■ ゆきみち


室井を伴って、新木場の駅で下りる。
仕事帰りに待ち合わせをして、軽く飲んだ帰り道だった。
駅を出てすぐに、青島は目を丸くした。
「うわぁ…」
続きは室井が引き取る。
「雪だな」
電車に乗っている間には降っていなかったので、ちょうど雪が降り始めたところだったようだ。
そのわりに道路が白くなり始めている。
ちらついているというよりは、吹雪に近いのだ。
「わー、凄いっすねぇ」
ちょっとの隙に、どんどん辺りが白くなってくる。
「寒いとは思っていたが…」
室井は少し憂鬱そうに雪を眺めて、青島を見た。
「タクシー拾うか?」
「え?俺んち、すぐですよ?」
そんなことはわざわざ指摘しなくても、何度も来ているから室井も良く知っている。
何も歩くのが面倒臭くて言っているわけではないのだ。
「雪、結構酷いぞ」
「遭難はしないでしょ、新木場で」
「…寒いだろ」
「雪国育ちが情けないこと言わないでくださいよ」
朗らかに笑ったら、室井は眉間に皺を寄せた。
「俺じゃなくて、君が」
青島が寒いだろうと言いたかったらしい。
室井より青島の方が寒がりで暑がりなのだ。
つまりわがままなだけだが。
自分に向けられた優しさには素直に嬉しそうにしながら、青島は首を横に振った。
「いや、これくらい平気っすよ」
「しかし…」
「滅多にないことだし、歩きましょうよ」
ほろ酔いも手伝って気持ちが大きくなっている青島に苦笑すると、室井は釘をさした。
「転ぶなよ」


「ひゃあ〜」
青島がなんとも情けない声を上げると、一歩先を歩く室井がちらりと振り返った。
青島がへらっと愛想笑いを浮かべると、小さく溜息をついて、また前を向いて歩き出す。
「頑張れ」
短い応援の言葉に、青島は苦笑した。
最初は隣を歩いていたのだが、雪の勢いに負けた青島が遅れ始め、仕舞いには室井の背中に隠れて進んでいたのだ。
しようがないヤツだという顔はしたものの、室井は文句も言わず背中を貸してくれている。
フードまで被り小さくなっている青島に比べ、室井は相変わらず姿勢が良い。
室井だって寒いことは寒いのだろうが、我慢が効くらしい。
その真っ直ぐ伸びたままの背中に、室井が二割増しでかっこよく見えたが、きっと気のせいだ。
室井だってこんなことで惚れ直されても、嬉しくはないだろう。
「凄いっすねぇ」
「だから言ったろ」
「ちょっと顔が痛い…」
寒いし冷たいしで、酔いもどこかに行ってしまいそうだった。
青島が泣き事を零していると、突風が吹き、顔に雪のツブが当たる。
また情けない声が出た。
「ひぇ〜〜〜」
室井が立ち止まり振り返った。
「…?」
小首を傾げた青島に、室井は眉間に皺を寄せたまま手を伸ばしてきた。
無言で青島の手を掴むと、そのまま歩き出す。
吹雪の中、通りかかる人もいない、いても誰も他人のことなど見てはいない。
そんな状況だからこそ、室井がそんな行動に出たのだろうが、珍しいこともあるものだ。
青島は室井に手を引かれて歩きながらそう思った。
「室井さん?」
声をかけるが振り返らない。
「…遭難すると困るから」
風の音に辛うじて掻き消されない程度に聞こえてきた室井の声に、青島は笑みを零した。


取って付けた理由に、意味は無い。
繋いだ冷えた手と手。
そこに感じる温もりこそに、意味がある。

「遭難する時は一緒にってことっすね」
振り返りはしなかったが、室井が笑った気がした。


自宅まで後数メートル。
相変わらず、寒いし冷たいし痛い。
だけど、もう少しだけ遠ければ良いのにと思う。
後少しだけ、一緒に歩きたい。
冷たくて、温かい、手の平と。





END

2006.12.2

あとがき

もりもりと雪が降ってる時に書きました。
まあ、なんて単純な(笑)
会社の窓から見てて、浮かんだネタでした。
仕事中に何を考えているのでしょうか;

その前日くらいには、フワフワした雪が舞っていて、ちょっとキレイでした。
大粒の雪なのですが、きっと軽いのでしょうかね?
私の勤める会社はビルのわりと高いところにあるのですが、
風で舞い上がって、下から上に向って雪がフワフワ飛んでいくのですよ。
本当は、そんな軽やかな雪の中を青島君に歩いてもらいたかったのですが。
そちらはネタが浮かばなかったので、また今度にします(^^)

青島君は雪が降ると子供みたいに一瞬喜んで、
次ぎの瞬間には「寒い」とか「道が悪い」とか「道路が混む」とか
文句を言ってる気がします(笑)
関東で、前後が良く見えなくなるほど降ることってあるんでしょうか?
そんなことってないのかなぁ。
なかったらすみません(^^;



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