■ ひまつぶし


室井は自宅に持ち帰った捜査資料を眺めていた。
文字通り眺めているだけなので、中身が頭に入ってこない。
脳内は、違うことでいっぱいだった。
ちらりとソファーに視線を向ける。
そこには、青島がいた。
ソファーに仰向けに横になり、携帯電話をいじっている。
最初は気にもせず仕事に没頭していたが、一度それに気付くとどうしても気になった。
青島はかれこれ30分近くそうしていた。
捜査資料で顔を隠しつつ、室井は顔を顰める。
―誰にメールをしてるんだろう。
世話しなくキー操作をする音がしているから、青島が誰かとメールのやり取りをしているのだろうと思っていた。
メールくらい、青島だって室井以外の誰かとするに決まっているし、そんなことに口を出すつもりも権利もない。
ただ、正直なところ、ちょっとだけ面白くない。
―俺といる時に、メールしなくても…。
そう思って、また顔を顰める。
今度は単純な自己嫌悪だった。
そういう室井は青島が遊びに来ているというのに仕事中である。
ほったらかしにしておいて、文句など言えた義理ではない。
「室井さん」
不意に名前を呼ばれて読んでもいなかった資料から目を離すと、青島がこちらを見ていた。
「コーヒーでも飲みます?」
「あ、ああ…ありがとう」
気遣いに頷いて応じると、青島は笑って首を振った。
よっと掛け声をあげて起き上がると、台所に向かう。
その後ろ姿を見送って、室井は苦笑した。
自分の狭量ぶりがおかしい。
青島の小さな優しさに触れて現実に戻り、仕事に頭を切り替えた。


二人分のコーヒーを淹れた青島は、またソファーに戻っていた。
今度は横にならずに片手でマグカップを持ち、もう片方の手で携帯電話を握っている。
盗み見ればたまに青島の表情が嬉しそうに緩むから、室井の眉間に皺が寄った。
やっぱりどうしたって気になる。
青島が楽しそうに長メールをする相手が。
「…青島」
室井はとうとう資料をテーブルに置いた。
「はい?」
携帯電話から顔を上げた青島に、真顔で言う。
「余計なお世話なんだが、俺に関係ないことは分かっているんだが、そんなことは君の勝手なんだが」
「は、はい?」
室井の意を決したような表情に驚いたのか、青島は目を丸くして瞬きをした。
気まずいが、精一杯冷静に尋ねる。
「誰とメールしてるんだ?」
「……はい?」
一瞬呆けて、青島は自分が手にしていた携帯電話に目を落とした。
「あ…ああ、違う違う」
呟いて、室井に携帯電話のディスプレイを向ける。
「ゲームっすよ、暇だから遊んでただけ」
今度は室井が目を丸くした。
「単純なゲームなんですけどねー、やりだすと結構はまるんですよね」
青島はそう言いながら携帯電話を見下ろした。
たまに暇つぶしに遊んでいるのだと教えてくれる。
昨今の携帯電話にゲーム機能があることくらいは室井でも知っていたが、本人は全くやらないので頭が回らなかったのだ。
メールを打っているものだと信じこんでいたが、青島はただ一人の時間を持て余して、ゲームで遊んでいただけだった。
「……そうか」
室井には、他に言える言葉がない。
勘違いで恥ずかしいやら、嬉しいやらだ。
「邪魔してすまない。続けてくれ」
眉間に皺を寄せたまま、テーブルに置いた資料を再び手に取る。
気まずさから資料で顔を隠すが、ソファーから降りて目の前にやってきた青島に、その横から顔を覗きこまれる。
楽しげな眼差しに、また室井の眉間に皺が寄った。
「室井さん」
「…なんだ」
「もしかして、妬いてた?」
実際にはいもしなかった青島のメールの相手。
そんなものにまで嫉妬した自分を呪いながら、室井は仏頂面で頷いた。
「悪いか」
嘘のつきようもなくそう答えると、青島は何故か嬉しそうに笑った。
「全然」
呟いて、唇を寄せてくる。
室井は資料を持っていた手を下げ、素直に近付いてくる青島を待ちながら目を閉じた。
軽く触れ合わせると、至近距離で青島が囁く。
「全然悪くないから、もっと俺のこと考えて」
室井が資料を放り出したくなっても、無理はなかった。
それをなんとか我慢して、我慢できずに首を伸ばし、青島に軽いキスを返す。
楽しげな青島とは対称的に、室井はこれ以上ないくらい不機嫌そうに言った。
「これ以上考えてたら、仕事にならない」


「俺は早く違うひまつぶしがしたい」
そう言う青島に触発されて、室井は驚異の集中力で仕事を片付ける。
30分後には、違うひまつぶしをする二人の姿があった。











END

2007.5.10

あとがき


この小話は、先日とある方のお見舞いにと、
携帯メールに送らせて頂いたお話でした。
お見舞いの暇つぶしで、タイトルが「ひまつぶし」です(笑)

うちの室井さんはなんにでも嫉妬するなー(笑)
オバカさんv←それはお前だ。

青島君も仕事中の室井さんにはちょっかい出さずに、じっと我慢の子。
でも、我慢してたっけ、室井さんが可愛いこと言い出すから(青島君視点で>笑)
我慢できずに誘っちゃいました〜みたいな感じかな〜。

お粗末様でした!



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