■ 明日も明後日も
目を閉じたまま、天井に向かって音もなく喘ぐ。
呼吸が中々整わない。
室井も青島の首筋に顔を埋めたまま固まっていた。
青島はだるい腕を持ちあげ、ほとんど無意識に室井の腕に触れた。
ピクリと反応し、室井の頭が動く。
唇が首筋に触れ、緩慢に吸い付いてくる。
徐々に熱を帯びてくる唇にぎくりとした青島は、慌ててその肩を押した。
「む、無理、もう無理、ギブです、ギブギブ」
バシバシと肩を叩くと、室井が夢から冷めたような表情で顔を上げた。
少しの間、視線を合わせたまま気まずい沈黙に包まれる。
のっそりと起き上がった室井は青島の上から退けると、青島に背中を向けてベッドの端に腰を下ろした。
「…煙草、貰ってもいいか」
「どうぞー」
軽くそう答えたが、内心はあまり穏やかではなかった。
向けられた背中が悲しい。
―怒らせたかな。
室井を拒んだのは初めてだった。
とはいえ、室井とこうするのは片手をようやく超えたくらいで、そう多くはなかった。
付き合い出して大分経つが、時間が中々合わずあまり会えていない。
身体を合わせる機会は更に少なかった。
それが目当てで付き合っているわけではないし、どうしても我慢がならないほど若くもないが、抱き合える時間は貴重だったし、青島だってできる限り室井が欲しかった。
だが、限度というものはある。
室井が望むまま受け入れて、自分が欲しいまま室井を求めて、精も根も尽き果てたら死んだように眠る。
今はそれでもいいかもしれないが、それだけではすまないこともある。
男と寝たことなどないから当然だが、青島は室井とこういう関係になって初めて受け入れることの苦労を知った。
行為が激しくなればなるほど、翌日に必ず響くのだ。
前回など、腰に力が入らず被疑者を追うのに随分苦労をした。
自分で調整しなければと反省したのだ。
それも、困ったことに、回を重ねる度に室井の行為は激しくなっている。
思いやりがなくなったとは思わない。
行為が激しくなったって、初めて抱かれた時のような丁寧で律儀な愛撫は変わらない。
その行為には、求めてもらって嬉しいとすら感じている。
ただなんとなく、室井の様子がおかしい気がした。
「怒ってるか?」
背中を向けたまま室井が聞いてくるから、少し驚いた。
それを青島に聞くということは、室井自身が怒っているわけではないということか。
「怒ってはないですけど」
青島は自分の腕を枕に室井の背中を見つめた。
視線に気付いたわけでもないのだろうが、室井は肩越しに振り返った。
「呆れたか?」
「そんなことないってば」
なんでそんなネガティブなことばかり、と苦笑する。
青島は怒っていないし、呆れてもいない。
困っていないとは言わないが、求められること自体に困っているわけでもない。
受け止めきれない身体に困っているだけだ。
「ただ、まぁ、ちょっと意外でしたけど」
汗ばんだ前髪をかきあげて、照れ笑いを浮かべた。
「室井さんが、意外と、えーと……熱心で」
熱心という言い方もおかしいが、性欲が強くてとはっきり言うのも憚られる。
室井は少し眉を寄せると、青島から視線を逸らした。
「俺も驚いてる」
「え?」
「こんなこと、今までに無かった」
自分はもっと淡泊な人間だと思っていたと言われて、青島はじわりじわりと赤面した。
それはつまり、相手が青島だからだ。
どんな顔でそんなことを言っているのかと思い背中に手を伸ばしたが、
「抱いても抱いても、抱き足りない気がする」
触れる直前に悶絶してシーツに沈んだ。
良くもまぁそんな台詞をくそ真面目に言えるもんだとか、俺の身体の何がそんなにいいんだとか思ったものの、室井に執着されるのは悪い気分ではない。
身体のことを言えば青島も室井で充分良い思いをさせてもらっているから、何も言えなかった。
だが、なんだか身の置き場がない。
青島がシーツに突っ伏して密かに身悶えていると、室井はまた肩越しに振り返った。
「…ひいたか?」
青島はなんとか顔を上げて、半笑いになりながらも首を振った。
「光栄と言えば、光栄かな」
「無理するな」
苦く笑う室井に、今度こそちゃんと手を伸ばす。
背中に触れると、まだ汗でしっとりとしていた。
「あんまり頑張ると、早死にしますよ」
「そうだな」
「急ぐこともないでしょ」
長い片思いの末に辿り着いた関係。
想いが募っていた分、求める力が大きくなりすぎている。
それはなにも室井ばかりではなく、青島だってそうだった。
身体が許すなら、時間が許すなら、使える全ての手段を使って室井が欲しかった。
だが、一度それを実行し仕事に影響を出して、青島は少しだけ冷静になったのだ。
急いで、埋め合うことはない。
この先の長い時間を重ねていくつもりなら、焦る必要はないのだ。
青島は室井の背中を撫ぜた。
「ゆっくりいきましょうよ、俺たち」
「…そうだな」
室井の目が柔らかくなり、目尻に皺が寄った。
優しい笑み。
自分にだけ見せる顔。
そう思ったら、身体の芯が熱くなって、青島は内心で笑った。
―室井さんのこと、全く言えないな。
END
2008.11.7
あとがき
ん、まあ、これまた語ることなんぞございませんが(笑)
相思相愛って素晴らしい!ということです(そうか?)
青島君の方がちょっとだけ冷静というか、
背に腹は代えられないというか(?)
受け入れる方が何かと苦労が多そうなので…。
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