■ 拍手ログ19


何かの気配で、青島は目を開けた。
目の前に室井の顔があった。
何がなんだか分からなからずきょとんとしていると、室井は身を起こし身体を離した。
「おはよう」
「…おかえりなさい」
寝ぼけている青島の噛み合わない挨拶に、室井が小さく笑った。
「ただいま」
青島の頭を撫ぜてソファから立ち上がる。
「起こしてすまない。だが、寝るならベッドに行け」
風邪を引くぞといいながら、スーツの上着を脱いだ。
帰宅したばかりだったことが分かる。
室井の部屋で彼の帰りを待っているうちに、青島は転寝していたようだった。
青島も半身を起こしてソファに座り直した。
室井の気配で目覚めたのかと、今更ながら思う。
だが、目覚めた時、室井は不自然な位置にいなかったか。
近過ぎる距離。
温もりを感じたのは、気のせいではないだろう。
青島は自分の唇に指で触れしばし考え、室井を見上げた。
室井は青島に背を向けて立っていた。
ネクタイを外しながら、リモコンでテレビを点けている。
ニュースでも確認するつもりなのだろう。
「室井さん」
青島が呼ぶと、室井はテレビに視線を向けたまま返事を寄越した。
「なんだ」
「あのー…ちゅーとかしてました?」
振り返った室井は嫌そうに眉を寄せていた。
「その言い方はよせ」
「じゃあ、接吻で」
「いつの時代の人だ…何故、君が照れる?」
聞かれて、今度は青島が顔をしかめた。
室井の言う通りだったからだ。
今更キス一つで騒ぐような関係ではないが、眠っている間にキスされていたのかと思うと照れくさかった。
図星を差されると、余計に照れくさい。
「別に照れちゃいませんよ」
いーだと歯を剥くと、室井が苦笑しまた背を向けた。
「睡眠の邪魔をしてすまない、もう気は済んだ」
床に座りニュースに目を向ける室井を見つめて、青島は小さく唸った。
暗にキスしたことを認めたくせに、もう青島に興味が無さそうな室井に腹が立つ。
青島もキスをされたことは何となく感じとれていたが、そこに青島の意思は無かったし、意識もなかった。
物足りないに決まっている。
「俺は満足してないんですけど」
不服そうな青島の声に、室井がまた振り返った。
少し驚いた顔をしていたが、ふっと目許が和らいだ。
仏頂面の青島に気付いているだろうに、青島を見つめる目は優しかった。
室井は何も言わずに青島に向かって手招きした。
その態度に何だかまた腹が立つ。
「くそぉ…」
ブツブツ文句を言いながら近付く青島に、室井は珍しく歯を見せて笑いながら抱き寄せた。

それ以上は自ら望まなくても与えられる唇を受け止めながら、青島はいつ気が済んだからもういいですと言ってやろうかと考えていた。










END

2014.9.13





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