■ 毛布
肌寒さで目が覚めた青島は、低く呻いた。
「うー…さむ…」
冷えたシーツの感触に、伸ばしていた腕を慌てて毛布の中に引っ込める。
毛布にくるまり蹲ったまま、青島は首を傾げた。
ベッドの中には青島しかおらず、隣で寝ていたはずの人の姿がない。
だからといって、今日は揃いの非番だったから帰ってしまうはずもない。
おそらくシャワーでも浴びているのだろう。
そう思ったから、青島は室井を捜してみようとは思わなかった。
第一、まだ布団から出たくない。
寒いのだ。
青島は欠伸をしながら、隙間から光が漏れているカーテンに腕だけ伸ばした。
眩しい光にさぞかし天気が良いのだろうと思ったが、カーテンを開き外を覗きこんでみて驚いた。
なんと雪が降っている。
通りで冷えるはずである。
ただ、眩しいくらい天気が良い。
珍しい天気に、青島は目を丸くした。
「天気雪…って言うのかね」
思わず、一人呟く。
青空の元舞い落ちる雪は、青島が眺めている間にも小降りになり、すぐに止みそうだった。
それをぼんやり眺めていると、寝室のドアが開いた。
「起きてたのか」
青島が振り返ると、室井がバスタオルで髪を拭いながら入ってきた。
やはりシャワーを浴びていたらしい。
「室井さん、雪降ってますよ、もう止みそうだけど」
青島が窓を指差すと、室井もちらりと窓を見た。
「ああ、そうみたいだな」
先に起きた室井も雪には気付いていたようで、窓の外を見るまでもなく頷いた。
「日が出てるから、すぐに止むだろうが」
「寒いはずっすよね」
青島は毛布を被ったままベッドの上で半身を起こした。
そのまま窓の外を覗きこんで珍しい雪を眺めていると、室井が苦笑した。
「いつまで毛布被ってるんだ?」
「だって、寒いんだもん」
「着替えたらいいだろ」
正論を吐く室井を振り返り、真顔で返事をする。
「着替えるのも寒いじゃない」
着替えるためには、もちろん毛布から出て、素肌をさらさなければならない。
すぐに服を着るのだからそれも一瞬だが、寝起きの気怠さも手伝って腰が重たい。
室井は怠惰な青島を呆れた顔で見ていたが、不意に真顔になった。
じっと見つめられて、青島は首を捻る。
「なんすか?」
「いや…」
言いながら室井が手を伸ばしてくる。
顎を持ち上げてくるから、なんなんだ?と思いながらも、素直に瞼を落とした。
唇に軽くキスをされて目を開けるが、室井はまだ目の前にいた。
「室井さん?」
呼び掛けにキスで応じた室井が、毛布に手をかけた。
毛布を剥そうとする室井に気付いて、青島は慌ててその手を掴んだ。
「何すんですか、いきなり…室井さんのスケベ」
後半は半ば冗談だったのだが、室井は眉間に皺を寄せた。
「君の裸なら夕べ散々見た」
何を今更と言われて、青島もそりゃそうかと納得する。
久しぶりのデートではあったが、付き合いは長い。
互いの裸なんて見慣れている。
だから今更隠す必要はないが、だからといって進んで全裸をさらしたいほど羞恥心がないわけでも裸体に自信があるわけでもない。
だが、室井は何故か執拗に青島の毛布を剥ごうとしてくる。
青島は反射的に抵抗しながら、室井を見上げて首を傾げた。
「なんなのさ、室井さん」
「君こそ、なんで今更隠す?」
「寒いんだってば」
「いつまでも裸で寝てるからだ」
「アンタが脱がしたんでしょーが」
ぎゃあぎゃあと言い合いながらも、互いに毛布を掴んで引っ張り合う。
伸し掛かってきた室井が毛布を掴んだ青島の手に唇を押し付けたりするから、青島は照れくささに引きつった。
「だから、なんなの、室井さんっ」
室井はじっと青島を見つめ、それからそっと視線を逸らした。
「隠されたら脱がしたくなるのが、男の性だろう」
思わぬ主張に、青島はぽかんとした。
「ああ、チラリズム的な」
ポンと手を打ち納得したが、納得してその馬鹿馬鹿しさに笑い出した。
「だから、俺の裸なんて夕べ散々見たんでしょ?」
さっきそう言ったのは室井である。
今は隠れているが、室井の知らない青島の肌などないと言っていい。
それが少し毛布に隠れているからといって律儀に反応する室井が愛しいやらおかしいやら。
笑う青島をむっつりと見下ろしながら、室井が青島の毛布を開く。
青島はもう抵抗せずに、室井の好きにさせた。
だけど、黙ってはいない。
「朝っぱらから、元気っすね」
「誰も、やるとは言ってないだろ」
「脱がすんだから、責任とってくださいよ」
「……いいのか?」
やるとは言わなかったが、やりたくないわけでもないらしい。
素直な室井を笑いながら、青島は冷えた腕で室井の背中を抱いた。
「毛布より室井さんの方があったかそうだ」
END
2011.2.8
あとがき
Sさんにプレゼントです。
こんな話貰っても困ると思いますが(笑)
前にSさんとメールでラスクリのお話をしておりまして。
毛布青島君も可愛かろう!ということで、こんなことになりました。
室井さんがおばかさんです。
私の書く室井さんは大体こんな感じですけどね…可哀想な室井さん(お前が言うな)
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