テレビを見ていた青島が呟いた。
青島の隣で本を読んでいた室井も、つられて視線をテレビに向ける。
ワイドショーで報道されているのは、とあるカップルの結婚会見。
室井は眉をひそめた。
結婚がしたいということだろうか。
それとも元アイドルの可愛い奥さんが欲しいということだろうか。
どちらにせよ、室井では役者不足だ。
「結婚、したいのか?」
独り言のようなので聞き流した方が良いのかも知れないと思ったが、
室井はどうしても気になったので尋ねてみた。
一人鬱々と悩むと碌なことを考えないからやめてくれと、青島に言われたことがある。
不安に思うことがあったら声に出して確認すること。
何となく二人の間に出来たルールだった。
室井を振り返った青島が、「何、言ってんの?」という顔で室井を見ている。
「室井さんがいるのに、したいわけないでしょ」
あっさりした返事だが、割に嬉しい台詞なのは気のせいか。
室井はホッとしつつも、首を捻る。
「じゃあ、何が『いい』んだ?」
テレビを指して尋ねると、青島は「ああ・・・」と呟いた。
漸く室井の発言の意図が分かったらしい。
青島は苦笑した。
「声に出してました?」
やはり独り言だったらしい。
室井が頷くと、青島は照れ臭そうに頭をかいた。
「ええと、結婚がしたいんじゃなくてですね」
「うん?」
「いや、ほら、こう皆の前でですね・・・」
「・・・結婚会見がしたいのか?」
大分的の外れた室井の発言に、青島は吹き出した。
「俺は何様ですか」
「・・・君が結婚することにでもなったら、湾岸署は大騒ぎしそうだがな」
むしろ俺が大騒ぎするだろうなと思いつつ言うと、青島は「そうですかね?」と首を捻った。
「いや、俺が羨ましいと思ったのは、そんなことじゃなくて」
言いながらまたテレビに視線を向ける。
プロポーズの言葉は?というお決まりの質問に、照れながらも丁寧に答えるタレント。
「幸せそうじゃないですか。こういうの、いいなぁと思います」
そう言って柔らかく笑うから、室井は少しだけ傷ついた。
何となく青島の手を握ると、急に振り返った青島が慌てて首を振る。
「いやっ、違いますよ?俺、今、ちゃんと幸せですよ?」
言葉が足りなくてすみません、と謝ってくれる。
室井がさすがに聞けなかったことに気が付いてくれたらしい。
さすがに、『俺といて幸せじゃない?』とは聞けなかった。
青島の否定に、小さく微笑む。
「それなら、良かった」
ホッとはしたが、一度沈んだ気持ちは直ぐには浮上しない。
それを感じとったのか、青島は室井の手を握り返して、自分の口元に押し当てた。
「ええと、だから・・・俺もあの人たちに負けず劣らず幸せなんですけど・・・」
次第に声が小さくなる。
「こう、皆に祝福されたいって言うんじゃなくて・・・」
後はゴニョゴニョと口の中で呟いた。
「自慢、は、したい、かも」
室井は目を丸くした。
幸せいっぱいの二人が、馴れ初めや互いの好きなところを話す、照れ臭そうな、
だけどとても嬉しそうな姿。
青島はそれが羨ましかったのだ。
何も大勢の人に吹聴して歩きたいわけではない。
ただほんの少しだけ誰かに、聞いて欲しかったのだ。
「俺はこんな素敵な人と恋愛してんだぞーって、ちょっと声に出したくなっただけです」
青島が舌を出してはにかんだ。
何のことはない。
単に室井とのことを誰かに惚気たいと言っているのだ。
予想外の回答に、室井は軽く呆けた。
「・・・室井さん、顔赤いよ?」
指摘されて思わず空いた手で口元を隠すと、青島が弾かれたように笑った。
「室井さんが照れないでくださいよ」
不機嫌なわけではなく、室井の眉間が寄る。
握りっぱなしの青島の手を引っ張ると、素直に傾いてきた身体を抱きしめる。
「一倉でも呼び付けて、いいだけ惚気てやるか」
ぽつりと呟くと、青島が声を立てて笑った。
「いいですね!馴れ初めからみっちり語り聞かせてやりましょう」
さすがの一倉も涙するかもしれない。
もちろん感動してではない。
青島の笑い声を聞きながら、それも楽しそうだなと思う。
思いながらも、室井は違う言葉を口にした。
「やっぱり、ダメだな」
「え?」
きょとんとしている青島の鼻先にキスを贈る。
「勿体なくて、話せない」
強く抱きしめて。
「君とのことは、勿体無くて何一つ話せない」
息を飲んだ青島の唇をゆっくりと塞いだ。
END
(2005.4.10)
あまりにもアレなので、日記にアップしてそのまま消滅させようとしていた小話です。
お客様から嬉しい一言を頂いたので、あっさりSSSに移動(笑)
いいんです。一人でもお好きだと仰っていただければ、それで(開き直るな)