■ 逢瀬


項に小さな温もりを感じた後、身体の上から重みが消えた。
背中にのしかかっていた室井が離れ、ベッドを下りる。
青島は億劫そうに寝返りをうち仰向けになった。
下着だけ身に付けた室井が、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し飲んでいる。
俺も欲しいなと思いながら見ていると、室井が戻ってきた。
差し出されたペットボトルを受け取り起き上がる。
喉を潤すと、今度は煙草が欲しくなる。
ベッドの上から腕だけ伸ばし、床に落ちているスーツの上着を拾い上げると、室井を見上げて苦笑した。
「しわしわ」
室井からも苦笑が返ってくる。
一時間前にはそんなことを気にする余裕はなかったのだ。
室井のスーツも床に散らばっている。
「のんびりしている時間はなさそうだぞ」
上着のポケットから煙草を取り出した青島に、室井が釘をさす。
慌てて腕時計を見た。
「あ、本当だ」
「シャワー使った方が良くないか?」
「ん、そうします。室井さんは?」
「君の後でいい」
青島は煙草を諦めた。
シャワーを浴びて、身支度をしなければならない。
できるなら一眠り、それが無理でもせめてもう少しゆっくりしていたかったが、あまりにも時間がなかった。
青島はもう一度腕時計に視線を落とした。
「青島?早くしないと、時間が…」
室井に促され、顔を上げる。
「俺ら不倫のカップルみたいっすねぇ」
溜め息混じりに呟くと、室井が目を剥いた。
腕を伸ばし、室井に腕時計を突き付ける。
「会ってまだ二時間も経ってない」
会って二時間も経っていないが、後少しで別れなければならなかった。
ここのところ互いに忙しく全く会えずにいたが、仕事を調節してなんとか作った二人きりの時間もあまりに短過ぎた。
これから二人とも仕事に戻らなければならない。
たった二時間の逢瀬では、できることなど限られている。
限られている中で二人が真っ先に選んだのが欲求解消だったくらいだから、どれだけ会えていなかったのかが良く分かる。
それでも欲求が満たされてしまえば、多少の空しさが残った。
久しぶりに会った恋人と、身体を重ねただけで別れるのは切なかった。
「せめて後一時間だけでも時間があればなぁ」
本当に不倫中のカップルのような願望が沸く。
とにかく時間が足りなかった、室井と過ごすための時間が。
室井が青島の頭を撫ぜた。
「それでも俺は会えて良かったが」
ちらりと室井を見上げる。
「そりゃあ、俺だって」
「次はゆっくり飯でも食おう」
青島はニヤリと笑った。
「俺じゃなくて?」
室井は眉間に皺を寄せたが、腰を屈めて顔を寄せてきた。
近付いてくる室井に目を細める。
唇近くで室井が囁いた。
「できたら、どっちも食いたい」
微かに声を漏らして笑った青島の唇がそっと塞がれた。
口付けは短かった。
名残惜しげに唇を離す室井を見上げて、誘ってみた。
「一緒にシャワー浴びます?」
「仕事に遅れたら困るから、やめておく」
一緒に入れば長引く予感がしたのだろう。
青島は破顔して立ち上がった。
「じゃあ、お先に」
「ああ」
バスルームに入る前に室井を振り返る。
「次は絶対ゆっくり会いましょうね」
室井が小さく笑い頷く。
「必ず」
その返事に満足し、バスルームのドアを閉めた。










END

2009.5.7

あとがき


たまにはアダルティな雰囲気を目指してみようと思って書いてみたけど
目指し切れていない小話ができました。
すっかりご無沙汰でにっちもさっちもだったであろうお二人でした。
青島君、腕時計を外す隙すらなかったようですしね(笑)
でも、そこんとこ(エロスな部分)は全く書いていないので、
皆様の想像にお任せしようという不親切設計で申し訳ないです;

というか、連載ほったらかして何を書いているんでしょうか…
すみません、次こそは連載を!


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