■ 犬と猿


「だから、そいつはうちで取り調べるって言ってんでしょ」
「本庁の仕事に所轄が口を挟むな」
「誰も本庁の仕事に口出しなんてしてませんよ」
「なら、参考人を寄こせ」
「そいつはうちの事件の被疑者でもあるんです」
「どうせケチな万引きかなんかだろう」
「ケチ?万引きも窃盗も犯罪ですよっ」
「そんなことは、貴様に言われなくても分かってる」
「なら、所轄の邪魔をしないでください!」
「貴様こそ、本庁の邪魔をするな!」
「だから、してないっつってんでしょ!所轄の仕事をさせて欲しいだけですよっ」
「それが邪魔してると言ってるんだっ」
「へーっ、じゃあ、本庁のお偉いさんは、所轄の仕事をするなって言うんですかっ」
「貴様は他に仕事がないとでも思っているのか?だったら、警察官なんて辞めてしまえ」
「退職勧告ですか?訴えますよ、俺はいい弁護士知ってるんですからねっ」
「やれるもんなら、やってみろ。返り討ちにしてくれる!」


延々と続く青島と新城の怒鳴りあいに、室井は眉間を押さえた。
湾岸署の刑事課の連中は、皆遠巻きに見ていて近付いては来ない。
いつもなら青島を止める袴田や宥める和久も今は不在のため、埒の明かない会話は止まらない。
大体この二人は、寄ると触るとこんな感じだ。
新城は所轄を蔑ろにする悪い癖があり、それから何がそんなに気に障るのか知らないが青島自身が嫌いで、新城のそういう態度が青島にも伝わるから、青島も新城が好きではないのだ。
室井から見ると、所轄を蔑ろにする新城も、その新城に過敏になる青島も、どちらも大人気ない。
新城のやり方は間違えていると思うが、他のキャリアが相手だったら青島もここまで粘らないはずだった。
新城が相手だと、意固地になる傾向にあるのだ。
それは新城も一緒だ。
ある意味気が合っていると言えるが、そりが合わないというところで気があっているのだ。
新城の態度が違えば青島も違ってくるのだろうと思うが、新城の態度は青島が従順にでもならない限り変わらない。
つまり、永遠にこのままだ。
室井は溜息を吐いた。


「そんな小さなことを言ってるから、アンタは背が伸びないんですよ」
「関係あるか!貴様みたいな役立たずな独活の大木より、マシだ」
「俺は役に立ってますよっ」
「ふん。精々高い所のモノを取るくらいだろう」
「高い所のモノを取るくらいのことも不可能な新城さんには言われたくない!」
「不可能言うな!頭に行くはずの栄養がみんな背に行っただけのヤツに言われる筋合いはないっ」
「頭にだって、ちゃんといってますよ!」
「栄養が足りないから、理解力が足りないんだ貴様はっ」
「新城さんなんて足りないモノばっかりじゃないですかっ」
「なんだと」
「優しさが足りない、思いやりが足りない、心のゆとりが足りない、背が足りない」
「…よし、名誉毀損で訴えてやる!」

「うるさいっ」


最後に怒鳴ったのは、青島じゃなくて室井だった。
二人の会話があまりにも低次元になってきて、我慢の限界に達したのだ。
室井の額には、青筋が浮かんでいる。
「いつまでもくだらないことを言い争ってないで、仕事をしろ」
青島は膨れたように、新城は不服そうに、室井を見た。
「だって、室井さぁん」
「悪いのはこいつですよ」
「うるさいと言っている」
ぴしゃりと言い放って、じろりと青島を睨むと、青島の背筋が少し伸びる。
「君は被疑者の取調べをしてくれ。できるだけ早く」
青島の返事も聞かずに、そのまま新城も睨みつける。
「ここで送検が終わり次第、参考人を本庁に連れて行く。いいな?」
「…室井さんは所轄に甘すぎる」
「なら、君は何をしたというんだ。刑事とケンカをして、怒鳴りあっていただけだろう」
新城が口をつぐんだ。
痛いところをつかれたようで、返す言葉がないらしい。
「捜査の効率化を考えるなら、やり方の善し悪しを考えるべきだ」
それだけ言って、また青島に視線を戻す。
新城が怒られていたせいか、青島の表情が緩い。
だが、室井の顔を見て、慌てて引き締める。
室井の表情は一つも緩んでいない。
「君もだ。ケンカするだけで、事が解決するわけじゃないことは分かっているだろう」
「…はい」
「もう少し大人になれ」
膨れるかと思ったが、青島は苦笑しながら頭を掻いただけだった。
「はい」
青島は話して分からない男でもない。
飲み込むべきところは飲み込んでもくれるし、心の底では割り切れないとしても全く我慢がきかない男でもないのだ。
軽く見えがちな印象ほど、青島が子供だとは室井は思っていなかった。
「すぐ、始めます」
室井が頷くと、青島はちょっと笑った。
それに応じるように、室井の口角も少し上がる。
青島が取調室に入るのを見送ると、魚住が応接室に案内をしてくれた。
そこで仏頂面の新城と二人、待たなければならない。
「相変わらず、仲が宜しいようで」
新城の嫌味に、室井はひっそりと溜息を吐いた。


―羨ましいのか?
聞いてみようかと思ったが、烈火のごとく怒られることが目に見えていたので、室井は黙っていることにした。





END

2006.7.23

あとがき

この二人は、付き合っているのかな。どうかな。
(青島君と室井さんです>新城さんは論外>笑)
どちらでも良い気がします〜。
お好きな方でご覧になって頂けると嬉しいです♪

書きたかったのは、室井さんに怒られる青島君と新城さんでした(笑)
たまにはカッコイイ室井さんを…と思ったのですが、
特別カッコよくはなりませんでしたね;
まあ、いつものことです(おいおい)

室井さんの裁きがあっているのかどうかは、
突っ込まないであげてください;
難しいことは相変わらずさっぱりです…。
申し訳ありません〜〜〜(土下座)



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