コート












室井は帰宅した青島を見て、驚いて目を見開いた。

それを見た青島が苦笑しながら、「失礼な」と言う。

確かに青島を見て室井は目を剥いたわけだから、失礼ではある。

だが、それも仕方がない。

青島がいつもと違いすぎるのだ。

整えられた髪と、仕事用ではないであろう仕立ての良いスーツ。

シャツはピシッとアイロンが掛けられているし、ネクタイもちゃんとコーディネートされている。

が、一番違ったのは、その上に着ていたコートである。

いつものヨレヨレの緑のコートではなく、真新しい黒のロングコートである。

室井にはどこのブランドだか分からなかったが、恐らくそれなりにいい値段のするコートだろう。

それに驚いている室井に気がついたのか、青島はふざけて一回転して見せた。

「これ、あの事件の時に貰ったコートです」

「ああ、目撃者の彼女に貰ったと言っていたな」

思い出し、室井は頷く。

青島からお礼にコートを貰ってしまったという話を聞いて、何故青島だけに?と嫉妬まがいに思

ったことはそう遠い昔じゃない。

室井が複雑な思いをしていることなど微塵も気がつかない青島が、無邪気に笑う。

「すみれさんが、キャビア行くときは絶対これで来いっていうもんだから」

今日青島はすみれにせがまれて、キャビアを食べに行っていたのだ。

その約束があることを知らずに青島を誘った室井は、その話を聞き苦笑して青島の自宅で帰りを

待っていると告げた。

青島は室井もどうかと誘ってくれたが、―もちろん財布を当てにしてではない、折角の全快祝い

ならすみれも室井がいるより青島と二人の方が、気を使わなくて楽でいいだろうと思ったのだ。

そして、帰って来た青島を見てビックリというわけだ。

何だかちょっと知らない人のようだ。

そんな室井の反応に青島は不安になったようで、自分のコート姿を不安そうに眺めている。

「似合いませんかね?やっぱり・・・」

「そんなことはない」

それにはきっぱり否定する室井。

「似合う。すごく似合ってる。惚れ直した」

今度は青島が唖然とする番である。

突然室井が発した褒め言葉に、青島は軽く頬を染め苦笑する。

「そこまで言われると、逆に嘘臭いです」

照れているのだ。

室井は青島の前まで行き、軽く抱きしめる。

青島のこめかみに口付けて、苦笑する。

「似合っているし、カッコイイと思う。嘘じゃない」

「・・・でも、何か含みのある言い方」

「実はちょっとある」

「?」

「別人みたいで、落ち着かない」

室井が素直に言うと、青島がきょとんとした。

それから苦笑する。

「俺いっつもあのコートばっか着てますからね。見慣れちゃったんでしょうね」

「それもあると思うが・・・」

「はい?」

「君は、あのコートの方が似合う」

今の黒いコートも良く似合っているし、カッコイイと思ったことも本当だ。

だけど室井が好きなのは、あの緑のコートを着て、ポケットに手を突っ込んで笑っている青島な

のだ。

それを伝えると、青島は嬉しそうに笑った。

「嬉しいっす」

室井の背中を抱き返しながら、そう言う。

今度は室井が照れくさくなり、苦笑いをした。

「そうか」

「そのままの俺を好きだって言ってもらった気がする」

「・・・そうだな」

「俺も眉間に皺を寄せた室井さん、大好きですよ!」

お返しとばかりに青島は室井の眉間に口付けた。


























END
(2005.8.27)


表にアップするものがないので、古いお話を発掘して参りました(笑)

これは、宗助様がイラストをつけてくださいました「コート」話の別バージョンです。※GIFTをご参照くださいv
宗助様に二つのお話から選んで頂いて、あまった方だったのですが・・・。
アップするのを忘れて、放置してありました(^^;
再利用です(おいおい)


室井さんがいつもと違う青島君を見てちょっとドキッとしてくれればいいなぁ〜と。
まあ、私もそんな青島君を見たら、ドキッとしますけど(笑)

すみれさんと二人きりの食事。
室井さんは嫉妬しないんだろうかー・・・(お前が言うな)
青島君はもちろん室井さんの中でも、すみれさんの存在は『同士』だといいと思います。
すみれさんも室井さんが気を使ってくれたことを分かっていて
少し早めに青島君を帰してくれているといいなぁ〜。
よく分からないこだわりでした(笑)