■ 寒い日


インターホンが鳴ってドアを開けると、緑の物体が転がりこんできた。
緑の物体は当然青島である。
分かってはいたが、室井は目を丸くした。
「寒いっ、寒い寒いっ」
コートの襟首を両手で掻き合わせて、首を竦めながら震えている。
「ああ…今日は今年一番の寒さだって言ってたからな」
先ほどまで見ていたニュースでそんなことを言っていたことを思い出した。
まじまじと見れば、青島の頬が真っ赤である。
余程寒かったらしい。
大きな身体を小さくして震えている姿は正直可愛いかったのだが、そんなことを考えている場合ではない。
「夕飯は鍋にした。中に入って早く温まるといい」
風邪でも引かれては困る。
室井が中に促すと、青島の眼差しが輝いた。
「鍋?やった〜」
一応「お邪魔します」と断ってから、靴を脱いで上がる。
「外寒かったから、余計に嬉しいです〜」
鍋にまっしぐらな青島に、室井は苦笑を漏らした。
「君は本当に色気より食い気だな」
思わず呟くと、青島が振り返って唇を尖らせる。
「失敬な」
そう言いながら少し考えて、上目使いで室井を見つめてくる。
「室井さんの身体で温めて」
目を剥いた室井に、青島はニヤリと笑った。
「とか、言って欲しかったです?」
色気より食い気発言の仕返しか、からかわれたらしい。
室井が渋面になったら、青島は声を立てて笑った。
そして軽く唇を合わせてくる。
冷たい感触に、ドキリとした。
至近距離で青島がやんわりと微笑んだ。
「俺が温めてやるくらい、言ってくれてもいいんですよ?」
これで誘っていないのなら、青島は性質が悪すぎる。
室井は青島の後頭部に手を回し、唇を重ねた。
青島も抵抗はせずに、室井の背中に腕を回す。
冷えた唇に何度も自分のソレを重ねて、熱を与える。
室井の熱が移ったのか、青島自身が熱くなったのか。
青島の唇は温もりを取り戻し、赤く色ついた。
「…ん、室井さん…」
青島の手が、軽く室井の胸を押した。
「とりあえず、飯食いましょう」
やっぱり色気の無い青島の発言に、室井は呆れた顔をした。
誘っておいて逃げるとは卑怯である。
室井が声に出さずに思ったことがバレたのか、青島は苦笑した。
「だって、室井さんのおかけで、気分はすっかり鍋モードなんだもん」
そう言われてしまうと鍋にしなきゃ良かったと思わなくないが、そんなに青島が喜ぶならやっぱり鍋にして良かったんだとも思う。
室井の胸中は複雑だ。
くだらないことで。
「飯食ったら、ね?改めて、温めてくださいよ」
フォローのつもりか、そんなことを言うから、室井は溜息を吐いて苦笑いした。
「それはもう、温めるとは言わないんじゃないか?」
「…じゃあ、一緒に熱くなりましょう?」
やっぱり青島は性質が悪い。
室井は極力平然とした顔で頷いた。


鍋を食べ終わるまで我慢した室井は、「待て」を躾けられている犬に酷く同情したという。





END

2005.10.26

あとがき

室井さんが可哀想……あ、いつもか(おい)
性質が悪い青島君ですが、
イジワルしようとしたわけではないんじゃないかと〜。
青島君もしたいから誘ったわけで、やる気(?)は満々で、
だけどとりあえず鍋を食わせてくれと思っただけではないかと(笑)



template : A Moveable Feast