■ 似た者同士


荒い呼吸のまま見下ろすと、青島はまだ目を閉じたままだった。
しっとりと汗で濡れて上気した頬にそっと触れて撫でた。
青島が微かに笑い、目を開けた。
はにかむような笑みを浮かべる青島の目尻に、涙が溜まっていた。
最中に少し零れたそれは、生理的なものだろう。
確かな快感を感じ取ってくれているのはその身体から伝わっていたが、受け入れるにはそれなりの苦痛も伴うはずだった。
室井がどんなに時間をかけて丁寧に開いても、まだ行為に慣れない身体ではそれで当然だった。
青島は苦痛の伴う快感を、目に涙を浮かべてでも堪えて受け入れてくれている。
濡れた目尻をなぞるように指を這わせ、室井は青島に謝罪の意味のこもったキスをした。
「すまない…」
唐突な詫びに、青島が首を傾げている。
「何がですか?」
自分のせいで涙を流す君を見て喜んでしまってすまない。
などとは、もちろん言えない。
言えば、さすがにドン引きされるだろう。
室井に特別な嗜虐心があるわけでもなかった。
できたら、快感だけ感じていて欲しい。
苦痛など微塵も与えたくはない。
それでも、今の青島は少なからず何かを耐えながら、室井を受け入れてくれていた。
最中に時々見せる苦しそうな表情や、抑えた呻き声、流れ落ちる涙に室井はそれを知る。
そのたび、もっと気持ち良くしてやりたいという使命感と、耐えてでも受け入れてくれているという彼の愛情に対する歓喜で、室井の身体は熱くなった。
我ながらどうしようもない男だと思うから、室井は敢えて言葉にして説明はしなかった。
「大丈夫か?」
そう尋ねて、唇で肌に触れると、青島は小さく吐息を漏らした。
「ん…大丈夫ですよ」
室井の髪に指を差し入れ、引き寄せてくる。
「俺、ちょっと慣れたかな…」
照れくさそうに笑った青島が、「すげぇ、良かったです」などと言うから、室井は身体を強張らせた。
青島の身の内に入り込んだままのそれが素直な反応をする。
未だぼんやりとしている青島に気付かれる前に、室井は身体を退いた。
慣れた、良かったと言ってくれる青島だったが、さすがに今夜これ以上の無理を強いる気にはならなかった。
役目を終えたゴムを片付け後始末をし、ちらりと青島を見下ろせば、青島は室井を見上げていた。
「風呂に入ってくるか?」
「あー…うーん…」
曖昧な返事が返ってきた。
ついと視線が逸らされ、顔を背けられると、表情が見えなくなる。
「青島?」
呼び掛けるが返事はなく、振り返らない。
「どうした?具合悪いか?」
心配になりベッドに手をついて顔を覗き込むようにすると、青島が室井を見上げて小さく笑い抱き付いてきた。
絡み付く青島の腕に引き寄せられ、再びベッドに逆戻りだ。
青島に覆い被さりながら、室井は戸惑い、慌てた。
「あ、青島?」
「もっかい、駄目ですか?」
室井は目を剥いた。
「いや、しかし、君は、その」
予想外過ぎて動転し、ついうっかりしどろもどろになってしまった。
室井が慌てているのが可笑しかったのか、青島は声をあげて笑って室井の首に懐く。
どうにも格好の悪い自分に渋面になりつつ、まだ熱い身体を抱き返した。
青島がそう言ってくれるなら遠慮なくと言いたいが、身体の方が気にかかる。
無理のかかる行為に次の日にまで変調をきたすことがあることを、室井は知っていた。
一度深呼吸して、青島の頭を撫ぜた。
「しかし、身体に負担がかかるだろう」
今度は普通に話せた。
青島が欲しいという気持ちも本当だったら、辛い思いをさせたくないという気持ちも本当だった。
青島は室井の首から少し離れた。
見上げてくる眼差しはまだ濡れていて、それだけで身体が反応してしまう。
情けないと思う反面、当然のこととも思う。
青島が腕の中にいて自分を見つめているのだから、当たり前のこと。
ましてや啄ばむように触れる唇が名前を呼んだりするからなおのことだ。
「でも、俺は今室井さんが欲しいです」
ぐっと言葉に詰まる室井に、青島はキスを繰り返した。
誘われていることくらい分かった。
そして、誘われるまでもない自身の意志の弱さも良く分かった。
理性には自信があったつもりだが、青島相手だとそうでもないらしい。
室井は青島のキスに応えながら、素直にその身体にのめり込んでいった。
青島が小さな声で囁いた。
「もっかい、見せてくださいね」
「ん…?」
聞き返したが、青島は笑って首を振っただけだった。
身体に触れる青島の手に、室井はすぐに聞き逃した青島の言葉の存在を忘れてしまった。

室井は知らなかったが、青島はこの日初めて自分の中で果てる室井の顔を見ていた。
これまでの数回の経験ではそんな余裕は全くなく、気付けば事が終わっているという感じだったのだ。
この日は、多少慣れた分、快感が増しただけではなく、少しだけ余裕もできた。
愛しい人が自分の名前を呼び果てる瞬間を知れたことが、青島には嬉しかったのだ。
初めてもう一度中に来てくれとねだった青島は、もう一度室井の切羽詰まった顔が見たかったのだ。
きっと、泣き顔を見て喜ぶ室井と大差はない。

幸せな恋人たち。










END

2014.2.24


事後が続いて申し訳ありません(笑)
どうしてこの小話を書いたのか思い出せないのですが、
拍手小話のログを整理していて発見したので、もののついでに更新。

自分で書いておいてなんですが、幸せな人たちだなあと思います(呆)
自分が好きな人にとって特別だと実感出来たら嬉しいですよね。


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