■ 婚約宣言


「婚約したら、教えてくださいね」
青島と二人、居酒屋で酒を飲んでいる時だった。
青島がいきなり言い出したから、室井は目を剥いた。
一体、今の今まで、なんの話をしていたのか。
驚きのあまり忘れてしまったが、少なくても色恋沙汰ではなかったはずである。
その手の話は室井が得意ではないので、することは滅多に無かった。
室井に合わせてか、二人でいる時には青島もあまりしようとしない。
だから、何故今そんな話題になったのか、室井には理解できなかった。
青島は日本酒を舐めながら機嫌が良さそうだった。
「俺に一番に教えてくださいね」
聞きたいことは色々あったが、室井はとりあえず突っ込んだ。
「婚約も何も、恋人すらいないんだが」
恋人もいない室井に婚約者ができる予定などあるわけもなく、青島の依頼がどこから湧いて出たものか、室井には皆目見当もつかなかった。
「ええ、だから、いつか婚約したら教えてくださいって言ってんですよ」
「…いつかっていつだ」
「そんなの、俺が知るわけないでしょっ」
婚約するのは俺じゃなくて室井さんだもん、とさも可笑しそうに笑っている。
室井は眉間に皺を寄せた。
「なんでだ」
俺の結婚を祝福でもしてくれる気かと、渋面の下で思う。
そんなことをしてもらっても、青島にしてもらっても、一つも嬉しくない。
ところが、青島からの返事は予想もしないものだった。
「室井さんの婚約が決まったら、俺、すぐ結婚相談所に駆け込みますから」
「…は?」
「そして、相手を見付けて、すぐに入籍します」
言われている意味が良くわからず困惑している室井に、青島は笑いながら宣言した。
「絶対室井さんより先に結婚してやる」
室井は呆れた顔をした。
室井とそんな勝負をしてどうしようと言うのか。
大体、勝負にもならない。
どう考えても、室井より先に青島の方が結婚するに決まっている。
室井には、当分結婚できない理由があった。
それを青島に説明できない。
「先に君の婚約が決まったら、俺もそうしよう」
そう言ってごまかし、酒を煽る。
―君のせいで結婚できない。
そう言ったら、何か変わるだろうか。
それは考えないではないが、言葉にはできそうになかった。
室井が内心で鬱々と考え込んでいたら、青島が軽い口調で言った。
「じゃあ、一生結婚しないでおこーっと」
室井が目を剥いて青島を見ると、青島は頬杖をついてただ笑っていた。
「青島…?」
それはどういう意味かと尋ねる前に、青島が短く叫んだ。
「あっ、終電、終電出ちゃいます」
時計を見て立ち上がると、財布から適当に金を出しテーブルに置いた。
「じゃ、俺先帰ります」
「あ、青島、ちょっと待て…っ」
室井も慌てて立ち上がるが、青島はちょっとも待たない。
「またね、室井さん」
室井にヒラヒラと手を振って出て行ってしまった。
それを呆然と見送る。
―じゃあ、一生結婚しないでおこーっと。
それはつまり、どういうことだ。
―俺に結婚してほしくない…?
それは、何故。
そんなことを考えている暇はなかった。
室井はすぐに伝票を手に席を立った。
青島の後を追わなければ。
そして、言葉の意味を聞き出さなければならない。
いや、むしろ自分の気持を伝えなければ―。


店を出て駅に向かう途中、室井は青島を捕まえた。
「俺も一生結婚しないから」
息を切らせて、なんとか言葉にしたのはそれだけだったが、今はそれでも十分だった。
青島は少し驚いたように、だけど嬉しそうに笑った。
「奇遇ですね」









END

2007.6.4

あとがき


シゲさん(NACS)が大泉さんに
「絶対お前より先に結婚する!」と宣言していたのを聞いて、
萌えて(…)書きました。

婚約宣言というか、婚約「しません」宣言というか(笑)
まあ、これも一応馴れ初め話かしら〜。


メッセージをくださったお客様、Lさん、ありがとうでした(^^)



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