■ off limits


玄関のドアを開けた青島は驚いて目を丸くした。
何故か室井がいた。
「すまない、いきなり来て」
青島があまりにも驚いたせいか、室井は気まずそうに佇んでいた。
「あ、いえいえっ」
青島は慌てて身体をずらして、室井を部屋に上げた。
「どうしたんすか?」
「…メールくれたろ」
相変わらず、どこか気まずそうに言う。
確かに青島は一時間くらい前に室井にメールをしていた。
久しぶりに定時で上がれて嬉しかったので、つい浮かれたメールを送ってしまったのだ。
早く帰れたことを喜ぶだけの無意味なメールだった。
滅多にそんなメールはしない。
「俺も早く上がれたんで寄ったんだ」
室井がそう言うから、どうやら無意味なメールが功を奏したらしい。
「勝手にすまない」
難しい顔をしている室井に笑う。
恋人の部屋に来たというのに、何をそんなに謝る必要があるというのか。
青島は室井の肩に手をかけ、頬にキスをした。
「なんで謝んの?嬉しいっすよ?」
至近距離で微笑むと、室井も穏やかな笑みを浮かべた。
「そっか」
「ええ」
「でも、どこかに行くつもりだったんじゃないか?」
「なんで?」
「財布持ってる」
言われて、思い出した。
青島の右手には財布が握られていた。
だが、どこかに行くためではない。
空いた手で頭を掻く。
「ピザをね、頼んでたんですよ」
室井は納得したように頷いて、苦笑した。
「そうか…期待させたな」
室井の言う通り、室井の来訪をピザ屋と勘違いしたのだ。
そろそろピザ屋が配達に来るはずだった。
それを待っていたのだが、期待よりもずっと嬉しいものが届いた。
「とりあえず座ってください、室井さんもピザ食うでしょ?」
室井を座らせ、冷蔵庫から缶ビールを二本取ってくる。
「ありがとう」
「もう届くだろうから、飲んで待ってましょ」
青島も室井の隣に座り、乾杯をした。


「こんな日もたまにはあるんすね」
前もって予定を立てて約束をしていたって会えない時があれば、期待もしていないのにたまたま都合がついて会えたりもする。
「そうだな」
「もっとあってもいいのに」
室井が笑った。
「そうだな…」
穏やかな横顔は珍しい。
機嫌がいいのか、気が緩んでいるのか。
どちらにせよ、久しぶりに青島と会えたことを喜んでくれているのが分かる。
難しい顔をしている室井ももちろん好きだが、たまに柔らかい顔をしているのを見ると嬉しくなる。
室井にとって自分が特別な人間だと実感するからかもしれない。
今更なことだが、青島には大事なことだった。
「どうかしたか?」
じっと室井を見ていると、室井が首を傾げた。
青島はおかしそうに目を細めて首をふる。
「なんでも」
「何か楽しそうだが」
「そりゃあ、室井さんがいるからね」
楽しいに決まってるでしょと何食わぬ顔で言うと、室井の眉がむやみに上下した。
青島は笑いながらビールを煽った。
缶を持つ手に室井の手が重なる。
近付いてくる室井に気付いて、青島は手を下げて目を閉じた。
唇が重なる。
どちらの唇も若干冷えていたが、室井の舌が唇を割ってくる頃には熱を持っていた。
唇を重ねたまま、室井の手が青島の手から缶ビールを奪った。
邪魔なものを避けると、青島の首に手を回し深く口付けてくる。
ちょっとまずいかなと思った。
キスだけで終わらないような勢いを感じる。
脳裏に浮かんだのはこれから届くはずのピザ。
後でにしようと止めるべきだと思いながらも、青島は素直に唇を開き室井の舌を求めていた。
止めて欲しくないのである。
「…ん…っ…」
青島は鼻に掛かった声を漏らしながら室井の舌を吸い、その背中を抱いた。
途端に室井が青島の腰を強く抱き寄せ、床に押し倒してくる。
軽く背中をぶつけたが文句は言わない、言えない、それどころではない。
「青島…」
首筋に室井が顔を埋めた。
唇が触れ、吸い付かれるたび、身体が熱くなる。
「会いたかった、青島」
囁く声が耳に届く。
自分を求める低い声も、愛撫の一つだと思った。
無性に顔が見たくなり、室井の頬を掴んで顔を上げさせる。
柔らかい表情なのに目だけは熱っぽく、その目にぞくりとした。
「俺もっすよ」
囁いて、室井の顔を引き寄せる。
力を入れるまでもなく、室井が距離を縮めてきた。
唇を重ねると、青島は室井の首に腕を巻き付けた。
すぐに侵入してきた室井の舌が口内をまさぐる。
熱い舌に口内を舐められ、濡れた音を立てて掻き回されれば、理性がどこかに追いやられていく。
青島は無意識に室井の背中にすがりついて、夢中で舌を絡めた。
室井の手が青島の胸元を撫で上げる。
青島が膝を開き室井が身体を密着させると、二人ともピタリと動きを止めた。
夢から冷めるようなのんきな音が響いたからだ。
来客を知らせる音だ。
少しだけ唇を離して、至近距離で見つめ合う。
荒い呼吸を漏らしながら、青島は呟いた。
「あ…本物のピザ屋…」
室井が小さな笑みを零した。
「俺はニセモノか」
軽く唇を吸われ、頭を撫ぜられる。
その柔らかい表情を見て、やっぱり機嫌が良さそうだと、ぼんやりとした頭の片隅で思った。
濡れた唇を指先で拭われると、それだけで興奮した。
「受け取ってこよう」
青島の返事も聞かずに、室井は起き上がって玄関に向かって行った。
少し遅れて青島も身体を起こす。
唇に手の甲を押し付け、薄っすらと頬を染めた。
なんだか、微妙に悔しい。
青島の代わりに応対に行ってくれたのだから感謝すべきかもしれないが、室井に余裕があるような気がして悔しかった。
青島ばかりが熱い身体を持て余しているのであれば、たまらない。
いや、室井だって夢中だったはずなのだ。
そうでなければ、あんなキスはしてこない。
むしろあんなキスをしておいて、夢中でないなどとは言わせない。
「…くそー、室井さんめ」
意味もなく目の前にいない室井に悪態を付きながら、今度は俺が押し倒してやると意気込みながら室井が戻ってくるのを待った。
間違えた方向に燃える青島は、今の青島の姿を他人の目に触れさせたくないなどという室井の心情に気づいていなかった。




「室井さんのせいでピザが冷めた」
「俺だけのせいか?」
「始めたの、室井さん」
「仕切り直して押し倒してきたのは君だぞ」
「煽った室井さんが悪い」
「だったら、俺を煽った君の方が悪い」
「先にキスしてきたのアンタでしょ」
「君といればキスくらいしたくなる、俺のせいじゃない」
それはどんな言いわけだと思ったが、笑ってしまったので突っ込めなかった。










END

2008.10.15

あとがき


久々に(でもないけど)あとがきに全く書くことがありません(笑)

えーと、えーと。
書きたかったのは、室井さんが青島君の代わりに
ピザを受け取りに行った辺りでした。
どうですか。どうですか。
なんでそんなところが書きたかったのか分からないでしょう?
私にも分かりません(おーい)

タイトルは立ち入り禁止区域だそうです。
入っちゃダメというか、入っていけるか!という感じですね(笑)


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