■ 桜
仕事が早く終わりそうだったから、青島にメールをいれてみた。
突然だから無理かもしれないが、『今晩、会えないか?』と。
少ししてから、返事が返ってくる。
メールを開いて、室井は微笑した。
それだけで返事が分かるというものである。
しかし、一つ不思議なことがあった。
『駅で待ち合わせしましょう』という青島の提案だ。
いつもならどちらかの部屋で会うことが多い。
飯を食って帰ろうということなのかな、と思いながら室井は『了解』と返信を出した。
定時を少し過ぎて本庁を出ると、室井は駅に向かった。
ガードレールに寄りかかる見慣れたコートを見つけて、思わず表情が緩む。
室井に気がついた青島が、満面の笑みで出迎えてくれた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様…すまない、待たせたか?」
「いいえ〜大して待ってませんよ」
腰を上げると、青島が先に歩き出す。
「飯でも食いにいくのか?」
青島について歩きながら尋ねると、何故か缶ビールが差し出される。
見ると、青島はコンビニの袋を下げていた。
待ち合わせ場所に来るまでに買ってきていたらしい。
一瞬きょとんとした室井に、青島が笑った。
「少し、付き合ってください」
「青島?」
良く分からないが、行きたい場所があるらしい。
機嫌の良さそうな青島に首を傾げながらも、室井は黙って青島に従う。
少し歩いただけで、室井にも青島の目的が何かすぐに分かった。
「……桜か」
桜並木というほど立派なものでは無かったが、数本の桜の木が綺麗な花を咲かせていた。
「ね?綺麗でしょ?」
もうそんなシーズンなんですねぇと言いながら、青島はビールのプルトップを開けた。
そして室井に翳してみせる。
意図を察して、室井も同じようにした。
軽く缶をぶつけて、乾杯する。
「ちょっと、寂しい花見ですけど」
青島は苦笑しながらビールを煽った。
微笑して首を振り、室井も有り難くビールを頂く。
「仕事の最中に偶然見かけてね、綺麗だなぁと思ったから」
だから室井を誘ってくれたのだろう。
「…いい時に、声を掛けたんだな」
たまたま室井の仕事の手が空き青島を誘わなければ、満開の桜を見ることなどなかっただろう。
桜は見頃を一瞬でも過ぎてしまうと、すぐに散ってしまうから。
タイミングが良かったとしか思えない。
室井は桜の木を見上げた。
花見などもう何年もしていない。
忙しいから出来るわけがないと思っていたが、やろうと思えば出来るのだ。
こんなふうに。
「まあ、缶ビール一本で花見もないですけどね。たまにはいいかなと思ったから」
室井が桜から青島に視線を移すと、青島は照れ臭そうに笑った。
「そんなことはない。充分贅沢だ…ありがとう」
素直に礼を言うと、青島ははにかんだまま首を振った。
「どっかで飯食って、俺ん家行きませんか?」
青島の提案に頷いて、もう一度桜を見上げた。
「その前に、もう少しだけ」
青島と一緒に桜を見上げながら、缶ビールに口をつける。
少しだけ温くなってしまっていたが、不思議と美味しく感じられた。
缶ビールが空になるまで、二人して桜を眺めていた。
END
2005.4.10
あとがき
久しぶりに、しっとりとした小話なんぞを・・・。
あんまり面白くないですけど(大問題)
多分皆様とは桜の時期が違うので、微妙にずれているのかなぁと思ったり。
北海道じゃ桜はまだまだ咲きませんので、私的にはフライングなのですが(笑)
桜は見に行くタイミングが難しくないですか?
ちょっと早いと咲いてないし、少し遅れると散ってるし。
「次のお休みに見に行こう!」とか決めてると、間に合わなかったりします。
すぐに散る花だからこそいいのかもしれませんがね〜。
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