■ 拍手ログ18


「あーインド行きたいなー」
ベッドに寝そべって煙草を吹かしていた青島がいうから、室井は隣で怪訝な顔をした。
「なんだ突然…いや、また何か見たのか」
「なんすか、またって」
膨れ面を作る青島に、呆れたような視線を投げる。
「この間イタリア映画を観て、イタリアに行きたいって騒いで無かったか」
「あー…でしたっけね」
青島はごまかすように笑って煙を吐いた。
「室井さん帰って来るまで、テレビ見ててさ」
室井が帰宅した時、合鍵を持つ青島は既に部屋で待っていてくれた。
そういえばテレビを見ていたような気はするが、何を見ていたかまではちょっと記憶にない。
会話もそこそこにベッドに連れ込んでしまったから、それで当然だった。
そんなことのために部屋に呼んだわけではなかったが、顔を見たらすぐに欲しくなった。
会うのが久しぶりだったせいかもしれない。
珍しく性急な室井に青島は少なからず驚いたようだったが、嫌がらずに相手をしてくれたから怒ってはいないようだった。
だが、テレビを見ていたというのなら、もしかしたら途中で中断させてしまったのかもしれない。
お詫びにもならないが、ピロートークとしては色気の欠片もない青島の話に付き合う。
「インド映画でも観てたのか?」
自身の腕を枕に青島を見下ろすと、青島が煙草を差し出してくるから有り難く咥えた。
「いや、旅番組だったんですけどね」
「…そうか」
それはまた単純だなと思ったが、余計なことは言わずにおいた。
深く煙を吸い込みゆっくり味わった煙草を青島の唇に戻してやり、ついでに汗ばんだ額に張りついた前髪を梳いてやる。
目だけで笑う青島を可愛いなと思った。
「凄かったんですよ、世界遺産がいっぱいでね。なんて言ったっけな、名前忘れちゃったけど」
「見に行けるものなら行ってみたいな」
「それに本場のカレー!凄い美味そうでした」
「向こうは手で食うんだろ?難しそうだが」
「でも、ちょっと楽しそうっすよ。一回やってみたいです」
「そうか」
「ナンも美味いよなあ…あ、それにキーマカレーも」
「……」
「タンドリーチキンでビールも捨てがたいし」
「青島」
「はい?」
「腹でも空いたのか」
インドに行きたいと言うわりに、世界遺産の名前を思い出せない青島にはほとんど食べ物の記憶しかないようだった。
青島は煙を吐き出して、室井を横目で見て笑った。
「そりゃあ腹も空きますよ、飯も食わないでセックスすりゃあね」
藪蛇だったようだ。
室井は眉を寄せただけで反論はせずに、詫びの意味を込めて唇を重ねた。
青島は小さく笑うと、煙草を持った手を室井の首に回し、態度でもっととねだってくる。気を良くした室井が覆い被さるように口付けても、青島はいやがらなかった。
角度を変えて何度も唇を重ねていると、青島が囁いた。
「室井さん、煙草…」
火が気になるのか、青島の手は宙に浮いていた。
その手から煙草を取り上げ灰皿に押し付けて消してしまうと、青島が声もなく笑った。
キスを止めるという選択肢がない室井がおかしかったのかもしれない。
だけど、素直に室井の背中を抱くからには文句はないようだった。
髪を梳き、頬を撫ぜ、唇で触れれば、青島は気持ち良さそうに目を閉じた。
また可愛いなと思いながら、ベッドサイドの電気を落とし、青島を抱きしめた。

二人が食事にありつくのは、もう少し先のことだった。










END

2014.9.13





template : A Moveable Feast