■ 春だから
「起きろ、青島」
青島を揺り起こしながら、何度目かの声を掛ける。
少し乱暴に揺すると、漸くうっすらと目を開けた。
「ほら、朝だぞ」
「…もう少し…寝かせてくださいよ……」
くるんと丸まって、室井に背を向ける。
その背中に溜息を吐きながらも、根気強く起こす。
「遅刻するぞ、青島」
「…春眠…暁を覚えず…」
寝ぼけている割にはしっかりと返事が返ってくる。
会話は一つも噛み合っていないが。
「君が眠いのは春だけじゃないだろう」
思わず突っ込みを入れると、少しの間の後、青島がまたくるりと寝返りを打ってこちらを向いた。
何とか開いているといった程度に、目が開いている。
「…春は特に眠いんですよ」
「気持ちは分かるが、本当に遅刻するぞ」
「たまにはいいじゃないですか」
青島は完璧に遅刻する気らしい。
具合が悪いわけでも寝不足なわけでもない。
単純に春の陽気に誘われて、眠たいだけなのだ。
理由も無いのに遅刻するなど、見逃せる室井じゃない。
「いいわけないだろう」
強引に青島の手を引いて起こす。
「うぇ〜……室井さんの鬼〜」
半眼で睨んでくるが、寝ぼけ眼で全く怖くない。
青島は往生際悪く足で布団を引き寄せて抱え込んだ。
それに呆れながら、苦笑する。
「何とでも言え」
「悪魔。人でなし。ナマハゲ。石頭」
途中微妙な悪口もあった気がするが気にしないことにする。
「気が済んだか?ほら、起きろ」
青島が抱え込んでいる布団を取り上げてしまう。
恨めしそうな視線を寄こすが、適当に受け流した。
「室井さんなんて」
「ハイハイ」
「大好きだ」
「!」
ぎょっとして青島を見ると、思い切り「いーだ」をしてくれる。
ベッドからはい出ると「くそぉ」と呟きながら、そのまま寝室を出ていってしまった。
まだ寝ぼけているらしい後姿を見送る。
可愛いのか可愛くないのか分からない恋人に、室井は溜息をついた。
室井は青島の後を追うように寝室を出ると、濃いコーヒーを落としてやる。
やっぱり恋人は可愛いらしい。
END
2005.3.26
あとがき
起こしてくれて感謝はしているのですが、
寝起きの悪さのために腹を立てている青島君。
ありませんか?そういうこと。
後で目が覚めてから、ちょっと後悔。
そんな青島君もきっと可愛い(どんな青島君も可愛いらしいですー)
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