「春ですねぇ」

床に座り込んで、少しだけ窓を開けて煙草を吸っていた青島が言った。

新聞から顔を上げた室井が青島を見ると、青島は窓の外を見ていた。

「何か見えるのか?」

今夜は月も出ていないし、街灯の明かりくらいしか見えないだろう。

不思議に思って尋ねると、苦笑した青島が振り返った。

「いや、なんも見えないけど・・・・・・声がね」

「声?」

「ほら」

青島がもう少し窓を開ける。

冷たい空気が入ってきた。

それと同時に、確かに音がする。

少し聞いて、室井も苦笑した。

「ああ・・・猫か」

なぁーなぁーと太く大きな声で鳴いているのは、春特有の猫の鳴き方である。

つまり発情期なのだ。

「凄い声、ですよね」

苦笑したまま、青島が呟く。

「動物は分かりやすいな」

室井の言葉に、青島はふっと笑った。

「俺は分かりにくい?」

室井は目を丸くした。

言った言葉に深い意味はなかったから、驚いたのだ。

青島も冗談で言ったのだろう。

クスクスと笑っている。

室井はちょっと真面目に考えて、首をふった。

「そうでもない」

「そりゃ、よかった。室井さんは分かりやすいですよ〜」

「・・・それは喜ぶとこか?」

眉間に皺を寄せると、青島は吹き出した。

「俺は嬉しいっすけどね、分かりやすい室井さん」

室井は益々眉間に皺を寄せる。

分かりやすく発情する室井が嬉しいらしい。

―これが誘い文句じゃなきゃ、なんだって言うんだ。

新聞を畳むとテーブルに放り出し、青島に近付く。

青島は近付いてくる室井を楽しそうに眺めながら、煙草を灰皿に押し付けた。

青島の後頭部に手を回し、引き寄せながらキスをする。

唇を軽く合わせながら、青島の手が少しだけ開いていた窓を閉めた。

「猫にあてられた?俺ら」

唇が触れる距離で、青島が囁く。

「春だからな」

理由にならない理由だった。

季節は全く関係ない。

青島が青島だから、欲しくなるだけ。

その気持ちのまま、また唇を重ねる。

青島の両腕が室井の背中を抱いた。

その途端、また猫の鳴き声が響いた。

太くて高い、尾を引くような鳴き声。

窓を閉めてもはっきりと聞こえたのだから、余程万感の意を込めた鳴き声だったのかもしれない。

二人とも思わず動きを止めた。

視線を合わせると、青島が笑い出す。

「あははは」

「・・・やりにくいな」

思わず零すと、それが余計に青島の笑いを誘ったらしい。

「室井さん、素直だなぁ」

身を捩って笑っている。

室井は眉間に皺を寄せた。

「悪いか」

「悪くない悪くない」

首をふって否定しながらも、笑顔だった。

「まぁ、確かにあてられてるんだか、邪魔されてるんだか、わかりませんね〜」

室井は立ち上がると、青島に手を差し延べる。

意味を理解すると、青島はすぐに室井の手をとり立ち上がった。

握った手はそのままで、室井が促さずとも青島の足は寝室に向かう。

「猫に負けてられませんね」

青島が宣言するから、室井は苦笑した。

「何を張り合う気だ」

「いっぱい愛し合いましょうってことですよっ」

ニコリと笑う青島の唇を塞いで、室井は寝室のドアを閉めた。





青島が猫に負けずに鳴いてくれるのなら、嬉しいかもしれない。

などと思った室井の頭の中も、春だった。

























END
(2006.4.21)


自宅のトイレに入ったら外から凄い求愛の声が聞こえてきて思いついた小話です(笑)
ネタは何でもいいのか、自分・・・;

小話過ぎて語るべきことは何もありません(笑)

例に漏れず、バカップルでした。
お粗末様でした!