■ killing time


青島は室井と付き合っている。
当然、誰にも秘密だ。
秘密の関係というのは気を遣うものだが、それは浮気や不倫のような後ろめたい関係であればこそだ。
青島と室井は後ろめたいわけではない。
ただ、世間一般に受け入れられるものではないと知っているから公言していないだけで、特別不便なことはなかった。
外でデートをすることは滅多にないが、これも人目を避けているというよりは、たまの休みが重なるならば二人でゆっくりしたいというだけの理由である。
例え二人で歩いていてもそこに不自然な理由があるはずはなく、手を繋ぎでもしない限り白い目で見られることもないから、二人で外出したところで困ることもなかった。
室井との関係が秘めたものであることには不満はないし、困ったこともない。
だが、時々、無性に物足りなさを覚えることはある。

「青島」
膝に乗り上げた青島にされるがままになっていた室井が、読むことを諦めたのか小説に栞を挟んで床に置いた。
「なんですか?」
「それはこちらの台詞だ」
何がしたいんだと呆れたように聞き返されたが、眼差しは優しかった。
好きなようにさせてくれていたのだから、迷惑だったというわけでもないのだろう。
青島は室井の首筋に甘く噛みついた。
「何って…マーキングかな?」
何をしたいというほど強い意思はなく、あえて言葉にするならそれだった。
床に座って本を読んでいた室井の膝に座り、少し襟首を開いて露になった首筋や鎖骨の辺りを舐めたり吸ったり齧ったりして、何がしたかったかというと、単に「これは俺の」と確認していただけである。
マーキングといっても痕を残すことが目的ではなく、どちらかというとどこまで青島の好きにさせてくれるだろうかと実験しているような心持ちだった。
それだって、別に室井の気持ちを疑ってのことではない。
ただそういう気分だったとしかいいようがない。
「今更、必要ないだろう」
室井が苦笑気味に言って、青島の頭を軽く叩いた。
印などなくても室井はとっくに青島のもの。
そういう意味だと分かるから、青島は笑いながら室井の肌を舐めた。
「たまには確認してみるのもいいでしょ」
「別に君がしたきゃしてもいいが」
頭に触れていた室井の指が襟首を滑るから、青島はぞくりと震えた。
「まだ日が高いのにな…」
室井がぽつりと呟く。
高いからどうしたのか、と聞くのは野暮というものか。
明確な情動から積極的に誘ったつもりはないが、その気になられて困るくらいなら、室井に舌を這わせたり齧りついたりはしない。
「無理にしなくてもいいですよ、俺はこうしてれば満足ですから」
歯形も残らないほど優しく首筋を噛みながら囁けば、室井の喉が上下した。
「性質が悪いぞ」
「嘘じゃないですよ」
「なお悪い」
強がりではなく、本気で誘っているわけではないのだとしたら、そちらの方が確かに性質が悪い。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
青島は伸びあがって室井の唇にキスをすると、その身体をそっと押し倒した。
素直に横になった室井は、相変わらずされるがままだ。
「室井さんはじっとしててくださいね」
「何をする気だ?」
「何しよっかな」
笑いながら室井のシャツのボタンを外していく。
露わになった肌に唇を落とせば、室井の手が青島の髪を柔らかく弄んだ。
「なんだか楽しそうだな」
「楽しいですよ、室井さんに触ってんだもん」
「…ずるいな」
首筋や顎のラインに室井の指が滑る。
俺にも触らせろと、その指が伝えてくる。
青島の邪魔をしない程度の愛撫は気持ちがいいし咎めないが、今は主導権を譲るつもりはなかった。
「いい子にしててください」
青島に譲る気がないと悟ったのか、室井は苦笑して襟足に伸びていた手を退いた。
「いい子にしてたら、いいことあるのか?」
「もちろん」
いい子にはご褒美と、相場は決まっているのである。
―まあ、どっちのご褒美か分かんないけどね。
内心で笑いながら、青島は室井にキスをした。










END

2015.7.26


これまた書きたかったところだけ書いた小話でした。
甘噛みする青島君が書きたかっただけなんですが、
それだけではお話ができませんね(当たり前だ)
これ以上どうにもならなかったので、このままアップ。
お暇つぶしにでもなれば幸い!にしても、短いか!(笑)


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