■ たまにはそんな日も
台所で夕飯を作っていた青島は、大分雨脚が強くなってから雨が降っていることに気が付いた。
料理を作る音に掻き消されていたらしい。
ちなみに今晩はミートスパゲティだ。
以前室井に作ってもらって美味しかったので、作り方を教えてもらったのである。
「…室井さん、無事かな?」
雨が見えるわけでもないのに、なんとなく天井を見上げながら呟いた。
今日は仕事帰りに室井が泊まりに来ることになっていて、明日の休暇を一緒に過ごす約束だった。
青島は珍しく暇で早く帰ってこれたので、夕飯を作りながら待っていたのだ。
朝から少しどんよりした天気だったから、室井のことだから傘くらい持って行っているかもしれない。
そんなことを考えながら鍋を掻き回していたら、インターホンが鳴った。
青島はすぐに火を止めると、玄関に向う。
室井だろうと思ったから確認もせずにドアを開けて、目を丸くする。
室井じゃなかったわけではないが、ずぶ濡れだったのだ。
「ちょっと、雨にあたってしまった」
目を丸くしている青島に、室井が苦笑気味に言った。
ちょっとどころではない室井の濡れっぷりに、呆気にとられている場合じゃないと気付く。
青島は慌てて室井を中に招き入れた。
「早く入って、風邪ひきますよ」
大分暖かくなっているとはいえ、夜に雨になんかにあたったら風邪をひいてしまう。
「いや、その前に何か拭く物を貸してくれないか。部屋が濡れてしまう」
「そんなの気にしなくても…ああ、ちょっと待ってて」
どっちみち室井を濡れ鼠のままにはしておけない。
青島は一旦部屋に戻りバスタオルをとって戻ってきた。
それを室井に手渡さずいきなり頭に被せると、そのままワシワシと水気を拭き取る。
「傘、持って行かなかったんですか?」
「持っては行ったんだが、本庁に忘れてきたんだ」
「珍しいなぁ…ビニール傘でも買えば良かったのに」
「駅を出た時は小ぶりだった」
「タクシー乗るとか」
「つかまらなかった」
どうやら今日の室井は、少しだけついていなかったようだ。
そんな日もある。
「ところで、青島」
「はい?」
「少し痛いんだが…」
言い辛そうに言われて、青島はハタと手を止める。
「あ、すいません。大丈夫です?」
タオルの両端を掴んで、室井の顔を覗き見る。
少し照れ臭そうな室井と目を合わせて、青島は吹き出した。
「室井さん、可愛い〜」
「あ?」
「頭、ボサボサ」
オールバックだった髪がずぶ濡れになった挙句、青島に掻き回されて乱れまくっている。
髪を下ろした室井の姿は何度も見ているが、こんなにボサボサ頭の室井は見たことがない。
尤もボサボサになった大きな理由は、青島の乱雑な拭き方のせいだったが。
そんなことはお構いなしで、青島は室井の無防備な姿に屈託なく笑った。
「室井さん、可愛いなぁ」
青島とは対称的に、室井の眉間に皺が寄る。
可愛いと言われて喜ぶ男はあまりいないから無理もない。
―でも、可愛いんだもん。仕方ないじゃん。
などと思いながら、つかんだバスタオルごと引き寄せて、室井の眉間に唇を押し付ける。
憮然とした表情は変わらないが、眉間の皺は少し薄くなった気がした。
「俺みたいなおっさんの何が可愛いんだ」
「あちこち可愛いですよ」
「悪趣味だ」
「あ、それは自覚あります」
おっさんが可愛いなんて、自分はきっとどこかおかしいのだろうと思う。
だけど恋をしている人間は、多かれ少なかれどこかおかしくなっているはず。
だから、青島のそれも普通のことだ。
青島に真剣に愛を誓う室井も言うまでもない。
青島の返事に複雑な表情を浮かべている室井に、青島は笑いながらもう一度唇を寄せた。
今度は唇にキスをする。
「室井さんの唇、冷たい」
「…君のは暖かいな」
そう言うと、今度は室井から唇を寄せてくる。
浅いキスを繰り返しながら、室井の手が頬に触れた。
そのちょっとビックリするような冷たさに、青島は名残惜しげに唇を離した。
「俺があっためてあげたいんだけど」
ぎょっとする室井に笑って、バスタオルから手を離す。
「そんなんじゃおっつかなそうだから、風呂入ってください」
湯船に湯が溜まるの待っているのも寒そうだから、シャワーにした方が良いかもしれない。
そう勧めると、室井は苦笑しながら頷いた。
「残念だが、そうさせてもらう」
室井だって青島に温めてもらう方が嬉しいだろうが、雨で濡れた身体で抱き合うのは難しい。
そんなことをして、二人揃って風邪でもひいたら一大事である。
仕事に支障が出るようなマネは避けたい。
幾分残念そうな室井をバスルームに促し、改めて乾いたバスタオルを渡してやる。
「しっかりあったまってくださいね」
熱いシャワーを浴びるようにと釘を刺す。
室井のことだから心配はいらないと思うが、青島だって室井の世話を焼きたくなる時がある。
「あ、スーツはうちでクリーニングに出しておきますね」
濡れたスーツは着て帰るのも持って帰るのも、億劫だろう。
明日は青島の服を来て帰ってもらえばいい。
「…すまない、ありがとう」
律儀に礼を言う室井に緩く首を振ってバスルームから離れようとした青島は、行きかけて足を止めた。
室井を振り返ると、悪戯っぽく笑う。
「風呂入って、飯食ったら、さっきの続きしましょうね」
夕飯を飛ばしたらダメか?と聞かれて、青島は爆笑しながら絶対ダメですと答えた。
END
2006.5.11
あとがき
いちゃいちゃーべたべたー(笑)
ほ、他に後書きで書くことがない!(大笑)←どこが後書きだ。
ちなみに、これの続きも考えております。
書けたらアップしますね〜(^^)
うん。まあ。これと一緒でくだらない感じのお話ですが。
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