■ Sleeping Beauty


満腹になったのか、それとも軽く飲んだのが効いたのか。
室井がじっと見つめる視線の先で、青島が船を漕いでいた。
そういえば、ここ数日事件が立て込んでいて、深夜の帰宅が続いていたと言っていた。
明日の休暇が潰れなくて良かったと笑っていたが、青島と合わせて休暇をとっていた室井も同じ気持ちだった。
青島の頑張りのおかげで、休日前夜を室井の自宅で共に過ごせている。
が、青島は転寝中だ。
室井は苦笑すると、青島の手から落ちそうなグラスを取り上げた。
それで、青島の目が開く。
「あれ…?」
ぼんやりとした焦点の合わない目で室井を見る。
「俺、寝てた?」
「少しな」
「そっすかぁ」
語尾が欠伸と混じる。
「んーだめだな、なんか眠い…」
両手で目を擦る仕草が子供っぽくて、なんだかおかしい。
室井は笑みを噛み殺し、提案した。
「もう寝た方が良さそうだな。風呂入るなら、沸いてるぞ」
面倒くさがるかとは思ったが一応勧めると、青島は少し考えてこくりと頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
やっぱり欠伸混じりに呟く青島に今度こそ小さな笑みが零れる。
「風呂場で寝るなよ」
「善処します」
立ち上がり、バスルームに向かおうとした青島だったが、ふと方向転換し室井の元にやってきた。
床に座ったままの室井は不思議そうに青島を見上げた。
「どうかし…」
言いかけた言葉が止る。
身を屈めた青島が室井の後頭部に手をかけ顔を寄せてきた。
少し驚いたが、室井は黙って目を閉じた。
唇が重なり、啄むように触れ、離れる。
「…青島?」
室井が目を開けると、青島はまだ目の前にいた。
そのまま再び近付いてきて、唇を重ねてくる。
物足りなかったのか、さっきよりも深く求められる。
室井は青島のキスに応えながら、少し困った。
もちろん嫌だから困ったわけではなく、気持ちがいいから困ったのだ。
―大人しく風呂に入って寝ればいいものを。
そう思っているくせに、身体は勝手に青島に応えていく。
口内に侵入した青島の舌に自身のそれを絡めて、青島の背を抱こうと腕を伸ばす。
その手が触れる前に、青島が顔を離した。
軽く唇を合わせて、満足げに笑う。
「久しぶりっすね」
会うのが久しぶりなら、キスするのも当然久しぶりである。
「そうだな…」
「じゃあ、風呂入ってきます」
室井は思わず奥歯を噛み締めて、何かを堪えた。
人を煽っておいてのんきなことを言う青島が少し恨めしいが、疲れている青島に無理をさせるのも本意ではない。
室井が頷くと、青島は身体を離した。
そして、また欠伸を零す。
余程眠たいらしい。
だったら室井にちょっかいを出していないで、さっさと風呂に入り寝るべきだ。
その方が室井も穏やかにいられる。
そんな室井の胸中など知るよしもなく、青島は眠そうなまま室井に告げた。
「先に寝ちゃわないでくださいね、寂しいから」
呆気に取られた室井に構うことなく、青島は目を擦りながら風呂場に向かっていった。
疲れているせいか眠気のせいか、甘ったれた願いを口にした青島に、室井は溜息を吐いた。
その溜息は、自分自身に対してでもあった。
甘ったれたことを言う青島が可愛くて仕方ない。
可愛くて仕方ないから、もっと愛でてやりたい。
だが、愛でられるより寝かせてもらった方が、今の青島は嬉しいだろう。
それが分かる分には冷静だったから、室井には軽い拷問に思えた。
「だから黙って寝てくれればいいものを…」
室井は忌々しげに呟いた。
後は、風呂から上がった青島が、大人しく寝てくれることを祈るばかりだ。










END

2010.7.19

あとがき


青島君が可愛くて可愛くて仕方がない室井さんが書きたくて書いたお話でした。
まあ、大抵いつもそんな感じですけど…;
青島君が好きすぎる室井さんが書きたいです。
そんなマイブーム!


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