■ 翌朝
「君と別れたら、俺はもう誰とも付き合えないかもしれない」
不吉なことを言うなと怒るべきか、愛されているなと喜ぶべきか。
青島は味噌汁をすすりながら考えていた。
室井の重たい台詞に対して気の抜けた態度で申し訳ないが、室井がこんなタイミングでそんな話題を口にするのが悪い。
とりあえず、青島はワカメを飲み込んでから、お椀をテーブルに置いた。
「なんだって、いきなりそんな話になるんです?」
「いや…」
室井はとっくに食べ掛けのまま箸を置いていた。
眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
これが捜査の最中だったら室井の苦悩も苦労も想像できるが、今はどうせろくなことを考えていない。
短くはない付き合いのある青島にはそれが分かっていたが、何やら意味深な台詞を吐く恋人を放っておくわけにもいかない。
「まさか、後悔してるんじゃないでしょうね」
今更後悔していると寝言を言うなら一発くらい殴ってやると思ったが、室井は首を振りそれを否定した。
青島もそれ以上は疑わなかった。
一度こうと決めてやり通したことを、室井が後悔するわけがない。
「じゃあ、どうしたんすか?」
「君を好きだなと思ってな」
朝っぱらから、何故恋人に口説かれなければならないのか。
「知ってますよ」
困惑気味な青島に言えるのはそれくらいだった。
室井はじっと青島を見つめて、付け足した。
「こんなに好きな人が、この後の俺の人生に存在するとは思えない」
だから、もし青島と別れたとしても他の誰かと付き合える気がしないと言っているのだ。
ぽかんと口を開いて呆気に取られている青島に、室井は男らしく断言した。
「前から薄々感じていたが、夕べ確信した」
室井にそんなことを確信させた夕べの出来事と言えば、一つしか思い至らない。
青島は赤面した。
それを嬉しいと感じないわけではないが、それ以前に照れくさく恥ずかしい。
ついつい態度がぶっきら棒になる。
「昨日の今日で浮かれないでくださいよ、恥ずかしいな」
「浮かれてはない、より君を好きになっただけだ」
それを浮かれてると言うんだと思ったが、そう堂々と言い切られれば返す言葉もない。
室井が青島を好きだと言う。
既に何度か耳にした言葉だが、好きな人に言われれば嬉しいものである。
多少重たく大袈裟な表現はあったが、室井は大まじめである。
本気でそこまで青島を想ってくれている。
思い詰めなければいいなとは思うが、生真面目な室井らしい恋愛感と言えなくもない。
今は素直に喜んでおいていいのかもしれない。
だって、青島だって浮かれていないわけではない。
「なら、ずっと俺を好きでいればいいでしょ」
「いいのか?」
伺うように青島を見る室井の瞳に喜色が浮かぶ。
それに気付いて、青島はくすぐったそうな笑みを浮かべた。
「駄目なら、アンタなんか選びません」
未来がどうなるかなど青島にも室井にも分からない。
だけど、今現時点で共にある未来を望まないなら、わざわざ室井のような堅物は選ばない。
そもそも男を選ぶ趣味もない。
青島は可愛くて柔らかくて優しい女の子が大好きなのだ。
それでも、選んだのは目の前の男なのだから、人生とは分からない。
何が起こるか分からない。
室井の言う通り、室井はこの先青島しか愛さないかもしれないし、青島も遠い未来に室井しか見えなくて困っているかもしれない。
そんなことがあってもいいかもしれないと思った青島は、やっぱり浮かれていたのかもしれない。
室井のことは言えなかった。
青島の「アンタなんか」という乱暴な言い草を気にも止めず、室井は満足そうな顔で再び箸をとった。
それに苦笑し、青島も食事を続けた。
初めて身体を重ねた、翌朝の出来事。
END
2010.9.6
あとがき
前に日記で書いた小話でした。
SSSに移すと某様と約束したことを思い出して、再アップとなりました。
大した話ではないですが、ちょっと気に入っているお話でした。
ええ、もう、室井さんが青島馬鹿だからです(笑)
なんかどこかでも書いた気がしますが、
室井さんが初めて青島君を手に入れた時の感動を思うと、
じっとしていられない気持ちになります。
良かったね、室井さん(涙)←妄想に入り過ぎ…
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