■ 拍手ログ15


「青島、起きろ、遅刻するぞ」
数回声をかけると、青島が薄ら目を開けた。
うーと唸り顔をしかめる青島を見れば可哀想だとは思うが、このまま寝ていれば遅刻してしまう。
元旦は休暇の室井と違って、現場の刑事に祝日も祭日も関係ない。
夕べは残業のせいで夜中に室井の部屋に辿り着き、ろくな会話もできないまま室井の隣で眠った青島である。
もちろん寝不足だろう。
ギリギリまで寝かせておいたつもりだが、そろそろ限界だった。
「雑煮を作った、食べるだろ?」
正月には雑煮が食いたいという青島からのリクエストで用意してものだった。
「食べます」
寝ぼけた顔ではっきり返事をする青島に、室井はつい笑ってしまった。
「餅はいくつ食べる?」
「4つ」
「朝からそんなに食うのか?」
「お腹空いた…」
「…用意しておくから、着替えてこい」
胃もたれしないか心配ではあるが、青島が食べられるのであれば構わなかった。
室井は青島が起き上がるのを見届けて、台所に向かった。

向かい合わせでテーブルを囲むと、青島は思い出したように頭を下げた。
「明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
室井も改まって頭を下げる。
「おめでとう。今年もよろしく」
きちんと挨拶を返し、顔をあげて、室井は苦笑した。
「寝る前にも言ってたぞ」
とっくに日付が変わった夜中にやってきてすぐに眠った青島だが、寝る直前にも新年の挨拶をしていた。
「あれ?そうでしたっけ…」
寝ぼけてたかなと青島も苦笑する。
部屋についた途端に眠ってしまうほど疲労していたのに、会いに来てくれたことが嬉しかった。
「ありがとう」
「何がですか?」
意味が分からないという顔をしている青島に首を振り、室井は箸を握った。
「なんでもない、冷めるぞ」
「あ、はいはい、いただきまーす」
「どうぞ」
美味い美味いと凄い勢いで餅にかぶりつく青島に呆れた視線を向けながら、室井も箸を動かした。
「昨日は忙しかったのか?」
「ええ、もう、ケンカの通報ばっかり。新年早々酒飲んで暴れるヤツが多かったみたいで」
「そうか、大変だったな」
「全くですよ、こっちは飲まず食わずで駆けまわってるってのに」
「怪我人は?」
「二人病院に連れて行きましたけど、どっちも軽傷でしたよ」
「不幸中の幸いだな」
「ですね。今日はあんまり通報ないといいんだけど…あ、室井さん」
「なんだ?」
「おかわりあります?」
室井が目を剥くと、青島が空のお椀を差し出してきた。
「まだ食うのか」
「もう二個くらいいけそうです」
「さすがに、食い過ぎだろ」
「昨日夕飯食いっぱぐれたんですよ」
むうっと膨れる青島は本当に空腹だったらしい。
別に室井も食べることに反対しているわけではない。
そんなに食べて腹は大丈夫なのかと心配にはなったが、青島のお椀をひきとって立ち上がった。
「食い終わったら、胃薬飲んでおけよ」
青島が笑顔で頷いた。

出勤する青島を見送りに玄関に向かう。
ブーツを履く緑の背中を見つめ、室井はもう一度礼を言った。
「会いに来てくれて、ありがとう」
振り返った青島が僅かに目を見開き、納得したような笑みを浮かべた。
さっき室井が伝えたかったことをやっと理解したという笑みだった。
「寝床借りて、餅食わせてもらっただけですけどね」
「別にそれで構わない」
会えて良かったと言ったら、青島は笑いながら室井に顔を寄せ、軽く唇を合わせた。
「礼なんか。俺が会いたかっただけだし」
もう一度触れてすぐに離れた青島の腕を掴み、室井はそれじゃ足りないとばかりに青島の唇を塞いだ。










END

2014.2.24





template : A Moveable Feast