■ 与えられるもの
ベッドに沈んだまま未だ呼吸の整わない青島を見下ろす。
青島は目を瞑っており、見下ろす室井の目が暗いことに気づかない。
無意味な行為だと思う。
何も生み出さない。
ただ欲を吐きだすだけの行為だ。
青島との交際そのものだって、いつまで続けられるか分からない。
男同士だ、約束された未来などあるわけがない。
二人ともいい歳だし、女性が愛せないわけでもない。
本来ならこれほど生産性の無い関係に固執している場合ではなかった。
時間の無駄、労力の無駄だ。
心の底からそう思う。
思うのに。
「……また、なんか難しいこと考えてる?」
ふと気付けば、青島が目を開けていた。
額には前髪が張り付いており、それをそっと払ってやる。
そうすると触れた肌の火照りが気になり、額から頬にかけてゆっくりと撫ぜた。
青島が笑った。
「そんなに優しくしてくれなくてもいいですよ」
「俺は優しくなど」
欲望のまま青島を抱くくせに、この行為が、青島との関係が正しいことだとはどうしても思えない。
無意味だと思っているくせに、青島に関係を強いている。
彼に優しくなどした覚えは無かった。
ただ、奪うだけ。
「ねえ、室井さん」
青島が手を伸ばしてくる。
億劫そうに伸びて来る腕を、迎えに行くように距離を詰めた。
なんとか室井の首に腕を回した青島が、少し呆れたように笑った。
青島が何に呆れたのか室井には分からなかった。
「例えばですよ」
「なんだ」
「例えば、明日世界が終るとします」
「…物騒だな」
今度は楽しげに笑った青島が、「例えばね」ともう一度繰り返した。
「明日世界が終るとしたら、最後は俺といたいですか?」
最後の瞬間、少し先の未来もないその瞬間に、室井が望むこと。
そんなことは、一つしかないように思われた。
「いたいな」
至極素直に口を吐いた言葉に、青島は何故か満足そうだった。
「そうでしょう」
「そうだな」
「それなら、それでいいじゃない」
生産性がなくても。
確かな未来がなくても。
ただ傍にいたいという気持ちがあれば、それでいいではないか。
「俺たちは、間違えていないか」
今更なこと、言うべきではないこと、それを知っていながら口にした言葉は、僅かに掠れていた。
室井を身の内に飲みこんだままの青島が、場違いにも屈託なく笑う。
「間違えてませんよ、俺が保証します」
こんな時まで、彼の言葉は室井を正しい道に導く。
「俺は室井さんが好きですよ、だからこれでいいんだ」
室井は青島を抱きしめた。
「そうだな、そうだったな」
「そう、室井さんも俺を大好きですからね」
「その通りだ」
青島の笑い声が耳に響いた。
青島に、何もあげられない。
室井は彼の未来に何一つ確かなものをあげられないのだ。
それがもどかしくて、歯痒い。
想う気持ちが強いからこそ、自分のその想いが青島の時間を、未来を奪っているような気がして許せなかった。
浅ましくも青島の心の全てを望むようなことはせず。
彼の魂にただ純粋に憧れ唯一無二の信頼を寄せた、あの頃のままでいられたら。
そうであったら、どんなに良かっただろう。
仕事も手につかないほど思い詰め、苦しさに耐えきれず縋りつき、懇願し、掻き口説くようにして手に入れた男に、室井は罪悪感を消せなかった。
だけど、青島は間違えていないと言う。
好きだからこれでいいのだと。
常識も理性も捨てて惚れ抜いた男がそう言って笑ってくれるから、室井はその言葉を信じることにした。
そして、そう言ってくれた青島に後悔させない道を進むのが、室井のこれからの使命になる。
青島を一方的に強く想うばかりだった室井は気が付いていない。
当の青島は、奪われるどころか与えられてばかりいる日々に、くすぐったくも甘い喜びを覚えていた。
罪悪感が無くなった室井がそれに気が付く日も近いかもしれない。
END
2014.2.24
なんとなく日記に書いた小話でした。
日記でも書いてますが、室井さんが「時間の無駄」と思っているのは、
室井さんのではなく、室井さんからみた「青島の時間」です。
たまには葛藤する室井さんを。
でも、相変わらずの青島馬鹿ですけれども(笑)
template : A Moveable Feast