■ せくはら2
「失礼しまーす」
青島が本庁の捜査一課に入っていくと、本庁刑事たちの妙な注目を集める。
良くも悪くも目立つ男だ。
青島は居心地の悪い視線なんか気にもせずに、真っ直ぐに目的の人物のもとに向かう。
管理官の席に座っていた室井は、少し驚いた顔で青島を見た。
「青島?」
「お疲れ様でーす」
人懐っこい笑みを浮かべると、室井もお疲れ様と言って小さく笑ってくれた。
「どうした」
「袴田課長のお使いです」
これをと言って書類を差し出すと、すぐに中身を確認して頷く。
「ありがとう」
「はい……あっと、じゃあ」
本当はもう少し話していたかったのだが人目もあることだし、室井に迷惑が掛かってもいけないのでさっさと退出することにする。
「青島」
が、逆に室井に引き止められた。
「はい?」
「この後は署に戻るのか?」
「いえ。定時過ぎてるし事件もないから、直帰です」
「そうか。なら、飯でも食いに行かないか?」
思わぬお誘いに、青島の顔が思わず綻ぶ。
「まじっすか?」
「ああ、俺も今日はもう上がれそうなんだ」
嬉しさを隠しもしない青島に、室井はくすぐったそうに笑った。
棚からボタモチ。
たまには袴田課長も役に立つなと、青島は心の中で思った。
「すぐに行くから、喫煙所ででも待っててくれるか?」
「ええっ」
元気良く二つ返事を返して、捜査一課を出る。
どうしても緩みそうになる頬を押さえつつ廊下を歩いていると、ばったりと一倉に出くわした。
ここは本庁なのだから別に可笑しいことではない。
一倉の方は「おや?」と思ったようだった。
「青島?」
「お疲れ様です。課長のお使いで室井さんのとこに来てたんです」
「ああ、なるほど。室井に会えたか?」
「ええ、捜一にいたんで」
じゃあと言って、青島は一倉の横を通り過ぎる。
室井の友人である一倉のことは嫌いじゃないが、話すことなどそれほどない。
「青島」
横を通り過ぎたところでまた声を掛けられたので振り返ると、一倉がニッコリ笑った。
失礼な話だが、ちょっと怖い。
「これから、室井とデートか?」
青島がほんの少しだけビビッていると、そんなことにはお構いなしの一倉が言った。
「…飯、食う約束はしましたよ」
デートという言い方はどうかと思う。
いや、デートに違いはないのかもしれないが、本庁の中では人の耳が気になる。
どう見ても一倉が青島をからかっているようにしか見えないので、ある意味安心なのだが。
「ふぅん。じゃあ、いいものをやろう」
結構です。
そう言いたかったのだが、言ったところで聞く一倉ではない。
そう思って躊躇っているうちに、一倉が財布の中から何かを取り出して、青島に握らせた。
まさか小遣いでもくれる気か?と思ったが、握った感触は札どころか硬貨ですらなかった。
首を捻って手を開いて。
目を見開いた。
絶句している青島に、一倉はニヤリと笑う。
「備えあれば憂いなし、だろ?」
―なんで、既婚者のあんたがこんなモン持ち歩いてるんだよ。
―家にあれば充分じゃないか。
―財布の中に入れてある辺り生々しいんだけど、いつも持ち歩いてんのか?
―大体、警察官ともあろうものが、こんなものを庁内で…。
いくらか意識を飛ばしていた青島だが、戻ってくると慌てて手を握って一倉に差し出す。
「ちょ、い、いらないですよ」
「なんだ、お前ら、いつも生か?」
「ナ…」
一倉のセクハラ発言に青島はまた言葉をなくして、軽く赤面した。
「あ、阿呆なこと言ってないで、受け取ってくださいよ」
「避妊具は避妊だけじゃなくて病気からも守ってくれるんだぞ?」
「俺をいくつだと思ってるんだ!そんなこと今更言われなくても知ってますっ」
激しく論点がずれているのだが、動揺している青島はそれに気がつかない。
「まあ、室井が病気持ちだとしたら、うつした相手はお前しかいないだろうから…」
「俺は病気なんか持ってませんっ」
「外でする時、あると便利だろう」
「そ、外でなんかしませんよ!……一倉さん、一体どこでしてるんですか?」
思わず聞いてしまって、すぐに後悔する。
一倉のにやりとした笑い方がイヤラシイ。
「そりゃあ、お前…」
青島は慌てて首を横に振った。
「いや、いいです。すいません。興味ないです。聞きたくも無いです」
「失礼なヤツだな…まあ、いいから取っとけ」
「だから、いりませんよ!」
「あって困るもんでもないだろ」
「一倉さんに、そんな心配してもらう覚えは無いです」
「何だ、そんなに生がすき…」
「いっぺん、死んで来い!」
青島の叫び声で室井が出てくるまで、不毛な会話は続いた。
END
2004.10.25
あとがき
題名のままです。
それ以上でもそれ以下でもないという、ある意味男らしい作品です。
嘘です。
すいません…。
なんで、こんな話しか浮かばないんだろう(^^;
一倉さんはなんでそんなものを財布にいれておいたんでしょうかねぇ。
愛妻家と信じてやまないので、浮気のためではないはずと思いたいです(じゃあ、何でだ)
本当にいい加減にしないと、一倉さんのファンに怒られそうな気が致します…(滝汗)
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