっくり返してその身体を下にした。
見下ろされてするのも堪らないものがあるが、今日はなんとなく主導権を渡したくなかった。
まんまと誘われた、室井の精一杯の意趣返しだった。
END
2011.7.27
あとがき
青島君は癒しとエロスが同居してるんですよ!
という話です(嫌な話)
なんだかとってもありがちなお話ですけど、
拙宅では一番の誘い受け青島君なんじゃないでしょうか。
誘い受けの認識はこれであっているのでしょうか…(笑)
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