■ あめあめ


電車を降り駅を出ようとした青島は、視界に濡れたコンクリートが入り、顔を上げた。
「…あ」
小さく呟く。
大粒の雨が降っていた。
駅の中を通り抜けている短い間に降り出したらしい。
電車に乗る前から天気は悪く空が重たかったから、青島も驚きはしない。
―やっぱり降ったか。
そう思うだけである。
ただ、手元に傘は無かった。
降りそうだと思っているなら傘を持ち歩けば良いのだが、家を出る時に降っていなければ持ち歩かない主義だった。
つまり、単なる無精者なだけだが。
幸い雨足はまだ強くないし、目的地―室井の自宅も駅から遠くはない。
走っていけばいいかと駅を出た青島は、すぐに足を止めた。
前方から向かってくる人がいる。
片手で傘を差し、片手でもう一本傘を持っている。
傘で顔が隠れて見えないが、見知ったシルエットのような気がした。
不意に少し傘が持ち上がり、顔が見える。
青島は目を丸くした。
「室井さん?」
想像通り、その人は室井だった。
室井はぼうっと突っ立っている青島に眉を寄せ、足早に近付いてくると、自分の傘を差しかけてくれる。
「やっぱり傘を持っていなかったか…」
仕方のないヤツだと言わんばかりに溜め息を吐かれ、迎えに来てくれたのだと悟る。
青島は顔を綻ばせた。
「わざわざ来てくれたんすか?」
「雨が降りそうだったからな」
室井も青島の習性くらいは知っていた。
傘も持たずに濡れ鼠になってやってくるだろうと思い、わざわざ迎えに来てくれたらしい。
「ありがとうございます〜」
「…いや」
室井が手に持っていたもう一本の傘を手渡してくれるから、有り難く受け取った。
青島も傘を差すと、室井と並んで歩き出す。
「今日みたいな日くらい、傘を持って歩いたらどうだ」
歩きながら呆れたように言われて、青島は肩を竦めた。
「でも、傘って、雨降ってないと物凄く邪魔じゃないです?」
「邪魔だが、濡れるよりはマシだろ」
「いや、少しくらい濡れてもですねー」
「それで風邪をひいたのは、どこの誰だったか」
じろりと睨まれて、青島は愛想笑いを浮かべた。
そういえば、先日雨の中を傘も差さずに歩いて風邪をひいたばかりだった。
その時は捜査中で傘がさせない状況だったから仕方がなかったのだが、その後寝込まないまでも一週間は鼻水に悩まされた。
もしかしたら、それを思い出したから、わざわざ迎えに来てくれたのかもしれない。
青島は頭を掻いた。
「そんなことも、ありましたっけねー」
「…まったく、君は」
また溜め息を吐かれ、青島は慌てて付け足した。
「気を付けます、はい」
折角久しぶりのデートなのである。
愛しい人のお説教を聞きながら過ごしたくはない。
それはきっと室井だって同じで、青島にお小言を言いながら過ごしたくはないだろう。
室井は苦笑しながら言った。
「約束だぞ」
「はい」
返事だけはおりこうさんにして頷いて見せると、室井は苦笑を深めた。


「でも、あれっすね」
並んで歩きながら傘に当たる雨の音を聞いていたら、唐突に思った。
「ん?」
首を傾げて見上げてくる室井に向って、ニコリと笑う。
「室井さんが迎えに来てくれるなら、雨もいいかもね」
本当は雨はあまり好きじゃない。
傘を差すのが好きじゃないし、足元が悪くなるし、なにより空の暗さと相まって気分まで暗くなる。
それに、雨には嫌な思い出も多い。
いつも鮮明に思い出すわけではないが、仲間を傷つけられた出来事は忘れていない。
ふと思い出せば、なんとなく心が重くなる。
だが、室井と一緒なら、そんなこともない。
現金なものだと自分でも思うが、室井と歩く道なら雨も悪くないと思えた。
室井は眉間に皺を寄せて、青島から視線を逸らした。
「ほんじなす」
ばかものと言われても、室井が照れているだけだと分かるから腹も立たない。
甘えるなと怒らない辺りに、室井の愛情を余計に感じた。
照れる室井が可愛いので、ついつい更にからかってしまう。
「相合い傘の方がもっと良かったけどなー」
「…なんなら、今からするか?」
傘が二本あるというのに、男二人で相合傘をするには勇気がいる。
さすがの青島だって照れくさい。
それが分かっていて、室井も言っているはずだ。
室井の小さな逆襲に、青島は笑みを溢して前方を指さした。
「残念、もう室井さんちだ」
指を差した先には、室井の自宅があった。


後日改めて相合い傘のリベンジをされるのだが、それはこの時の青島が知る由もないこと。










END

2007.5.23

あとがき


ふれふれ♪…ということで(どういうことだ)

またも意味のない小話です;
こういうの考えてる時って幸せなのですが、
いざ更新っとなるとちょっと悩むんですよね。
だからなんだー?と、自分でも思う(笑)

雨の中、傘もささずに歩く青島君が好きです。
走る…かな。
青島コートのフードかぶってね、ちょっと首を竦めて跳ねるように歩き出す。
あの歩き方、可愛いですよね〜。


雨降りと傘と室青。
ただそれだけのお話でした(^^;



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