■ 貴方が好きだから


「あああ、の、むむむろいさん?」
久しぶりの室井宅での逢瀬の最中。
これまた久しぶりに良い雰囲気で、室井との口付けを楽しんでいた青島は、キスが深くなったのと同時に押し倒されて初めて異変に気付いた。
理想を共有する同志に、恋人というカテゴリーが追加されてから、約半年。
普通ならとっくに済ませているはずのことが、まだであった。
お互い忙しく月に数度顔を合わせる程度の交際なのだから、仕方がないといえば仕方がない。
だが、青島だって男だ。
好きな人と一緒にいて、そういうことがしたくないわけがない。
いい加減なんとかしないとな、とは思っていたがこれは予想外だ。
押し倒した途端拒まれて、室井は不安そうな顔をした。
「イヤか?」
「え、えーと、いやっつーか…」
青島は引き攣りながら、にへらっと笑った。
「お、俺、こっちっすか?」
室井が目を見開く。
青島は男と寝たことはないし、進んで「抱きたい」と思っているわけではないが、図体が若干デカイ自分が抱く側なのかと、ものすごく漠然と思っていたのだ。
触れ合いたいとは思っていたが、深いことを考えていなかったあたり青島らしい。
覆い被さっていた室井が起き上がり、青島も体を起こす。
隣り合わせに座ったまま、青島は気遣わしげに室井の顔を覗きこんだ。
「あ、の。誤解しないでくださいよ?室井さんと、…その、するのが嫌なわけじゃないっすよ?」
そう、嫌なわけではないのだ。
ただ、こういうことは最初が肝心なことのような気がするのだ。
今後のことを考えると。
青島の気持ちを察してか、室井が苦笑する。
「そうか。なら、いい」
くしゃっと、青島の髪をかき回して室井は立ち上がる。
明日も早いからもう寝よう。
そう言われて驚いたのは青島だ。
怒ったわけではないのだろうが、先程の行為は無かったことにする気らしい。
「ちょ、ちょっと、室井さん!」
「……急ぐことでもないだろう」
「そりゃあ、そうですけど!」
「それが目的で君と付き合ってるわけではないから、俺は構わない」
この期に及んで「カッコイイ」などと思ってしまい、軽く赤面しつつも青島は引かなかった。
「先送りして解決する問題でもないんじゃないですか?」
室井が眉間に皺を寄せる。
怒った時だけじゃなく困った時や動揺した時にも室井は眉間に皺を寄せるので、青島は今更気にしない。
今は間違いなく困っていると、確信していた。
「……君は」
「何です?」
「俺を抱きたいと思うか?」
青島は目を剥いた。
男同士だし、こんなことをオブラードに包んで話をしていても仕方が無いから別に構わないのだが、さすがに照れる。
ぎょっとする青島をよそに、室井は真剣そのものだ。
「…う、や、ええと…、あー、うーん」
青島も真剣に答えようと思うのだが、答えが出せない。
室井を抱けるかと聞かれれば抱けると答えられるが、抱きたいかと聞かれると少し違う気がする。
かといって、抱かれたいかと聞かれても、恐らく頷けはしない。
返事に詰まる青島を静かに見つめたまま、室井は続けた。
「俺は君を抱きたい」
青島は今度ははっきりと赤面した。
潔い口説き文句を吐く室井の、青島を見つめる視線は酷く優しい。
「君を可愛いと思うんだ。……おかしいな、君も30を過ぎたいい大人なのにな」
苦く笑う室井に、青島は心臓を掴まれた気がした。
―こんなに思ってくれているのだったら、どっちがどうでも良いじゃないか。
青島は至極あっさりと思った。
抱くのも抱かれるのも、たぶん嫌じゃない。
相手は室井だ。
触れ合えるならどちらだって構わない。
室井が自分を抱きたいというなら、青島はそれで良いと思った。
ただ気付くのが遅かった。
押し倒された時に思っていれば、そのままことを運べたのだが…。
室井はもう一度青島の頭を撫でた。
「さっきも言ったが、それが目的で君と付き合っているわけじゃないんだ。無理強いするつもりなんて毛頭ない」
そう言って、再び離れていこうとする室井の腕を、青島は思わず掴んだ。
室井がそこまで言ってくれているのに、何も言わないのも行動に移さないのもフェアじゃないと思ったのだ。
思ったのだが、何を言えば良いのか分からない。
まさか「抱いてくれ」とは間違ってもいえない。
腕を掴んだまま無言の青島に、室井は優しく笑ってくれる。
「青島…」
「じゃんけん」
青島の口から思わずついて出た台詞に、室井はポカンとする。
「…は?」
「じゃんけん、しましょう。室井さん」
「な、なぜ?」
「じゃんけんで決めましょう。抱くか抱かれるか」
「!」
青島の突拍子も無い提案に、室井は目を見開いた。
青島もふざけているわけではなく、いたって真面目である。
「それなら、公平でしょ?」
「しかし…」
「いいから、はい」
いつになく強気な青島が、「じゃんけーん」と言い出すと、室井は殆ど反射的にそれに応えた。


勝者、室井。
「はい、決まり」
呆然とする室井の腕を引っ張って、青島は自分の方に引き寄せた。
膝をついた室井の首に両腕を回す。
「あ、青島」
慌てたのは室井の方だ。
あれだけ青島を思ってくれている人だから、こんな方法で決めて良いわけが無いと思ってくれたのだろう。
それにはお構いなしに、青島は引き寄せた室井の唇に自分のそれを軽く重ねた。
「ベッド、行きませんか」
さすがにリビングじゃあ、と青島が言う。
「青島、俺は…っ」
「室井さん」
青島は室井の唇に手を当てて、微笑した。
「……俺、じゃんけん、激弱なんですよ」
「!」
じゃんけんが弱いと知っていて、それで勝負を挑むということは。
負けるつもりだった、ということだ。
―抱いてくれとは、やっぱり言えない。
いつかは言える日が来るかもしれないが、男に興味の無かった青島にはまだプライドが邪魔をして言葉には出来なかったのだ。
「…君は」
いくら鈍い室井でも、伝わらないはずもない。
室井が優しく青島の背中を抱いてくれる。
「いいのか?」
「じゃんけんで、負けましたから」
青島が笑顔で答えると、室井は苦笑して青島に口付けた。





END

2005.10.6

あとがき

再利用です(?)
人様に押し付けたものだったのですが、思い至って今更アップ。
古いです。一年以上前かなぁ・・・。
ネタ的には、裏のお初な二人と被ってしまっているのですが、
じゃんけんでポジションを決める青島君がなんとなく気に入っていたりします・・・(^^;

室井さんは明確に「抱きたい」人で、青島君は「エッチしたい」人(笑)
その辺、青島君の方が臨機応変な対応が可能というか。
私がダメなので書きませんが、リバOKな人なんじゃないかと(笑)

それほどせずに、青島君は「抱いてくださいよー」と言える男になりそうです。
室井さんのこと、大好きみたいですから(^^)



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