■ KITTY
みゃあ。
室井の自宅へ遊びに来ていた青島は、ドアを開けて飛び出してきた物体に驚いた。
猫である。
青島でも分かるアメリカンショートヘア。
綺麗な猫だ。
「ああ…すまない、驚かせたな」
お出迎えに驚いている青島に、室井は苦笑した。
そして、ひょいっと猫を抱き上げる。
「一倉の飼い猫なんだ」
青島を部屋にあげながら室井が説明をしてくれる。
「へぇ、一倉さん猫なんて飼ってるんですか」
「夫人が欲しがったそうだが。まあ、何だかんだ言ってあいつも可愛がっているようだぞ」
「意外です。…どうして預かってんですか?」
室井は猫をリビングの床に下ろすと、まっすぐ台所に向かう。
それを見送って、青島は猫と同様リビングの床に腰を下ろした。
触りたくって手を伸ばそうとするが、するりとかわされる。
何度か試すが、指の先だけでも触れさせてはくれない。
むうっと唸っていると、室井がビールを持って戻って来た。
苦笑している。
「懐かないだろう、その猫。一倉にも懐かないそうだ」
「一倉さんにも?」
「ああ、夫人には懐いているらしいけどな」
室井が腰を下ろすと、猫はトコトコと室井の傍に寄っていく。
そして、懐かないという猫が、室井の膝の上で丸くなった。
青島が目を丸くする。
猫の背を撫ぜながら、室井は苦笑を深めた。
「そして、どういうわけか俺にも懐いてるんだ」
夫人には触らせるくせに、主である一倉には指一本触らせないという。
一倉家に遊びに来た人間は大抵この猫に触れないらしい。
「それで、夫人が里帰りの間、俺が預かることになったんだ」
肩を竦める室井に、青島もなるほどと思う。
懐かない猫と二人きりでは、さすがの一倉もしんどかったのだろう。
一倉の気持ちは分かる。
が、室井の膝の上でご満悦な猫を見ていると何だか面白くない。
猫に妬いてどうする、とは思う。
思うが、夫人以外に室井にしか懐かない猫、と思うと余計に面白くない。
「青島?猫、嫌いだったか?」
自然と眉間に力をいれてしまっていた青島に、室井が心配そうに聞いてくる。
青島ははっとしてすぐに笑顔を作った。
「いや、好きです。触らせてくれないのが残念だなーと」
嘘ではないが本当でもない青島の返事に、室井は苦笑した。
「すまないな。本当に何でだろうな…」
そう言いつつ、そっと猫の背を撫でている。
猫は気持ち良さそうに室井の膝の上でくつろいでいる。
青島が複雑な思いでそれを眺めていると、ふと猫が顔を持ち上げ青島を見た。
きょとんとする青島に向かって、ニヤリと笑った。
…実際に猫がニヤリと笑ったとは思えない。
だが、青島の目にはそう見えて、ムカっときた。
大人気なく、猫相手に。
「青島?」
再び怖い顔になった青島に、室井が不思議そうな顔をした。
青島は今度は取り繕わずに、不機嫌面で室井の襟首を掴んだ。
驚いたのは室井と、膝の上の猫である。
室井の身体が傾いたせいで、すぐに室井の膝から逃げていく。
「どっ…」
慌てた室井の唇に、青島は何も言わずにキスをした。
ただただ驚いている室井の唇を好きに貪って、満足すると身体を離した。
「飯、食いましょう」
呆然としている室井に言い放つと、青島は乱暴にビールのプルトップを開けた。
「青島?」
「なんすか」
「怒るなよ?」
「…なんすか」
「もしかして、妬いたのか?」
猫に。
赤面して強張った青島の表情が答えである。
「バカだと思ってるでしょ」
「…いや、まさか」
「嘘だ」
「実は、嘘だ」
「ひでぇ」
「でもバカだと思ったのは君じゃない」
「…?」
「それを聞いて喜んでる俺自身がバカだと思った」
「!」
END
2004.7.16
あとがき
相変わらず、バカップル…。
自分でも他の話は書けないものかと思います(笑)
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