■ cherry


「俺、日本産のさくらんぼより、アメリカンチェリーの方が好きなんですよねー」
「アメリカンチェリーはちょっと甘過ぎないか?」
「味がはっきりしてて好きなんすよ、歯応えもあるし」
「そうか」
「あれ?室井さんは日本産の方が好き?」
「どちらかと言えば」
「なんだ!じゃあ、言ってくれたら日本産のも買ったのに」
「…も?」
室井が思わずといった感じで、笑みを漏らした。
二人しかいないのに、さくらんぼばかりそんなに買ってどうするのかと思ったのだろう。
室井と二人、スーパーで買い物をして青島の自宅に向かう途中だった。
珍しい揃いの非番で、一緒に夕飯でも作ろうかということになり、買い出しに出かけていたのだ。
仲良く一つずつ、ビニール袋を下げて歩く。
アメリカンチェリーは青島が希望したデザートだった。
甘いモノはそんなに食べない青島だが、たまに無性に食べたくなる。
室井は青島以上に興味がなさそうだったが、青島が食べていれば手を出してくることもあるから、全く食べられないわけではなかった。
そんな二人だから、やはりさくらんぼを二パックも買ったら多いかもしれない。
「今度は日本産のにしましょう」
青島が横目で室井を見ると、室井は視線を合わせて頷いた。
「そうだな……シーズンの間にまた会えたらいいが」
「そういう、寂しくなることを言わない」
憮然と苦情を申し立てたものの、苦笑した。
「ま、こればっかりは分かりませんけど」
果物の短い旬の間に、二人がそれほど会えるとは思えなかった。
それを寂しくは思うが、現状に不満はない。
仕事に夢中になりながらも、ちゃんと想いを通わせたまま付き合っていける恋人がいる。
幸せなことだと思えた。

「天気が良いな…」
室井の呟く声につられるように、青島は空を見上げた。
眩しさに目を細め、足を止める。
薄い雲以外何もない空は、高くて広かった。
「ああ…どっかに行きたくなるなぁ…」
遠くに行きたいという青島の気持ちを悟っているのか、室井は苦笑した。
「買い物に行ったろ」
「いや、そういうんじゃなくてですね……ん?」
ふと、足に衝撃があった。
「わっ」
下から聞こえてくる声に振り返ると、男の子が倒れていた。
よそ見をしていたのか、急に立ち止まった青島に気付かず、ぶつかって転んだらしい。
驚いた青島が動くより先に、室井が男の子の手を掴み起こしてやる。
「すまない、大丈夫か?」
男の子のズボンの埃を優しく叩き落としながら、室井が尋ねる。
きょとんとしていた男の子が、小さく頷いた。
青島はちらりと室井を見下ろし、すぐに膝を折ると男の子と目線を合わせた。
「ごめんなー」
わしわしと男の子の頭を撫ぜると、男の子がはにかむような顔をして「うん」ともう一度頷いた。
少し離れたところから、男の子の母親らしき女性が呼んでいる。
男の子が母親の元に駆け寄ると、青島と室井に向かって母親が会釈を寄こした。
二人も会釈を返して、歩き出す。
青島が振り返り男の子に手を振ると、男の子も控えめに手を振って返してくれた。

「怪我させなくて良かった」
「そうだな」
「さっきの室井さん」
「ん?」
振り返った室井に、青島は悪戯っぽい視線を向けた。
「彼氏っぽくて、カッコ良かったっすよー」
ぶつかった青島より先に連れの室井が謝ったことが、それっぽく見えたのだ。
目を剥いた室井だったが、眉間に皺を寄せると視線を逸らす。
「…ほんじなす」
なんとなく照れているのが分かる。
自分の行動に照れたのか、青島の言葉に照れたのか。
青島は笑いながら室井の硬い横顔を見た。
「そんなに照れなくても」
「うるさい」
「カッコイイって誉めてんですよ?」
足を止めた室井が、青島を振り返った。
その顔もやっぱり眉間に皺が寄っている。
「彼氏っぽいんじゃない」
そんなに癇に障る言い方だったかな?と青島は首を傾げた。
「彼氏っぽいんじゃなくて、彼氏だろ」
室井はそう言うと、呆けている青島を置いて、さっさと歩きだす。
なるほど。
確かに「彼氏っぽい」のではない。
彼氏そのものなのだから。
青島は笑うと、すぐに室井を追いかけた。
「待ってよ、ダーリン」
朗らかに言ったら、室井がまた目を剥いた。










END

2008.6.29

あとがき


書きたかったところは、青島君より先に謝る室井さんと、
「彼氏っぽい」とからかう青島君でした。
それだけ…(笑)

タイトルに意味は全くありません。
かわいらしいので、チェリーでございます。
あーいしてーる〜のひーびーきーだけで〜♪でもなければ、
こーいーしちゃったんだ多分気づいてな〜いけど〜♪でもありません。


アメリカンチェリーが好きなのは、私です。
あの、砂糖でもいれた?と思うような乱暴な甘みが好きです。
なんで果物なのにあんなに身体に悪そうなんですかねぇ。
でも、好き。


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